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三章
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いや厳密には違う、とすぐさま思い返した。無意識であればあるほど高性能化する脊髄反射走法に上乗せし、意図的に体を操っているような、そんな初めての走りをしている気がしきりとしたのだ。喩えるなら脊髄反射が出汁、意図的身体操作が味付け、みたいな感じかなあ。ん? 僕はなぜ、料理に喩えて考えているんだろう?
などと思考を巡らせているうち、バトンパスゾーンが眼前に迫ってきた。松本さんがなんだかギョッとしているみたいだけど、今考えても栓無き事。僕は右手のバトンをそっと出し、松本さんの右掌の上にポンと乗せた。湖校体育祭ではパスミスを避けるべく、バトンは終始右手で持つ事になっているのだ。練習が活き難なくバトンを手渡した僕は進行方向を斜め左に修正し、トラック内側に設けられた安全エリアへ避難する。そして振り返り、ギョッとした。僕は二位を10メートル以上引き離し、100メートルを走っていたのである。これじゃあタイミングを図るのが難しかっただろうな、松本さんに悪いことしたなあ、などと考えていたら、
「「松本さ~~ん!」」
十組の大声援が鼓膜を震わせた。いけないいけない、今はリレーの仲間を応援しなきゃと自分を叱り、僕は第二走者の走りに集中した。
30メートル弱の直線を走り終えた松本さんが、トラックの西コーナーへ飛び込んでゆく。その超短距離ダッシュとコーナーワークに、僕は思わず「スッゲー」と拍手した。バスケットボールはその競技の性質上、極短い距離でトップスピードに乗らねばならない。つまり松本さんなら、最初の30メートルで十全な加速を得ることなど容易かったのである。その後のコーナーも見事で、松本さんはバスケのフットワークを活かし加速をグイグイかけていく。基本的に運動音痴の僕にはあんなこと、一生無理なんだろうなあ。
全長80メートルの西コーナーを抜けると第二走者はすでに100メートル以上走っている事になるが、持久力も必要なバスケ選手にとって、そんなのはお茶の子さいさいだったのだろう。トップスピードをほぼ維持したまま70メートルの南直線を駆け抜け東コーナーへ進入した松本さんは、後続を大きく引き離し第三走者へバトンを渡した。その最中、僕は「十組~!」と絶叫しまくっていた。第二走者の健闘を称えると共に第三走者を応援するためには、絶叫するしか無かったのである。その判断は正しかった。なぜなら第三走者が走り終えるまで、僕はまともな応援を一言もできなかったからだ。
昴は第三走者十人の中の、ただ二人の女子選手だった。それだけでも目が離せないのに、僕は心配で居ても立ってもいられなくなってしまった。理由は、男女の体格差。300メートル走のタイムだけなら男子選手と渡り合えても、体格となるとその差は一目瞭然だったのである。いつもなら昴のスリムなプロポーションに賞賛の念しか抱かないが、今は憂慮の気持ちしか浮かんでこない。か細いこの幼馴染が第三走者になることを阻止しなかった自分に、僕は無限の怒りを覚えていた。が、それはほんの一瞬で消滅する。驚愕のあまり、心配と怒りが吹き飛んでしまったのだ。薄情者ですみません、と土下座したいのは山々だが、僕は胸中声を大にして言い訳した。「だって驚いて当然だよ。昴は今コーナーを、高速ストライド走法で駆け抜けているんだから!」
去年の秋、小学六年生の運動会の一ヶ月後、昴は肩を落として言った。
「眠留のあの大きな歩幅の走り、私どうしても真似できないのよね」
