僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二十一章

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 真山ライブの十五分間を経て、写真店は再開した。ライブで血色の良くなった五年生の女子の先輩方は、仮撮影した頭部写真を一目見るや大満足したらしく、割り当て時間より一分早く撮影を終えるカップルが続出した。それが積み重なり、ライブで生じた十五分遅れは一時間半のうちに解消し、それ以降も勢いは衰えず、神崎さんと紫柳子さんの撮影が始まる頃には、予約時間を十分前倒しするまでになっていた。神崎さんと紫柳子さんの飛び入りスタッフになれなかったのは残念でも、六年の先輩方の心意気を五年と四年と三年の先輩方が引き継いで行ったことは、胸の内をポカポカにしてくれた。
 神崎さんと紫柳子さんの新郎新婦姿は二時間ぶりという事もあり、大層盛り上がった。ほんの一分だけだがお二人は渡り廊下にも姿を現し、「東校の両陛下」の声を無数に浴びていた。新忍道部も勢ぞろいし、お二人へ盛大な拍手を贈ったのは言うまでもない。王妃を彷彿とさせる格調の高さと新婦の初々しさを融合させた紫柳子さんは、誇張ではなく目も眩むほど美しかった。
 お二人の写真撮影が終了し、新忍道部員は解散した。店舗に一度顔を出さねばならない北斗と別れ、京馬と一緒に中庭へ向かう。開始まで三十分近くあるのに、会場は既に人でごった返していた。
 午後のライブの開始時刻は昨日の十四時とは異なり、今日は十四時半になっていた。二日目の午後を三十分ずらすのは当初から決まっていて、真山によると、教育AIにそうするよう頼まれたらしい。咲耶さんのことだから、二年生八百四十人の全シフトを精査した等の、深い理由があるんだろうな。
 ライブ会場はごった返していても、ステージから最も離れた場所は余裕がまだ少し残っていた。そこに猛と芹沢さんの姿を認めた僕と京馬は、すぐさま二人の元へ駆けつけた。ホントは普段どおり「二人の邪魔になりますなあ」「困りましたなあ」系のお約束を猛に見せつけてから向かいたかったのだけど、観客が刻々と増えてゆく様子に、その時間はないと判断したのだ。それは当たり、猛たちに合流し五分と経たず夕食会メンバーが揃ったにもかかわらず、その頃には僕らのいる場所も満員状態になっていた。そしてついに、
「開始まで二十分ありますが、安全のためこれ以降の中庭への入場を禁止します」
 教育AIのアナウンスが入る。それに合わせ、「二年生校舎の屋外ライブでこの措置が取られたのは湖校始まって以来」との2D速報がステージ上空に浮かび上がった。ライブ開始に遜色ない雄叫びが会場に轟く。それに臆したのか、それとも乗っかろうとしたのかは定かでないが、教育AIは一年時のプレゼン大会のベスト5コントを、ステージを借り突如放送し始めた。いきなりではあってもやはり文句なしに面白く、みんな腹を抱えて笑っていた。ただベスト5の最後の一つがステージに映し出された際、ブーイングまではいかずとも「別のコントを想像してた」「俺も」「私も」系の会話が方々で交わされていた。こちらに視線を投げかける同級生もちらほらいて、大変ありがたいのは間違いないのだけど、ベスト5に選ばれなくて良かったというのが僕の本音だった。が、僕は甘かった。一つのコントは二分しかないから、
『ベスト5コントの所要時間は十分』
 であることと、
『ベスト5コント後に十分の空白がある』
 ことの二つを、完全に失念していたのである。どういうことかと言うと十分の空白の冒頭に、
 ピュラ~~~♪
 との笛の音が中庭に流れたのだ。五つ目のコントが終了し、それを称える拍手が鳴り止んだ中庭に、販売促進業務の一環としてついさっきまで吹いていた横笛の音が、嫌と言うほど響き渡ったのである。そりゃ確かに、牛若丸の販促映像を咲耶さんの判断で自由に使っていいって僕は言ったけど、クリスマス会の七分余興の映像使用権を教育AIが持つことも合意してるけど、それを今やっちゃうの? 中庭にひしめく数百人の生徒と、中庭を見下ろす数百人の生徒と、準ライブ会場を始めとする九カ所の中継映像を見つめる数百人の生徒及び招待客の、合計一千人超えの人達が見守る中で、咲耶さんあなたは今それをやっちゃうんですか? と、僕は心の中で必死になって訴えていた。だが大概の場合、現実とは無情なもの。一度目の笛の音で沸き上がった中庭に再度笛が奏でられ、そしてそれに伴い、二連続定点バク転からの定点バク宙を行う牛若丸の3D映像がステージに浮かび上がったのである。しかもご丁寧に、「ついさっきまで二年生校舎を練り歩いていた牛若丸。届け出は一応、販促活動という事になっている」なんて説明文が、映像の上にわざとらしく掲げられたものだから堪らない。
「「「ギャハハハッッ!!」」」「「「せーの、牛若丸~~!!」」」
 爆笑と歓声が二年生校舎中から聞こえてくるハメになってしまった。そしてそのまま牛若丸は、派手な妖怪退治をステージで繰り広げてゆく。僕は今年の夏に立てた、もう失神しないという誓いを破る寸前まで追い込まれるも、お兄ちゃん凄い凄いと盛んに褒めてくれる美鈴のお陰で、誓いを奇跡的に守ることができていた。
 幸運にも、平安妖怪退治における僕の出番は全シーンの中で最も短かったことと、最後に登場しぬえを見事倒した光源氏が真山だったことの相乗効果により、余興の映像が終わった中庭は「「「真山く~~ん!!」」」の黄色い歓声で埋め尽くされ、誰も僕のことなど覚えていないようだった。そんな会場の状況を、内側も外側も超イケメンの真山は、一段推し進めてくれたのだと思う。ライブ後に僕の話題が出にくくなるよう、皆の注目を自分に集めてくれたのだと思う。なぜなら開始時間まで一分少々あるのに、
「みんな、来てくれてありがとう!!」
 真山がステージに躍り出たからである。女子の絶叫が数百こだましたのち、真山は観客達へ穏やかに語りかけた。小学校時代の自分は、こんなふうに大勢を前にして、一人で歌を歌うなんて想像もできなかった事。でも湖校生になったのが契機となり、新しい自分に生まれ変わった事。そしてそんな自分を、とても気に入っている事。それらを淡々と、しかし溢れる想いを一切隠さず、真山は穏やかに話していったのだ。それは演出ではない、心を許した友人達への打ち明け話であり、そして僕らは友人の打ち明け話に人生で最も感動する、まさしくど真ん中の年齢にいた。真山との親交の有無や男女の性別に関係なく、僕らは心を一つにして真山へ友愛を感じ、そしてそれが最高潮を迎えた瞬間、
「みんな、俺の感謝を受け取ってくれ―――ッッ!!」
 真山のまっさらな心がステージにほとばしった。大音量で流れるイントロを絶叫がかき消し、これ以上の絶叫など無いと皆は感じた。しかし真山の渾身のダンスを一見するや、ステージを臨む全員が悟ったのである。
 
  声は有限でも、
  声に乗せる心は
  無限なのだ

 第十八期生が誕生させた最初の神話として語り継がれてゆく真山の最終ライブが今、始まったのだった。
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