僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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十一章

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 最終的に二十組には、四十二人以上の生徒が集まった。なぜそれが分かるかと言うと、椅子に座れなくなった女子に場所を譲り、男子が廊下に次々座り始めたからだ。新しくやって来た女の子たちはとても恐縮したが、車座になってワイワイやる男子を見るにつれ、ありがとうと微笑み教室に入って行った。それだけでも野郎どもは高揚したのに、感謝の意を示してくれた女の子に白鳥さんや一条さんも含まれていたとくれば、盛り上がらない訳がない。友人の友人ということでダンス部の早乙女さんもやって来て、トップシックス美少女が勢揃いした時は、廊下に座る男子全員で「雪姫コール」をしたものだった。
 トップシックス美少女は、同級生男子から雪姫と呼ばれていた。雪の結晶は六角形が多く、その形から六花という名も与えられており、それが「六人の美少女」に似ているという事になったのだ。北斗と真山の何気ない会話から北斗が六花を、それを基に真山が雪姫を思い付いたという経緯も追い風となり、雪姫の呼び名はたった一晩で同級生男子に定着した。言うなれば雪姫の命名は、ツートップ美男子の実力を再認識させる出来事でもあったのである。その二人が、
「五人の雪姫の賛同を得られたのだから、心配ないだろう」
「俺と北斗も女の子たちにそれとなく耳打ちしておくから、心配しないでね」
 と太鼓判を押してくれて、僕は心底安堵できた。ただ、
「昴については安心できても、美鈴ちゃんを案ずる気持ちは残っているんだよな」
「猫将軍兄妹のためなら、俺は火の中に躊躇なく飛び込む。眠留、覚えていてくれ」
 眼光鋭くそう口にした二人へ、僕は表情を引き締め、首を縦に振ったのだった。

 そして放課後、早くも心配事が二つ発生した。いやこの場合は、二つの組織に迷惑をかけたと表現すべきだろう。美鈴の兄が二年にいるとの情報が流れ、新忍道サークルと騎士会に一年男子が殺到したのだ。幸い北斗の助言に従い、事情説明のメールを昼休み中に送っていたため、一年男子の殺到は不意打ちではなかったと言える。だが巨大な本部を構える騎士会はまだしも、真田さん達は一年生の対応に貴重な練習時間を割かざるを得なかった。にもかかわらず詫びを入れる僕の肩を、先輩方はほがらかに叩いたのである。
「最後の年となる六年時に、これほど大勢の新一年生が入会を希望する光景を見られたのは、サークル長として嬉しい限りだ」
 信頼と頼もしさを具現化した太くおおらかな声でそう語りかけられた一年生達は、サークル長へ憧憬を一斉に向けた。そんな、嵐丸とどっこいどっこいになった一年生達へ、サークル副長が狼の眼力とドスのきいた声で檄を飛ばした。
「こんだけいりゃ、使い物になる一年坊の二人や三人はいるだろう。おい一年坊主ども、テメェらの中に、自分こそは役に立つ下っ端ですと思ってる奴がいんなら、手ェ挙げろ!」
 一年生達は、二通りの対応をした。サッと挙手した者達と、一瞬臆するも己の弱気を恥じ挙手した者達に、二別されたのである。それこそが知りたかったと満足げに頷く荒海さんに代わり、黛さんがクールイケメンオーラ全開で語りかけた。
「サークル長と副長のお二人は二か月後、新忍道全国大会の埼玉予選に出場する。最上級生であるお二人にとって、それは最初で最後の挑戦となる。一年生達、お二人が練習に臨む姿を手本とし、目に焼き付けるように」
「「「はいっ!」」」
 直立不動でそう応える一年生達へ微笑み、黛さんは真田さんと荒海さんに一礼する。二人は頷き、竹中さんと菊本さんへ三人揃って目を向けたのち、その場から去って行った。憧れが滾々こんこんと湧き出る瞳で三人の背中を見つめる一年生達へ、竹中さんが微笑みかけた。