僕が高速ストライド走法を開発し皆の前で披露したのは、去年の運動会が初めてだった。昴はそれに多大な関心を示し、それが嬉しかった僕は、請われるままその仕組みを説明した。だが、残念脳味噌の僕の話では要領を得なかったのだろう。昴は一ヶ月経っても、その仕組みを理解する事ができなかった。自分の役立たずっぷりに「次こそはしっかり説明してみせるぞ」と奮い立ったお陰で、先月猛に解りやすく伝えられたのだけど、昴の願いを叶えられなかった自分を去年の僕は激しく責めた。でもまあ今ふり返ると、それは昴が半ば意図したことだったのかもしれない。昴は僕が運動音痴に苦しんだことを知っていたから、運動神経万能の昴ですら手に負えない走法を僕が独力で編みだしたのだと、印象づけたかったのかもしれない。そうすることで僕を励まし自信を持たそうとしてくれたのかな、と思えたのだ。僕の幼馴染は、そういう人だからね。
とはいえ、既に体得しているのに「どうしても真似できないのよね」と嘘を付く人でも断じてない。昴の言うとおり、去年の時点では身に付けられなかったのだと僕は考えている。ならば、彼女はいつそれを身に付けたのか? 僕は後悔に奥歯を噛んだ。彼女が高速ストライド走法を初めて使ったかもしれない走りを、僕は見ていない。自己ベストをいきなり0.5秒も縮めた女子100メートル決勝の昴を、僕は見逃していたのだ。
午後最初に行われた男子100メートル決勝にベストコンディションで臨みたかった僕は、お昼休みに水分補給をしなかった。その甲斐あって胃の水がタプタプするのを感じず全力疾走できたが、走り終え喉の渇きを我慢する必要のなくなった僕は、冷たいスポーツドリンクをがぶ飲みした。そのとたん腹から不穏な音が聞こえてきて、僕はトイレに駆け込むハメになった。幸い大したことなかったがそのせいで、昴の100メートル決勝を、僕は見逃してしまったのである。せめて映像で確認すべきだったと頭をかきむしるも後悔先に立たず。昴は東コーナーを駆け抜け、僕のいる北直線に進入して来たのだった。
「うお~~」「スゲー!」「「天川さ~ん!」」
白組応援エリア前の北直線で爆発的な加速を見せる昴へ、驚愕と感嘆の声が滝のように降り注いだ。それもそのはず。昴は後続の男子生徒をまったく寄せ付けず走っていた。僕より高度な高速ストライド走法で直線を突っ走っていた。そして安全エリア正面を通過する際、昴は僕に視線を向け「しょうひと、ぎんが」と唇を動かした。僕は立っていられず地面に片膝着き、呟いた。
「そうか、そうだったのか」
謎がとけた。すべて理解できた。銀河の妖精で僕が感覚体を広げたとき、昴を僕の感覚体で包んだとき、昴の心と僕の心に通路が開いた。その通路を介し昴は図らずも、僕という存在を根本的に理解したのだ。風のように走り去る幼馴染みの後ろ姿を片膝立ちで見送りつつ、僕は一週間前の出来事を思い出していた。
先週の月曜、僕と猛と昴は幾つもの偶然が重なり、お昼休みを三人で過ごした。今ふり返れば楽しい時間だったと言えなくもないが、そのとき僕は正直、辟易していた。昴が猛に、僕のヘタレ話を暴露し続けたからである。
「ぎゃははは、もっと教えてよ天川さん」
「もちろんよ、任せて」
三つの総菜パンを平らげデザートのメロンパンを頬張りながら頼む猛に、昴はガッツポーズで応えた。あのう昴さん、今日はこの辺で勘弁して頂けないでしょうか、と内心懇願する僕の胸を、
「あんたねえ、小さいことを気にしないの」
昴は容赦なくえぐった。体は小さくともせめて心は大きくありたいと願う僕にとって、そのセリフは最終兵器のようなもの。僕はいつもどおり頭を垂れ肩を落とし、諦めるしか無かったのである。
