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二十章
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続いて女子のスケジュールに移るも、それはあっけない程すぐ終わった。男子のスケジュールの、性別の部分を女子に替えれば、それで完成だったのである。ならば一分一秒でも早い方が良いということになり、明日金曜放課後の男女別練習と、それに参加できなかった場合の救済措置の二点をメールに綴り、クラスメイト全員に送信した。すると予想外の事態が発生し、僕は思わず叫んでしまった。
「なんでみんな判を押したように、明日放課後の練習に参加可能だけど日曜の実践練習にもできれば出たいって、こうもすぐ返信して来たの?」
明日の放課後に皆の都合が付いたのは、容易く想像できる。学期間休暇明けから文化祭の準備が本格化するのは毎年の恒例なので、後期初日の今日は部活に顔を出し、週三日の自由日以上に休んでしまう場合の部の規約を確認するのも、恒例行事だったからだ。しかし、日曜の件は不可解。結婚式場を兼ねる神楽殿に入ってみたいと女子が考えるのは納得できても全員と言うのはやはり首を傾げるし、しかも男子全員も同様と来れば、首のひねりに眉間の縦皺を加えざるを得ない。ひょっとして、美鈴が目当てなのだろうか? もしそうなら女子は良いとしても、アホ猿どもは断固拒否しないとな! などと闘志を燃え上がらせた僕の胸中を、夕食会メンバーは察したのだと思う。
「眠留、美鈴ちゃんを一目見たいと願う男子はいるかもしれないが、心配ないと思うぞ」「うん、女子全員で美鈴ちゃんを守るから、安心して」「美鈴ちゃんは神々しいタイプの美少女だから、一学年違う程度じゃ、ひれ伏すのが精一杯じゃないかな」
智樹と那須さんと香取さんが、それぞれ的を射た言葉で僕の心配を取り除いてくれたのだ。美鈴と面識のある久保田と秋吉さんも協力を確約し、残り四人もすぐさま二人に賛同する。妹のいる岡崎は特に張り切ってくれて、それが嬉しくて堪らなかった僕は、日曜午後の件を了承した。次の瞬間、
「日曜午後の合同練習を、成功させるぞ!」
「「「「オオォ―― ッッ!!」」」」
智樹の放った檄に全員が拳を天に突き上げた。合同練習の日程が一日前倒しになったのだからこれで良かったのだと、僕は心から思うことができたのだった。
続いて男女に分かれ、序列戦争の説明方法について話し合った。石塚らのお陰で男子はすぐ目途を立てられたが、女子は手こずっているようだ。とはいえこの件に関し、男子にできることは無い。男子組は駒を先に進め、お辞儀と挨拶等の基本所作の予習に移っていった。
とここで、予想外の事実が判明した。男子の接客責任者の僕がアシスタント役を久保田にお願いし、そして久保田が高レベルの所作を見本として披露した事に、石塚ら三人が意表を突かれた顔をしていたのだ。三人に尋ねたところ、千家さんの初塗装授業の直前に急遽行った礼儀作法の訓練中、三人は自分のことに一杯一杯で、周囲に目をやる余裕がなかったらしい。よって三人が久保田の実力を知ったのは今が初めてであり、そして「これなら明日の訓練もスムーズにいくはず」と、三人は安堵の息を吐いていた。三人の見解は正しかった。久保田が所作を担当し僕がそれを解説した方が、僕一人で全部するより伝わりやすくて当然だからだ。かくなる次第で男子組は明日の予習に、僕と久保田の連携を新たに加えて、練習を重ねていった。
この時点までは多少の紆余曲折があったにせよ、委員達はパワーランチの手綱を握っていたと言える。だがお昼休み終了の予鈴まで残り五分となったころ、切羽詰まった表情をした女子達が全員で僕の名を呼び、そして香取さんが僕にある問いかけをするや、手綱はここにいる十人の手を離れて行った。その問いかけは、これだった。
