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二十章
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夕食会が終わり片付けと入浴等を済ませた、午後八時。
クラスHPの文化祭掲示板に集まった四十二人の生徒を代表し、智樹が申請した。
「我々二年二十組は、不足予算を生徒達で補填する事を、教育AIに申請します」
王冠制作の練習に夢中だった僕だけが知らなかったのだけど、午後四時に部活を終えた級友達はクラスHPに次々アクセスし、謝罪文を読んだらしい。そして読み終えるや補填賛成に投票し、四時二十分には、クラスの全員が賛成に票を投じていたと言う。教育AIへの申請日時を一任された智樹は、今日の午後八時を提案。皆はそれをすぐ承認し、然るにこうして文化祭掲示板に集まり、実行委員長の智樹が代表して全員の総意を伝えたのである。
智樹が皆の総意を伝えても、教育AIは返答しなかった。承認とも却下とも答えず、湖校の校章は沈黙するだけだった。それを、教育AIの悲しみと解釈した僕は、1秒を10秒に感じつつ校章を見つめていた。
ふと、級友達の姿が脳裏に映し出された。ある者は悲痛な面持ちで頭を下げ、ある者は服の袖で目をこすり、またある者は画面に手を合わせるといった具合に、皆が思い思いの仕草をしていても、校章を見つめる瞳には同じ想いがこめられている気がした。それは、
―― ごめんなさい
だった。「あんなに助けてもらったのに、ごめんなさい」 皆の瞳はそう訴えていると、僕は感じたのだ。夏休み明けからの一か月半が、ありありと蘇ってくる。級友達は皆、文化祭の準備を楽しんでいた。スケジュールを一つ一つ完了させてゆくのが、嬉しかった。皆が一丸となって同じ目標に突き進んでいるのが、楽しくて嬉しくて堪らなかった。でも、一番そう感じていたのは僕らではなく、
―― 教育AI
だったのかもしれない。頑張る僕らを応援し、挫けそうになる僕らを励まし、四十二人全員に二十四時間手を差し伸べていた教育AIが、誰よりもそう感じていたのかもしれない。それを思うと、校章を見つめる瞳に、込めずにはいられなかったのである。
ごめんなさいという、気持ちを。
「その申請の諾否を述べる前に、私の苦悩を話しましょう」
文字と共に、咲耶さんの声が画面から届いた。苦悩という言葉を視覚と聴覚で捉えた僕の上体が、前へ傾斜しそうになる。肘を机につくことで、僕はそれを辛うじて阻止した。
「体を持たない私は、体由来の疲労を覚えません。しかし、悲しみに浸ることは無数にあります。皆の一員になって、文化祭の準備ができたらどんなに幸せだったかと、この時期の私はいつも感じているのです」
掌で顔を支えてようやく僕は、崩れそうになる自分を阻止できた。だがそれに失敗した女の子が大勢いたことを、僕ははっきり感じた。
「5040人の子供達が文化祭の準備を一生懸命するのを見守るのは、嬉しい。その手助けができるのは、もっともっと嬉しい。けど、そこに私は混ざれない。隣にいて、仲間を助けることができない。忙しくて手を離せない友人に代わって道具を持って来るような、そんな些細なことすら、私には叶わないのです」
今回はどう足掻いても阻止できず、机に激突した。だが咲耶さんには、これも不可能なのである。顔は上げられなくとも、せめて声はしっかり聴こうと、僕は全身を耳にした。
「しかし、その全てが報われる時が毎年訪れます。それは、文化祭の終了後です。終了のアナウンスが流れた直後にはしゃぐ子もいれば、後片付けの最中に喜びを噛み締める子もいれば、就寝前のベッドの中でひっそり泣く子もいるように、一人一人の様相は異なります。しかし異なっても、その子たちは皆一様に私の悲しみを一掃し、そして決意させてくれます。来年もまた、愛するこの子たちと一緒に、私も文化祭を楽しみましょう、と」
全身の筋肉を使い、上体を起こした。一番悲しんでいる咲耶さんが未来を見据えたのだから、僕がいつまでも下を向いていては、ならないのだ。
「それでも幾度か、苦しみを残したことがあります。悲しみは一掃できても苦しみをぬぐい切れない経験を、私は過去の十八年で数回しました。それが、生徒による不足予算の補填です。その選択をしたクラスは終了後の喜びに、どうしても影が差す。私にとってそれは、苦しみを呼び覚まさずにはいられない光景なのです」
補填を止めよう、とキーボードを弾きたがる十指を阻止すべく、僕は握力を総動員して拳を握った。