その後も昴は僕のヘタレ話をぶちまけ続けた。よくまあこんなに覚えているものだと感心する僕の脳裏に、ある情景が蘇った。そういえば僕に諦念という言葉を教えてくれたのは、この幼馴染だった。もうとことん理解しているから、実践してくれなくていいんだけどなあ・・・
「あのねえ眠留、私だって見ず知らずの人にこんな話はしないよ。龍造寺君だから話すの。ううん、話せるの。『今は違うけど、昔の眠留はそんな感じの子だったのか』って考えられる、龍造寺君にならね」
キョトンとする僕へ、猛が真顔を向けた。
「眠留、なぜ俺がこうも笑っていられるかっつうと、今の眠留は違うことを理解しているからだ。未だ引きずっていて眠留自身がそれを恥じているなら、俺は笑わんよ」
「ほらね、龍造寺君はこういう人なの。私は眠留を、知ってもらうべき人に知ってもらいたいのよ。だから、諦めなさい」
「はい、諦めます」
嬉しいやら照れるやらで、詰まるところ諦めるしかないのだと悟った僕に、昴は優しく微笑む。そんな僕らを交互に見て、猛はしみじみ言った。
「それにしても天川さんは、眠留の心が手に取るように分かるんだね。俺と清良も長い付き合いだが、とてもじゃないが二人のようにはいかないな」
「う、うん、それはその、ええっとなんて言うか・・・」
ほんの数秒前まで滑舌の権化だった昴は、とたんに歯切れが悪くなった。何が昴をそうさせているのか見当つかなかったけど、とにかく今は僕がフォローしなきゃと思い、猛に白状した。
「いや、僕は昴の気持ちを全然理解してあげられないんだ。だから僕ら二人がそういう仲なのではなく、昴がそういう人なのだと僕は考えている。そのせいで僕は昴に寂しい思いをさせているんじゃないかっていうのが、僕の本音だよ」
猛は怪訝と感慨、保身と勇気がせめぎ合っているような顔をしばししたのち、口にした。
「天川さんに心の内を知られても、眠留は嫌じゃないのか?」
人はまったく予想しえなかった状況に直面すると、状況を把握するまで思考が空白化する。
これは、戦略シミュレーションゲームの大家である北斗が好んで使う言葉だ。そして同時にそれは、今の僕の状況を僕に教えてくれた言葉でもあった。猛の質問に、僕の思考は空白化した。つまりそれは、昴に心を知られたせいで不快を覚えたことが、僕には一度もないという事なのだ。この想いを正確かつ慎重に言語化して、猛の問いに答えた。
「昴が隣にいる状況で、僕の考えが昴に全て筒抜けになったとしても、僕はそれを不快だとも恥ずかしいとも感じない。僕が他の人といる時の気持ちや、記憶まで洗いざらいにされたら、さずがに『止めてくれ』と思うけどね」
「眠留、安心して。私は眠留が隣にいるときのみ、眠留の考えていることを感じられるだけなの。だから、約束する。私はあなたが隣にいないとき、心の中を決して覗き見ようとしない。何かの拍子にその機会が訪れたとしても、私はそれを拒否する。眠留、信じてくれるかな」
「もちろんだよ。というか、僕がそれを信じない訳ないって、昴わかってるじゃんか」
一瞬、昴は僕の記憶の中で、最も綺麗な昴になった。つくづく思う。出会ったころから整った顔立ちをしていたけど、近ごろ富に、綺麗になったよなあ。
「気持ちを感じられるのが眠留だけなのも、私の気持ちを感じられないと眠留が思っているのも、私は少しも寂しいと思わない。でもね眠留、恥ずかしいと思うことはあるの。眠留も年頃の男の子なのは理解しているけど、そこは察してほしいな」
昴は頬を赤らめ目を伏せ、両手で心臓の辺りを押さえた。それは、大切な想いを抱きしめるとき昴がする仕草なのだと、僕には手に取るように判った。だが昴、それは端から見たら、男の視線から胸を隠す女の子の仕草にしか見えないぞ! お前は僕を、おとしいれるつもりか!
