僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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八章

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 とここまで考えた時、
「ん?」
 僕は首を捻った。何となくだけど、昴が湖校入学以降に自分の能力を皆の前で披露したのは、今日で二度目な気がしたのだ。僕は過去を振り返り、湖校生になってからの日々を丹念にさらってみた。けど今という時間が、僕にそれを許さなかった。
「そろそろお待ちかねの、出し物の時間よ。一組の生徒は準備に入ってね」
 記憶の抽出が一か月と経たぬ間に、教育AIのアナウンスが流れたのである。首を横に振り気持ちを切り替える。
 そして皆と過ごす今に、僕は集中したのだった。

 一組の余興は、コントを前面に出した寸劇だった。お笑いコンビを組むことの多い昼食会の男子メンバーは目を皿にしてそれを見つめ、顔を突き合わせてそれについて論じ合った。さすがに我慢できなくなったのか北斗もそれに加わったが、そんな北斗へ「私をほったらかしにしたわね」なんてふて腐れないのが昴の凄いところ。クリスマス会を楽しい時間にすべく、昴は男子の論評へ熱心に耳を傾け、感想を述べ、自分の見解を伝え、そして花の笑みを振りまいていた。輝夜さんと芹沢さんも阿吽の呼吸でそれに参加してくれたから、僕ら八人は最も活気のあるグループにたちまちなって行った。
 コントを前面に出した寸劇というスタイルは二組以降にも共通していたが、その舞台が体育祭、文化祭、夏休み、寮の肝試しといった感じで各組毎に違っていたから飽きることはなかった。それどころか気づくと七組の余興が始まっており、僕らの番まで残り二十分弱という時間になっていた。慌てた中島が宙を睨み、
「アイ、よろしく!」
 と叫ぶ。十組の観覧席の周囲に、顔の高さほどの蜃気楼壁が形成された。すかさず、
「「「じゃあね~~」」」
 女の子たちが立ち上がり、衣装の入った袋をそれぞれ抱えて、カーテンで仕切られた観覧席後方へ去って行った。組ごとの簡易更衣室は女子二十一人が詰めかけると正直狭いのだけど、それでも嫌な顔ひとつせず女の子たちはそこへ移動してくれた。然るに僕ら男子は、
「ダリャ~」「トゥオリャ~」「根性見せろ~」
 と急いで余興の衣装を身に付けた。僕らが着替え終われば女子は幾つかのグループに分かれ、交代で衣装を替えられるからだ。僕らは先を争い余興用の衣装を身に付け、そんな僕らの気配に女の子たちは軽やかな笑い声を上げ、それが男子の気合いを更に燃え上がらせ、なんて感じに男女の仲の良さが活き、僕らは一分ちょっとで衣装替えを終らせる事ができた。それを、
「「「ありがとう」」」
 更衣室から出てきた女の子たちに称えられ、男子は大いに鼻の下を伸ばした。が、
「「「みなさん、これをお持ちしました」」」
 更衣室に保管されていた刀と槍と法具を女子から受け取るなり、男子は表情を一変させ雄の顔になった。その儀式は、男子のみが身に付ける純白の鉢巻を女子一人一人から手渡された瞬間、最好調を迎えた。輝夜さんから受け取った鉢巻を頭に巻き、きりりと締め上げる。輝夜さんはそんな僕へ、
「眠留くん、行ってらっしゃい」
 潤んだ瞳で告げた。
 この女性を守るため戦場へ赴く戦士になった気概が、胸にせり上がってくる。
 そしてそれは、十組の全男子に共通する事だった。一斉に円陣を組み、
「野郎ども、命を賭けるぜ!」
「「「オオ―――ッッッ!!!」」」
 十組史上最高の雄叫びを、僕らは上げたのだった。

 各組の観覧席は、幅6メートル奥行き15メートルの細長い長方形をしている。よって四台のテーブルを置くとかなり手狭になるのだけど、それでも椅子をテーブルの下に収納すれば、中央の通路の幅を2メートル強に広げることができる。その通路の入り口側に、二十一人の男子が五班に分かれて腰を下ろした。内訳は先頭から眠留班、京馬班、猛班、北斗班、そして真山班だ。名前を冠せられた者が各班の班長に任ぜられているので、僕も一応班長という事になっている。けどすぐ後ろの京馬に、
「団長、足が震えて来ちゃったよ」
 と弱音を吐かれたように、僕だけは団長と呼ばれていた。理由の一つは班の構成人数にあり、それへの不満を僕は今回も口にした。
「京馬は四人の仲間がいるからいいよ。僕なんて仲間が一人もいない、僕だけの班なんだぞ」
 そう、僕の所属する眠留班は班とは名ばかりの、僕一人だけの班だったのである。なのになぜそんな名前が付けられているかと言うと、それは僕を油断させるための北斗の策略。僕はこれで何十回目か知れない、余興の初会合を男子全員で開いた日のことを思い出していた。

 かれこれ、三週間近く前。
 クリスマス仮装会の初HRが開かれた日の、翌日。
 十組の男子全員が校庭に集まり、班分けを主目的とした余興の初会合を開いた。自分の武器が決まればすぐにでも自主練を始められるから先ずは班分けをしよう、と僕らは考えたのだ。
「で、北斗。台本に男子を五班に分けるって書いてあるが、お前はその目星を既に付けているのか?」
 芝生の上で胡坐あぐらをかいた京馬が、北斗と台本へ交互に目をやりながら尋ねた。日差しが燦々と降り注ぐ風のない日だったので、会合場所は校庭の芝生で充分だろうという事になったのである。
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