「真田さんと荒海さんと黛さんは、俺達サークルメンバーの誇りだ。そして湖校には、そんな先輩方が星の数ほどいる。よって新忍道サークルは、明日土曜を入会選考の日とする決定をした。前途ある一年生達に、青春をかける場を一日も早く見つけて欲しい。大切な一年生を託せる部やサークルは他にも沢山あるから、一日も早くそこへ足を運んで欲しい。三人の先輩方は、そう願ったんだな。ここに集まった四十五人のうち、少なくとも四十二人は、明日が最後のサークル参加日となるだろう。心して、見学するように」
「「「はい」」」
 今回の「はい」には、前回の半分の勢いも無かった。入会枠三という数字に、早くも尻込みした一年生が過半数いたのだ。その過半数へ、菊本さんが口を開く。
「新忍道はとりわけ、未来予測を重視する。秀でた未来予測が楽観視を許さず、そのせいで機敏な返答ができなかったなら、それは新忍道にとって素質と呼ぶに値する。今日からコツコツ、伸ばしてゆけばいい」
「「「はいっっ!!」」」
 一回目を超える元気な返事を聞き、菊本さんはニッコリ笑った。寡黙であっても心根の優しい菊本さんの人柄に気づいた一年生達の大部分が、サークル入会を果たせないという現実に、僕の胸はキリリと痛んだ。そんな僕の髪の毛をグチャグチャにしながら、加藤さんは胸をそびやかして言った。
「さあ一年生達、観覧席に移動するぞ。着いて来やがれ!」
「というお調子者キャラを演じているだけで、加藤は頼れる男だ。俺が保証する」
「俺も保証する。途中入会者の俺と緑川を対等に扱う、度量の大きな男だな」
「お前ら、俺をそんなに・・・」
「とまあこんな感じで加藤は感動屋だから」
「感動させたら、ジュースの一本二本は容易くせしめられるだろう」
「おっ、お前ら、それが三人で飲んだジュースの真相なのか!」
「はいは~~い、時間もないから漫才はここらで止めてね。一年生の皆さん、初めまして。マネージャーの三枝木です。今月一日ついたちに入会を許可されたばかりの私は、皆さんに最も近い立場にいると思う。だから、何でも言ってね」
「「「はい、ありがとうございます!」」」
 三年生のトリオ漫才に心をほぐされ、優しく微笑む年上のお姉さんに心を温められた一年生達は、四人へ一斉に腰を折った。僕は胸につき上げるものを堪えきれず何も言えなかったが、北斗と京馬が僕の気持ちを代弁してくれた。
「二年生の七ッ星北斗だ。たとえ二日間だろうと、お前達はサークルの後輩だ」
「という訳で後輩達よ、京馬先輩に着いて来やがれ!」
「いや京馬、それ俺の役目だし」
「そんなに気負わなくても大丈夫っすよ。加藤さんの気持ちは、三枝木さんにちゃんと伝わってますから」
「テメェ京馬、覚悟しろ!」
「望むところです、加藤さん!」
「こらっ、この二大お調子者、調子に乗らないの!」
「す、すまん三枝木!」
「三枝木さんすみませんでした!」
「ふう、変わり身が速いというか素直というか。でもまあ、良しとしましょう」
「「ありがたき幸せ~~」」
 立ったままとはいえ、なんとも堂に入った平伏を即座にしてのけた加藤さんと京馬に、そこかしこから忍び笑いが起こる。しかもそれに気を良くした二人が肩を組み、凱旋パレードよろしく意気揚々と歩き始めたものだから、一年生達は笑いを堪えるのに大層苦労していた。そんな四十五人の後輩達の背中を見つめる僕に、竹中さんが語りかける。
「眠留、どうする」
 体ごと竹中さんへ向け、全身で応えた。
「はい、ぜひ練習を、ご一緒させて下さい!」
 今の僕は、入会した頃とは比較にならぬほどの体力を身に付けている。よって、週二回のサークル活動を週三回に増やしても魔想討伐に支障が出るとは思えないし、そして今日は、それを試す絶好の機会だと感じられたのだ。
「許可する。お前のことだから蛇足にしかならんが」
「神社の仕事に支障が出ないことを第一として、練習に臨めよ」
「北斗、眠留を気にかけてあげてくれ」
「張り切り過ぎて、美鈴ちゃんに心配かけないようにな」
「承知しました」 
 竹中さん、菊本さん、緑川さん、森口さんへ、北斗が一礼する。それを合図に僕らは練習モードへ移行し、更衣室へ駆けて行った。
 ただその中で僕だけは、練習に直接かかわらないことを頭の隅で考えていた。
 美鈴と神社の仕事をこうも気遣ってくれる先輩方へ、僕は何ができるのだろう、と。
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