「て、てめえ眠留、お前なにを考えた! 天川さん、男は確かにしょうもない生き物だ。だがどうか、どうか許してあげてくれ」
猛は血相を変え僕の後頭部を押さえつけ、僕と一緒に何度も頭を下げた。いや違うんだってと抗議するも、四の五の言うなとまったく聞き入れてもらえない。助けを求め顔を上げた僕に、昴は唇だけを動かして言った。
――近々、大きな変化が訪れる気がする。けど忘れないで。私は約束を、きっと守るから。
あの日から丁度一週間経った、今。
北直線を走破した昴が、西コーナーを高速ストライド走法で駆け抜けて行く。その姿に、僕は覚悟を決め呟いた。
「僕の不注意で、翔人の存在を昴に知られてしまった。それについて、僕はどんな罰も受けよう」
そう腹を据えたからだろう。心が穏やかになった僕は、あの走法でコーナーを走る仕組みを、やっと解明する事ができた。
僕は、左足の爪先を左に向けてコーナーを走っていた。進行方向が左なのだから爪先も左に向けて当然なのだと、決めつけて走っていた。しかし昴は違った。昴は左足の爪先を、前に向けたまま走っていた。その代わり体の傾斜角をきつくして、爪先を左へ向けずとも同じ効果を体へもたらし、かつそうする事で、高速ストライド走法の要である骨盤の回転を可能にしていたのだ。その単純明快な解決方法を昴は一瞬で気づき、そしてそれを一発で体得したのである。幼馴染のその破天荒な身体能力に、僕は今更ながら舌を巻いたのだった。
身体能力だけでなく、持久力も桁外れの昴は南直線70メートルを難なく駆け抜け、後続を大きく引き離したまま第四走者にバトンを渡した。グラウンドを割れんばかりの拍手が包む。僕も負けず劣らず、盛大な拍手を贈った。
十組の最終走者は、ストラックアウトで活躍した真山。瞬発力と持久力を兼ね備えることが要求されるサッカーには、300メートルや400メートルに強い選手が多い。真山は優れたサッカー選手だから、走りも魅せてくれるだろうと僕は考えていた。だがそれは、良い意味で裏切られる事となる。なんと真山は、猛に比肩するほど400メートルの得意な男だったのである。
僕の見立てでは真山の走りは、トルク七割バネ三割といったところだろう。トルクは、重さで考えると理解しやすい。例えばここに、軽い素材でできたボールと、中心まで鉛のギッシリ詰まった重いボールがあるとする。その二つのボールを、同じ高さから同じスピードで柔らかい土の上に落としたら、どうなるだろうか。まあ普通に考えたとおり、軽いボールより重いボールの方が、土に深くめり込むこととなる。この『土に深くめり込む力』が、トルクだ。軽いボールも重いボールも、落下速度は同じだった。形も硬さも同じだった。だがただ一つ、トルクだけが違った。重いボールにはトルクがあったため、土の抵抗に抗えた。進行方向へ、より進んで行くことができた。トルクとは、そんな力なのである。
その力が、真山にはある。真山の脚には、強力なトルクがある。だから真山と同じ脚の長さの人が真山と同じペースで脚を動かしても、真山は一歩進むごとにグイッ、グイッと相手を引き離してゆく。そこに派手さは無い。胸のすく軽快感も無いだろう。だが、一歩ずつ着実に体を前へ押し出して行く真山の走りには力強さと、そして何より溢れる逞しさがあった。人は、自分に無いものを持つ人へ憧れを抱く生き物。然るに、力強さや逞しさとは真逆の走りしかできない僕は、真山の走りにどうしようもなく惹きつけられて行った。
「真山―――!!」
後続を20メートル近く引き離した真山がゴールテープを断ち切るまで、僕は声の限りにそう叫び続けたのだった。
などと思考を巡らせているうち、バトンパスゾーンが眼前に迫ってきた。松本さんがなんだかギョッとしているみたいだけど、今考えても栓無き事。僕は右手のバトンをそっと出し、松本さんの右掌の上にポンと乗せた。湖校体育祭ではパスミスを避けるべく、バトンは終始右手で持つ事になっているのだ。練習が活き難なくバトンを手渡した僕は進行方向を斜め左に修正し、トラック内側に設けられた安全エリアへ避難する。そして振り返り、ギョッとした。僕は二位を10メートル以上引き離し、100メートルを走っていたのである。これじゃあタイミングを図るのが難しかっただろうな、松本さんに悪いことしたなあ、などと考えていたら、
「「松本さ~~ん!」」
十組の大声援が鼓膜を震わせた。いけないいけない、今はリレーの仲間を応援しなきゃと自分を叱り、僕は第二走者の走りに集中した。