「去年の十組が学年末ギリギリに辿り着いた、六年時の不公平なクラス分けに関する、研究学校初の推測。あの推測を、明日放課後の女子の初練習で皆に伝えるしか、序列戦争の恐怖に打ち勝つ方法はないように私は感じていたの。私の一存で秋吉さんと水谷さんにあの推測を伝えたら、二人もそれしかないって同意してくれた。ねえ猫将軍君、私たちは、どうすれば良いのかな」
それ以降の十秒間の記憶が、僕にはない。僕の両肩を掴み「戻ってこい眠留!」と叫び続けた智樹によると、
―― 時間の流れが異なる世界
に僕がいるような錯覚を、智樹は覚えたと言う。その直後に僕が取った行動から、それは錯覚ではなく真実だったのだろうと同僚達は口を揃えるが、恥ずかしくて死にそうなためそれは脇に置くこととする。ええっとつまり、この世界に戻って来た僕は、
「香取さん、同じ説明を男子委員にもして欲しい」
と強引な口調すれすれで頼んだ。続いて男子達に素早く体を向け、
「皆、覚悟を決めて!」
強引な口調そのものでそう言い放ち、座る時間も惜しいとばかりに立ったまま2D画面を立ち上げ、北斗と真山と猛と京馬に事と次第のメールを送ったのである。自分のクラスのパワーランチに出席していた真山も含み、四人から一斉に返信を受け取った僕は、五人によるチャットを進めて行った。そしてお昼休み終了の予鈴が鳴り終わると同時に、
「北斗、真山、猛、京馬の合意を得られた。五限終了までに、旧クラスメイト全員をまとめてみせる。香取さん、助力よろしく!」
などと似合わない事この上ない宣言をして、今日の清掃場所に僕は大股で向かったのである。いやホント、思い出しただけで、羞恥心に息の根を止められそうだよ・・・
冗談抜きに心臓が止まりそうだから、話を先に進めることとする。
渾身の集中力を発揮し今日の清掃分担を速攻で終らせた僕は、輝夜さんと昴と芹沢さんに、こんなメールを送った。
『去年の喫茶店の接客業務で、来店した同学年の女子生徒との間に、マウントの取り合いはあったのかな?』
おそらく香取さんが僕より早くメールを出していたのだろう、清掃は終わらせてあるから安心してと冒頭に綴った長文を、三人はさほど間を置かず返信してくれた。すぐ読みたいと騒ぎ立てる本音をねじ伏せ、すべきことを全部終らせてから教室の自分の席に座り、三人の長文を精読してゆく。それらを要約すると、こんな内容になるだろうか。
「なんでみんな判を押したように、明日放課後の練習に参加可能だけど日曜の実践練習にもできれば出たいって、こうもすぐ返信して来たの?」
明日の放課後に皆の都合が付いたのは、容易く想像できる。学期間休暇明けから文化祭の準備が本格化するのは毎年の恒例なので、後期初日の今日は部活に顔を出し、週三日の自由日以上に休んでしまう場合の部の規約を確認するのも、恒例行事だったからだ。しかし、日曜の件は不可解。結婚式場を兼ねる神楽殿に入ってみたいと女子が考えるのは納得できても全員と言うのはやはり首を傾げるし、しかも男子全員も同様と来れば、首のひねりに眉間の縦皺を加えざるを得ない。ひょっとして、美鈴が目当てなのだろうか? もしそうなら女子は良いとしても、アホ猿どもは断固拒否しないとな! などと闘志を燃え上がらせた僕の胸中を、夕食会メンバーは察したのだと思う。
「眠留、美鈴ちゃんを一目見たいと願う男子はいるかもしれないが、心配ないと思うぞ」「うん、女子全員で美鈴ちゃんを守るから、安心して」「美鈴ちゃんは神々しいタイプの美少女だから、一学年違う程度じゃ、ひれ伏すのが精一杯じゃないかな」
智樹と那須さんと香取さんが、それぞれ的を射た言葉で僕の心配を取り除いてくれたのだ。美鈴と面識のある久保田と秋吉さんも協力を確約し、残り四人もすぐさま二人に賛同する。妹のいる岡崎は特に張り切ってくれて、それが嬉しくて堪らなかった僕は、日曜午後の件を了承した。次の瞬間、
「日曜午後の合同練習を、成功させるぞ!」
「「「「オオォ―― ッッ!!」」」」
智樹の放った檄に全員が拳を天に突き上げた。合同練習の日程が一日前倒しになったのだからこれで良かったのだと、僕は心から思うことができたのだった。
