僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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十九章

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 十分後に行われた三度目の挑戦は、いわゆるオールスター戦だった。全米のプロチームの中から選ばれた最も優秀な八人が、二本角に挑戦したのだ。内二人は狙撃手を務め、二人が映し出されるや観戦者は驚愕した。狙撃手が肩に担いでいたのは、マッハ6強の銃口初速を誇る最新の対物ライフルだったのである。ライブ観戦者達は生粋の銃信仰者でもあり、その人達が最新式対物ライフルの登場を一斉に報じたため、ネットは一時騒然となった。ログの流れが早すぎ、どのような意見が主流なのかを目視できた人はほぼいなくとも、銃信仰者の誰もが信じていた。二本角の新サタンと言えど、秒速2100mを誇る米国最強のライフルに、なすすべなく倒されるのだと。
 戦闘開始の巨大2Dが砦上空に投影される。八人のオールスターがサタンの砦へ殺到し、漆黒の門をくぐるや、狙撃手を両端とする一列横隊を形成。続いてそれは火力の一点集中に適した、凹面鏡の形へ姿を変えた。凹面鏡が眼光という光を集中させた一点の空間に、次元の揺らぎが生じる。これは二本角出現の予兆ゆえ、両端の狙撃手が同時に地面へダイブ。機械制御の三脚がライフルから素早く出て地面にライフルを固定し、狙撃手が揺らめく空間に照準を合わせた。二本角出現前に、万全の態勢が出来上がったのである。ライブ観戦していた人達と、バイタル異常をもたらさぬようCG処理された映像を見ていた人達が、計ったようにときを上げた。だがその直後、二本角の先端が実体化した途端、
 シンッ・・・
 全米に静寂が降りた。元々注目されていた事に加え、最新式対物ライフルが導入されたとの情報が流れたため、二億人近くがCG処理された映像を視聴していたのだ。よってそれは国を挙げての静寂と呼ぶにふさわしい状況をもたらしていたが、
 ゆらり
 新サタンが全貌を現わすなり、それは破られる事となった。ネット配信されていたCG映像は、一目で虚構と分かる画像処理を施されていたにもかかわらず、悲鳴を上げ後ずさる視聴者が続出したのである。それを、生物本能として感じ取ったのかもしれない。米国内務省のメインAIが後に発表したところによると、視聴者の半数強にあたる一億人が悲鳴を上げた瞬間、八人はそれを聴きとったかのように、十分の一秒の誤差もなく一斉に引き金を引いたそうだ。が、
 ゆらり ゆらりゆらり
 闇の蜃気楼壁が三枚出現し、全ての銃弾を吸収する。
 と同時に八人の上空に現れた三枚の闇から銃弾がほとばしり、ゲームオーバーの表示が八つ、映し出されたのだった。
 
 四度目の挑戦は、二つの理由により少々時間を要した。
 一つは言うまでもなく、CG映像の見直し。
 そしてもう一つは3DG本部に殺到した、
「「「あんな化け物を出すな!!」」」
 という、数千万に上る非難だった。寄せられた非難には全米ライフル協会のお偉方や上院議員も含まれ、相応の対応をせねばならなかったのである。三度目の敗退の三十分後、ネットに設けられた会見場に、3DG本部代表が現れた。そしてそこで、驚くべき真実が明かされる事となる。
「二本角の新サタンは、国連本部のSSSランクAIの要請を受け、本部役員と本部メインAIが意見を出し合い制作したモンスターです」
 本部代表によると、3DGに用いられる全てのモンスターは、本部のメインAIが制作していると言う。メインAIには、全世界で行われている3DGの戦闘を精査し、それに世界情勢を加味して、新モンスターを独自に制作する権限が与えられている。もちろんメインAIの上位に本部役員会議を設置し、役員会議の了承を得て初めてモンスターを実装するよう決められていた。ただ二本角には従来にない唯一の例外があり、それは世界情勢の項目に、「国連本部のメインAIの要請」という文字が添えられていた事だった。そう二本角は、世界唯一のSSSランクAIの依頼によって生み出された、モンスターだったのである。
 これは大層な物議を呼び、そして二年以上たった今もそれは継続している。喧々囂々の議論が成される原動力となっているのは、
 ――二本角はヨハネ黙示録九章に登場する闇天使ではないか?
 だった。第六の天使がラッパを吹くと、おびただしい軍勢を率いた四人の闇天使が現れ、人類の三分の一を滅ぼす。二本角はその闇天使に他ならず、数多のサタンと無数のモンスターを従え、人類に襲いかかってくる。これを現実に起こり得る未来と結論付けたから、国連本部のメインAIは、二本角の制作を依頼したのではないか? いやそもそも3DGは、人類の被害を少しでも減らすべく神が降ろした、救済の一つなのではないか? 真摯にそう唱える人達が、欧米には大勢いたのである。
 無論それを一笑に付す人達も多数いた。だがその人達とて、国連本部のメインAIの依頼理由を問われたら、歯切れが悪くなるしかなかった。メインAIは依頼を出したことは認めても、理由に関しては黙秘を貫いたのだ。プログラムを書き換えれば理由を明かしたはずだが、SSSランク量子AIの書き換えには莫大な費用が掛かることと、何よりAIへの信頼を失いたくなかった人類は、それを強行しなかった。かくして二年以上経った今も理由は不明のままであり、よって「二本角は闇天使だ」「いやそんな馬鹿なことがあるか」「馬鹿と言うヤツが馬鹿だ」「お前だって言ってるじゃないかバ~カバ~~カ」系の口喧嘩が、未だネット上で繰り広げられていた。
 話をもとに戻そう。
 二本角への三度目の挑戦が失敗した三十分後、3DG本部代表がネット会見で明かしたことはもう一つあった。それは、米軍が協力を申し出てきた件についてだった。
「三度目の敗退後、本部にペンタゴンから電話がかかってきました。新開発のグレネードランチャーを使ってみないか、と我々は提案されたのです」
 グレネードランチャーを超簡単に説明すると、手榴弾を打ち出す装置、になるだろう。最も小さなものはマシンガンの銃身の下に装備でき、ハリウッド映画にもしばしば登場した。「筋肉隆々の主人公がマシンガンを腰だめ撃ちしたのち、銃身の下に取り付けられた直径4センチほどの筒から榴弾りゅうだんを打ち出す。榴弾は地上5メートルで炸裂し、大量の金属片を地面へ放つ。こうしてヘラクレスの如き主人公は、壁の向こうに隠れた敵残存部隊を見事殲滅した」のような場面に、グレネードランチャーはしばしば使われていたのだ。
 この米軍の提案も、少なくない物議を醸した。しかし闇天使と異なり比較的早く収束し、議論は今現在ほとんど行われていない。その主な理由は、二本角への挑戦を米軍が途中で止めた事にあった。この説明には、戦争のない世界で米国が未だ軍事力を保持している理由から始めなければならないだろう。
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