30メートル弱の直線を走り終えた松本さんが、トラックの西コーナーへ飛び込んでゆく。その超短距離ダッシュとコーナーワークに、僕は思わず「スッゲー」と拍手した。バスケットボールはその競技の性質上、極短い距離でトップスピードに乗らねばならない。つまり松本さんなら、最初の30メートルで十全な加速を得ることなど容易かったのである。その後のコーナーも見事で、松本さんはバスケのフットワークを活かし加速をグイグイかけていく。基本的に運動音痴の僕にはあんなこと、一生無理なんだろうなあ。
全長80メートルの西コーナーを抜けると第二走者はすでに100メートル以上走っている事になるが、持久力も必要なバスケ選手にとって、そんなのはお茶の子さいさいだったのだろう。トップスピードをほぼ維持したまま70メートルの南直線を駆け抜け東コーナーへ進入した松本さんは、後続を大きく引き離し第三走者へバトンを渡した。その最中、僕は「十組~!」と絶叫しまくっていた。第二走者の健闘を称えると共に第三走者を応援するためには、絶叫するしか無かったのである。その判断は正しかった。なぜなら第三走者が走り終えるまで、僕はまともな応援を一言もできなかったからだ。
昴は第三走者十人の中の、ただ二人の女子選手だった。それだけでも目が離せないのに、僕は心配で居ても立ってもいられなくなってしまった。理由は、男女の体格差。300メートル走のタイムだけなら男子選手と渡り合えても、体格となるとその差は一目瞭然だったのである。いつもなら昴のスリムなプロポーションに賞賛の念しか抱かないが、今は憂慮の気持ちしか浮かんでこない。か細いこの幼馴染が第三走者になることを阻止しなかった自分に、僕は無限の怒りを覚えていた。が、それはほんの一瞬で消滅する。驚愕のあまり、心配と怒りが吹き飛んでしまったのだ。薄情者ですみません、と土下座したいのは山々だが、僕は胸中声を大にして言い訳した。「だって驚いて当然だよ。昴は今コーナーを、高速ストライド走法で駆け抜けているんだから!」
去年の秋、小学六年生の運動会の一ヶ月後、昴は肩を落として言った。
「眠留のあの大きな歩幅の走り、私どうしても真似できないのよね」
僕が高速ストライド走法を開発し皆の前で披露したのは、去年の運動会が初めてだった。昴はそれに多大な関心を示し、それが嬉しかった僕は、請われるままその仕組みを説明した。だが、残念脳味噌の僕の話では要領を得なかったのだろう。昴は一ヶ月経っても、その仕組みを理解する事ができなかった。自分の役立たずっぷりに「次こそはしっかり説明してみせるぞ」と奮い立ったお陰で、先月猛に解りやすく伝えられたのだけど、昴の願いを叶えられなかった自分を去年の僕は激しく責めた。でもまあ今ふり返ると、それは昴が半ば意図したことだったのかもしれない。昴は僕が運動音痴に苦しんだことを知っていたから、運動神経万能の昴ですら手に負えない走法を僕が独力で編みだしたのだと、印象づけたかったのかもしれない。そうすることで僕を励まし自信を持たそうとしてくれたのかな、と思えたのだ。僕の幼馴染は、そういう人だからね。
とはいえ、既に体得しているのに「どうしても真似できないのよね」と嘘を付く人でも断じてない。昴の言うとおり、去年の時点では身に付けられなかったのだと僕は考えている。ならば、彼女はいつそれを身に付けたのか? 僕は後悔に奥歯を噛んだ。彼女が高速ストライド走法を初めて使ったかもしれない走りを、僕は見ていない。自己ベストをいきなり0.5秒も縮めた女子100メートル決勝の昴を、僕は見逃していたのだ。
午後最初に行われた男子100メートル決勝にベストコンディションで臨みたかった僕は、お昼休みに水分補給をしなかった。その甲斐あって胃の水がタプタプするのを感じず全力疾走できたが、走り終え喉の渇きを我慢する必要のなくなった僕は、冷たいスポーツドリンクをがぶ飲みした。そのとたん腹から不穏な音が聞こえてきて、僕はトイレに駆け込むハメになった。幸い大したことなかったがそのせいで、昴の100メートル決勝を、僕は見逃してしまったのである。せめて映像で確認すべきだったと頭をかきむしるも後悔先に立たず。昴は東コーナーを駆け抜け、僕のいる北直線に進入して来たのだった。
「うお~~」「スゲー!」「「天川さ~ん!」」
白組応援エリア前の北直線で爆発的な加速を見せる昴へ、驚愕と感嘆の声が滝のように降り注いだ。それもそのはず。昴は後続の男子生徒をまったく寄せ付けず走っていた。僕より高度な高速ストライド走法で直線を突っ走っていた。そして安全エリア正面を通過する際、昴は僕に視線を向け「しょうひと、ぎんが」と唇を動かした。僕は立っていられず地面に片膝着き、呟いた。
「そうか、そうだったのか」
