僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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八章

クリスマス会、1

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 足取り軽く外側へ三歩進み、四拍子目はその場でスキップ。
 足取り軽く内側へ三歩戻り、四拍子目はその場でスキップ。
 再度外側へ三歩進みその場でスキップし、右足で三角形を描き四拍子を取る。そして、
 クルッ
 男女揃ってターン。それぞれが右方向へターンするから、輝夜さんとの間に距離が生まれる。ターンに伴い手も離してしまうので、何とも悲しい。だから、
 パンッ
 ターン終了と同時に頭の横で手を叩く。軽快な音をパートナーに届け、開いてしまった二人の距離を埋めるのだ。そして、
 クルッ
 左へのターンを経て、輝夜さんが正面に戻ってくる。再会を祝し、
 パンッ
 そろって手を叩く。しかし、それでは足らぬとばかりに輝夜さんが右手を差し出す。僕も輝夜さんへ右手を伸ばし指をからめ、一旦体を離すも互いに一歩近づいて、
 フワリ
 僕らは場所を入れ替えた。僕は内側の円で鋭くターン、輝夜さんは外側の円でのびやかにターンし、視線を合わせて拍手。
 と、ここでペアを入れ替えるのが普通なのだけど、湖校のクリスマス会ではなぜか最初のペアだけは、もう一度踊ることになっていた。あふれ出る喜びのままターン、拍手、そして手を取り、
 フワリ
 再び場所を入れ替える。こうして僕らは心の目を片時も離すことなく、ダンスを踊るのだった。

 十組を含む最終グループで当初最も注目を集めていたのは、真山だった。生来の上品さと長い手足と白皙の美貌が、王侯貴族の集う舞踏会の如き優美さを醸し出していたのだ。しかし男女の位置を入れ替える場面を境に、皆の注目は真山の隣のペアへ注がれる事となった。それは、北斗と昴のペア。真山に次いで背の高い北斗と、女子で二番目に背の高い昴は、最初のペアを組んでいたのである。
 注目を浴びるきっかけを作ったのは昴だった。右へのターンで、フラメンコ風のステップを昴は踏んだのだ。すると北斗がすぐさまそれに応じ、完全なフラメンコ調で拍手を返す。ノリノリになった昴はフラメンコ特有の妖艶なターンを決め、挑発的に手を打ち鳴らした。二人に視線を向けていた一部の生徒が、一斉に感嘆の声を上げる。それに釣られ皆が二人を注目するようになり、北斗と昴は更にヒートアップ。二人はボールルームダンスで互いの位置を変え、ヒップホップでターンし、タンゴで再度位置を変え、というふうに、ダンスを目まぐるしく変えていった。その最後を飾るべく昴が満を持して臨んだ、クラシックバレエによる三回転ターン。軸制御がことのほか得意な天才による三回転ターンが、皆の時間を止める。そして次の瞬間、
 ウオオオ―――!!!
 大歓声が上がった。教育AIが気を利かせ昴の拡大3Dを上空に映していたため、それはホールの窓をガタガタ鳴らし壁を振動させる、音響爆弾のような歓声となったのだった。
 という映像を見終わった僕ら昼食会メンバーは、
「全体ダンスの成功を祝し、カンパーイ!」
「「「カンパ――イ!!」」」
「アーンド、メリークリスマース!」
「「「メリークリスマ――ス!!」」」
 ジュースの入ったグラスを、派手に打ち鳴らした。
 
 今は、有志によるフォークダンスの時間。一曲目のマイムマイムは曲のノリの良さもありクラスメイト全員で視線を注いでいたが、二曲目のオクラホマミキサーの途中あたりから会話がチラホラ交わされるようになり、最後のコロブチカで全体ダンスの興奮を思い出した皆は、グループごとに映像を呼び出し盛り上がり始めた。組の代表を務めている人達に悪い気もしたが、三曲連続で踊っているからかそれぞれの世界に没頭しているようだったので、まあいいかという意見に落ち着いた。有志の四人が帰って来たとき並んで座れる席を確保し、ケーキとキッシュを食べ尽くさなければ、それで良いのである。
 ジュースと食べ物がオクラホマミキサーの終盤で届けられたのも、自由な気配が降りた理由の一つだった。サンタの衣装に身を包んだエルフの乙女たちが3Dで装飾された豪奢なカートを押し、美味しそうなケーキやキッシュを持って来てくれたのだから、クリスマス気分が高まっても仕方ないよね。
 とは言うものの、このノリのまま有志の四人を迎え入れるのはいささか失礼だ。けどそこは、さすが十組。有志によるダンスが終わるなり、
「皆さん、四人の勇者へ、今一度拍手を捧げようではありませんか!」
 中島の呼びかけに全員で乗っかり、十組代表を割れんばかりの拍手で迎え入れた。そしてそれ以降は、プログラムで正式に認められた自由時間を、僕らは楽しんだのだった。
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