続いて男女に分かれ、序列戦争の説明方法について話し合った。石塚らのお陰で男子はすぐ目途を立てられたが、女子は手こずっているようだ。とはいえこの件に関し、男子にできることは無い。男子組は駒を先に進め、お辞儀と挨拶等の基本所作の予習に移っていった。
とここで、予想外の事実が判明した。男子の接客責任者の僕がアシスタント役を久保田にお願いし、そして久保田が高レベルの所作を見本として披露した事に、石塚ら三人が意表を突かれた顔をしていたのだ。三人に尋ねたところ、千家さんの初塗装授業の直前に急遽行った礼儀作法の訓練中、三人は自分のことに一杯一杯で、周囲に目をやる余裕がなかったらしい。よって三人が久保田の実力を知ったのは今が初めてであり、そして「これなら明日の訓練もスムーズにいくはず」と、三人は安堵の息を吐いていた。三人の見解は正しかった。久保田が所作を担当し僕がそれを解説した方が、僕一人で全部するより伝わりやすくて当然だからだ。かくなる次第で男子組は明日の予習に、僕と久保田の連携を新たに加えて、練習を重ねていった。
この時点までは多少の紆余曲折があったにせよ、委員達はパワーランチの手綱を握っていたと言える。だがお昼休み終了の予鈴まで残り五分となったころ、切羽詰まった表情をした女子達が全員で僕の名を呼び、そして香取さんが僕にある問いかけをするや、手綱はここにいる十人の手を離れて行った。その問いかけは、これだった。
「去年の十組が学年末ギリギリに辿り着いた、六年時の不公平なクラス分けに関する、研究学校初の推測。あの推測を、明日放課後の女子の初練習で皆に伝えるしか、序列戦争の恐怖に打ち勝つ方法はないように私は感じていたの。私の一存で秋吉さんと水谷さんにあの推測を伝えたら、二人もそれしかないって同意してくれた。ねえ猫将軍君、私たちは、どうすれば良いのかな」
それ以降の十秒間の記憶が、僕にはない。僕の両肩を掴み「戻ってこい眠留!」と叫び続けた智樹によると、
―― 時間の流れが異なる世界
に僕がいるような錯覚を、智樹は覚えたと言う。その直後に僕が取った行動から、それは錯覚ではなく真実だったのだろうと同僚達は口を揃えるが、恥ずかしくて死にそうなためそれは脇に置くこととする。ええっとつまり、この世界に戻って来た僕は、
「香取さん、同じ説明を男子委員にもして欲しい」
と強引な口調すれすれで頼んだ。続いて男子達に素早く体を向け、
「皆、覚悟を決めて!」
強引な口調そのものでそう言い放ち、座る時間も惜しいとばかりに立ったまま2D画面を立ち上げ、北斗と真山と猛と京馬に事と次第のメールを送ったのである。自分のクラスのパワーランチに出席していた真山も含み、四人から一斉に返信を受け取った僕は、五人によるチャットを進めて行った。そしてお昼休み終了の予鈴が鳴り終わると同時に、
「北斗、真山、猛、京馬の合意を得られた。五限終了までに、旧クラスメイト全員をまとめてみせる。香取さん、助力よろしく!」
などと似合わない事この上ない宣言をして、今日の清掃場所に僕は大股で向かったのである。いやホント、思い出しただけで、羞恥心に息の根を止められそうだよ・・・
冗談抜きに心臓が止まりそうだから、話を先に進めることとする。
渾身の集中力を発揮し今日の清掃分担を速攻で終らせた僕は、輝夜さんと昴と芹沢さんに、こんなメールを送った。
『去年の喫茶店の接客業務で、来店した同学年の女子生徒との間に、マウントの取り合いはあったのかな?』
おそらく香取さんが僕より早くメールを出していたのだろう、清掃は終わらせてあるから安心してと冒頭に綴った長文を、三人はさほど間を置かず返信してくれた。すぐ読みたいと騒ぎ立てる本音をねじ伏せ、すべきことを全部終らせてから教室の自分の席に座り、三人の長文を精読してゆく。それらを要約すると、こんな内容になるだろうか。
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