謎がとけた。すべて理解できた。銀河の妖精で僕が感覚体を広げたとき、昴を僕の感覚体で包んだとき、昴の心と僕の心に通路が開いた。その通路を介し昴は図らずも、僕という存在を根本的に理解したのだ。風のように走り去る幼馴染みの後ろ姿を片膝立ちで見送りつつ、僕は一週間前の出来事を思い出していた。
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「ぎゃははは、もっと教えてよ天川さん」
「もちろんよ、任せて」
三つの総菜パンを平らげデザートのメロンパンを頬張りながら頼む猛に、昴はガッツポーズで応えた。あのう昴さん、今日はこの辺で勘弁して頂けないでしょうか、と内心懇願する僕の胸を、
「あんたねえ、小さいことを気にしないの」
昴は容赦なくえぐった。体は小さくともせめて心は大きくありたいと願う僕にとって、そのセリフは最終兵器のようなもの。僕はいつもどおり頭を垂れ肩を落とし、諦めるしか無かったのである。
その後も昴は僕のヘタレ話をぶちまけ続けた。よくまあこんなに覚えているものだと感心する僕の脳裏に、ある情景が蘇った。そういえば僕に諦念という言葉を教えてくれたのは、この幼馴染だった。もうとことん理解しているから、実践してくれなくていいんだけどなあ・・・
「あのねえ眠留、私だって見ず知らずの人にこんな話はしないよ。龍造寺君だから話すの。ううん、話せるの。『今は違うけど、昔の眠留はそんな感じの子だったのか』って考えられる、龍造寺君にならね」
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「眠留、なぜ俺がこうも笑っていられるかっつうと、今の眠留は違うことを理解しているからだ。未だ引きずっていて眠留自身がそれを恥じているなら、俺は笑わんよ」
「ほらね、龍造寺君はこういう人なの。私は眠留を、知ってもらうべき人に知ってもらいたいのよ。だから、諦めなさい」
「はい、諦めます」
嬉しいやら照れるやらで、詰まるところ諦めるしかないのだと悟った僕に、昴は優しく微笑む。そんな僕らを交互に見て、猛はしみじみ言った。
「それにしても天川さんは、眠留の心が手に取るように分かるんだね。俺と清良も長い付き合いだが、とてもじゃないが二人のようにはいかないな」
「う、うん、それはその、ええっとなんて言うか・・・」
ほんの数秒前まで滑舌の権化だった昴は、とたんに歯切れが悪くなった。何が昴をそうさせているのか見当つかなかったけど、とにかく今は僕がフォローしなきゃと思い、猛に白状した。
「いや、僕は昴の気持ちを全然理解してあげられないんだ。だから僕ら二人がそういう仲なのではなく、昴がそういう人なのだと僕は考えている。そのせいで僕は昴に寂しい思いをさせているんじゃないかっていうのが、僕の本音だよ」
猛は怪訝と感慨、保身と勇気がせめぎ合っているような顔をしばししたのち、口にした。
「天川さんに心の内を知られても、眠留は嫌じゃないのか?」
人はまったく予想しえなかった状況に直面すると、状況を把握するまで思考が空白化する。
これは、戦略シミュレーションゲームの大家である北斗が好んで使う言葉だ。そして同時にそれは、今の僕の状況を僕に教えてくれた言葉でもあった。猛の質問に、僕の思考は空白化した。つまりそれは、昴に心を知られたせいで不快を覚えたことが、僕には一度もないという事なのだ。この想いを正確かつ慎重に言語化して、猛の問いに答えた。
「昴が隣にいる状況で、僕の考えが昴に全て筒抜けになったとしても、僕はそれを不快だとも恥ずかしいとも感じない。僕が他の人といる時の気持ちや、記憶まで洗いざらいにされたら、さずがに『止めてくれ』と思うけどね」
「眠留、安心して。私は眠留が隣にいるときのみ、眠留の考えていることを感じられるだけなの。だから、約束する。私はあなたが隣にいないとき、心の中を決して覗き見ようとしない。何かの拍子にその機会が訪れたとしても、私はそれを拒否する。眠留、信じてくれるかな」
「もちろんだよ。というか、僕がそれを信じない訳ないって、昴わかってるじゃんか」
一瞬、昴は僕の記憶の中で、最も綺麗な昴になった。つくづく思う。出会ったころから整った顔立ちをしていたけど、近ごろ富に、綺麗になったよなあ。
「気持ちを感じられるのが眠留だけなのも、私の気持ちを感じられないと眠留が思っているのも、私は少しも寂しいと思わない。でもね眠留、恥ずかしいと思うことはあるの。眠留も年頃の男の子なのは理解しているけど、そこは察してほしいな」
昴は頬を赤らめ目を伏せ、両手で心臓の辺りを押さえた。それは、大切な想いを抱きしめるとき昴がする仕草なのだと、僕には手に取るように判った。だが昴、それは端から見たら、男の視線から胸を隠す女の子の仕草にしか見えないぞ! お前は僕を、おとしいれるつもりか!