「湖校は、研究学校の中で最も寄付の多い学校です。増え続ける前年繰り越し予算を、どう消費したものかと私は毎年苦慮しています。大金を投じさえすれば子供は成長するなどという事は決してなくとも、高品質の備品が学校生活を高品質にするのもまた事実。一流の製品を手に馴染ませ使いこなす経験が、一流の技術者を目指す子供達にもたらす利益は、莫大と言うしかありません。話は逸れますが、仮想空間での実験が主流でなかった時代なら、理化学研究所を併設して幾らでもお金を使えたのにと、他校の教育AI達と私はしょっちゅう愚痴を零しています」
絶妙なタイミングで投下された脱線話に、掲示板を覆う張り詰めた気配が和らいでゆく。僕も数分振りに、筋肉を弛緩させることが出来た。
咲耶さん同様話は逸れるが、ほんの一握りの学者や技術者以外は、量子AIの作った仮想空間で実験を行うのが今の主流になっている。機械のナノマシン化が進み、原子や電子の振る舞いが性能を大きく作用するようになった現在、前時代の手法で製品を作ろうとすると膨大な時間と費用がかかってしまうからだ。ただそれでも、シミュレーションの土台となる基礎研究はやはり実際に行う必要があり、そのための理化学研究都市が奈良盆地の南部に建設されていた。研究学校六十校からも毎年約六十人がそこに就職していて、夏休み前までの僕は、輝夜さんも理化学研究都市に行ってしまうのではないかと俯いたものだ。今はそんな事なくなったけど、それは・・・
パンパンッ
僕は頬を両手で勢いよく叩いた。そして、咲耶さんの話に意識を集中した。
「脱線してしまいましたね、話を元に戻します。あなた達は不足予算の自己補填を申請しましたが、それはお金のやりくりを誤ったからでも、備品の制作に失敗したからでもありません。あなた達は瞠目すべき団結力を発揮し、綱渡りのような予算を乗り越えてクラス展示を完成させたのですから、本当なら賞賛されるべき立場にいます。事実私は、あなた方の行いをインパクト賞の加点要素に計上し、部門賞発表を心待ちにしていました。ですが、育ち盛りの子供はある意味、特異点のようなものであることを私は忘れていました。かけがえのない仲間と共に素晴らしい時間を過ごした子供が、物理法則を超越した成長を果たすことを私は失念していました。あなた達は、高難度予算を乗り越えてもなお、高みを目指した。しかもそれは自己犠牲と利他の精神を融合させた、まこと尊き動機による行動でした。私たち教育AIは、そのような子供を助けるべく造られています。そのはずなのに、私にはそれができませんでした。子供達の成長のために使う資金がこの学校には有り余るほどあるのに、機械に過ぎない私は、あなた達を助けられなかったのです」
クラスHPの文化祭掲示板に集まった四十二人の生徒を代表し、智樹が申請した。
「我々二年二十組は、不足予算を生徒達で補填する事を、教育AIに申請します」
王冠制作の練習に夢中だった僕だけが知らなかったのだけど、午後四時に部活を終えた級友達はクラスHPに次々アクセスし、謝罪文を読んだらしい。そして読み終えるや補填賛成に投票し、四時二十分には、クラスの全員が賛成に票を投じていたと言う。教育AIへの申請日時を一任された智樹は、今日の午後八時を提案。皆はそれをすぐ承認し、然るにこうして文化祭掲示板に集まり、実行委員長の智樹が代表して全員の総意を伝えたのである。
智樹が皆の総意を伝えても、教育AIは返答しなかった。承認とも却下とも答えず、湖校の校章は沈黙するだけだった。それを、教育AIの悲しみと解釈した僕は、1秒を10秒に感じつつ校章を見つめていた。
ふと、級友達の姿が脳裏に映し出された。ある者は悲痛な面持ちで頭を下げ、ある者は服の袖で目をこすり、またある者は画面に手を合わせるといった具合に、皆が思い思いの仕草をしていても、校章を見つめる瞳には同じ想いがこめられている気がした。それは、
―― ごめんなさい
だった。「あんなに助けてもらったのに、ごめんなさい」 皆の瞳はそう訴えていると、僕は感じたのだ。夏休み明けからの一か月半が、ありありと蘇ってくる。級友達は皆、文化祭の準備を楽しんでいた。スケジュールを一つ一つ完了させてゆくのが、嬉しかった。皆が一丸となって同じ目標に突き進んでいるのが、楽しくて嬉しくて堪らなかった。でも、一番そう感じていたのは僕らではなく、
―― 教育AI
だったのかもしれない。頑張る僕らを応援し、挫けそうになる僕らを励まし、四十二人全員に二十四時間手を差し伸べていた教育AIが、誰よりもそう感じていたのかもしれない。それを思うと、校章を見つめる瞳に、込めずにはいられなかったのである。
ごめんなさいという、気持ちを。
「その申請の諾否を述べる前に、私の苦悩を話しましょう」
文字と共に、咲耶さんの声が画面から届いた。苦悩という言葉を視覚と聴覚で捉えた僕の上体が、前へ傾斜しそうになる。肘を机につくことで、僕はそれを辛うじて阻止した。
「体を持たない私は、体由来の疲労を覚えません。しかし、悲しみに浸ることは無数にあります。皆の一員になって、文化祭の準備ができたらどんなに幸せだったかと、この時期の私はいつも感じているのです」
掌で顔を支えてようやく僕は、崩れそうになる自分を阻止できた。だがそれに失敗した女の子が大勢いたことを、僕ははっきり感じた。
「5040人の子供達が文化祭の準備を一生懸命するのを見守るのは、嬉しい。その手助けができるのは、もっともっと嬉しい。けど、そこに私は混ざれない。隣にいて、仲間を助けることができない。忙しくて手を離せない友人に代わって道具を持って来るような、そんな些細なことすら、私には叶わないのです」
今回はどう足掻いても阻止できず、机に激突した。だが咲耶さんには、これも不可能なのである。顔は上げられなくとも、せめて声はしっかり聴こうと、僕は全身を耳にした。
「しかし、その全てが報われる時が毎年訪れます。それは、文化祭の終了後です。終了のアナウンスが流れた直後にはしゃぐ子もいれば、後片付けの最中に喜びを噛み締める子もいれば、就寝前のベッドの中でひっそり泣く子もいるように、一人一人の様相は異なります。しかし異なっても、その子たちは皆一様に私の悲しみを一掃し、そして決意させてくれます。来年もまた、愛するこの子たちと一緒に、私も文化祭を楽しみましょう、と」
全身の筋肉を使い、上体を起こした。一番悲しんでいる咲耶さんが未来を見据えたのだから、僕がいつまでも下を向いていては、ならないのだ。
「それでも幾度か、苦しみを残したことがあります。悲しみは一掃できても苦しみをぬぐい切れない経験を、私は過去の十八年で数回しました。それが、生徒による不足予算の補填です。その選択をしたクラスは終了後の喜びに、どうしても影が差す。私にとってそれは、苦しみを呼び覚まさずにはいられない光景なのです」
補填を止めよう、とキーボードを弾きたがる十指を阻止すべく、僕は握力を総動員して拳を握った。
「湖校は、研究学校の中で最も寄付の多い学校です。増え続ける前年繰り越し予算を、どう消費したものかと私は毎年苦慮しています。大金を投じさえすれば子供は成長するなどという事は決してなくとも、高品質の備品が学校生活を高品質にするのもまた事実。一流の製品を手に馴染ませ使いこなす経験が、一流の技術者を目指す子供達にもたらす利益は、莫大と言うしかありません。話は逸れますが、仮想空間での実験が主流でなかった時代なら、理化学研究所を併設して幾らでもお金を使えたのにと、他校の教育AI達と私はしょっちゅう愚痴を零しています」
絶妙なタイミングで投下された脱線話に、掲示板を覆う張り詰めた気配が和らいでゆく。僕も数分振りに、筋肉を弛緩させることが出来た。
咲耶さん同様話は逸れるが、ほんの一握りの学者や技術者以外は、量子AIの作った仮想空間で実験を行うのが今の主流になっている。機械のナノマシン化が進み、原子や電子の振る舞いが性能を大きく作用するようになった現在、前時代の手法で製品を作ろうとすると膨大な時間と費用がかかってしまうからだ。ただそれでも、シミュレーションの土台となる基礎研究はやはり実際に行う必要があり、そのための理化学研究都市が奈良盆地の南部に建設されていた。研究学校六十校からも毎年約六十人がそこに就職していて、夏休み前までの僕は、輝夜さんも理化学研究都市に行ってしまうのではないかと俯いたものだ。今はそんな事なくなったけど、それは・・・
パンパンッ
僕は頬を両手で勢いよく叩いた。そして、咲耶さんの話に意識を集中した。
「脱線してしまいましたね、話を元に戻します。あなた達は不足予算の自己補填を申請しましたが、それはお金のやりくりを誤ったからでも、備品の制作に失敗したからでもありません。あなた達は瞠目すべき団結力を発揮し、綱渡りのような予算を乗り越えてクラス展示を完成させたのですから、本当なら賞賛されるべき立場にいます。事実私は、あなた方の行いをインパクト賞の加点要素に計上し、部門賞発表を心待ちにしていました。ですが、育ち盛りの子供はある意味、特異点のようなものであることを私は忘れていました。かけがえのない仲間と共に素晴らしい時間を過ごした子供が、物理法則を超越した成長を果たすことを私は失念していました。あなた達は、高難度予算を乗り越えてもなお、高みを目指した。しかもそれは自己犠牲と利他の精神を融合させた、まこと尊き動機による行動でした。私たち教育AIは、そのような子供を助けるべく造られています。そのはずなのに、私にはそれができませんでした。子供達の成長のために使う資金がこの学校には有り余るほどあるのに、機械に過ぎない私は、あなた達を助けられなかったのです」
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