「て、てめえ眠留、お前なにを考えた! 天川さん、男は確かにしょうもない生き物だ。だがどうか、どうか許してあげてくれ」
猛は血相を変え僕の後頭部を押さえつけ、僕と一緒に何度も頭を下げた。いや違うんだってと抗議するも、四の五の言うなとまったく聞き入れてもらえない。助けを求め顔を上げた僕に、昴は唇だけを動かして言った。
――近々、大きな変化が訪れる気がする。けど忘れないで。私は約束を、きっと守るから。
あの日から丁度一週間経った、今。
北直線を走破した昴が、西コーナーを高速ストライド走法で駆け抜けて行く。その姿に、僕は覚悟を決め呟いた。
「僕の不注意で、翔人の存在を昴に知られてしまった。それについて、僕はどんな罰も受けよう」
そう腹を据えたからだろう。心が穏やかになった僕は、あの走法でコーナーを走る仕組みを、やっと解明する事ができた。
僕は、左足の爪先を左に向けてコーナーを走っていた。進行方向が左なのだから爪先も左に向けて当然なのだと、決めつけて走っていた。しかし昴は違った。昴は左足の爪先を、前に向けたまま走っていた。その代わり体の傾斜角をきつくして、爪先を左へ向けずとも同じ効果を体へもたらし、かつそうする事で、高速ストライド走法の要である骨盤の回転を可能にしていたのだ。その単純明快な解決方法を昴は一瞬で気づき、そしてそれを一発で体得したのである。幼馴染のその破天荒な身体能力に、僕は今更ながら舌を巻いたのだった。
身体能力だけでなく、持久力も桁外れの昴は南直線70メートルを難なく駆け抜け、後続を大きく引き離したまま第四走者にバトンを渡した。グラウンドを割れんばかりの拍手が包む。僕も負けず劣らず、盛大な拍手を贈った。
十組の最終走者は、ストラックアウトで活躍した真山。瞬発力と持久力を兼ね備えることが要求されるサッカーには、300メートルや400メートルに強い選手が多い。真山は優れたサッカー選手だから、走りも魅せてくれるだろうと僕は考えていた。だがそれは、良い意味で裏切られる事となる。なんと真山は、猛に比肩するほど400メートルの得意な男だったのである。
僕の見立てでは真山の走りは、トルク七割バネ三割といったところだろう。トルクは、重さで考えると理解しやすい。例えばここに、軽い素材でできたボールと、中心まで鉛のギッシリ詰まった重いボールがあるとする。その二つのボールを、同じ高さから同じスピードで柔らかい土の上に落としたら、どうなるだろうか。まあ普通に考えたとおり、軽いボールより重いボールの方が、土に深くめり込むこととなる。この『土に深くめり込む力』が、トルクだ。軽いボールも重いボールも、落下速度は同じだった。形も硬さも同じだった。だがただ一つ、トルクだけが違った。重いボールにはトルクがあったため、土の抵抗に抗えた。進行方向へ、より進んで行くことができた。トルクとは、そんな力なのである。
その力が、真山にはある。真山の脚には、強力なトルクがある。だから真山と同じ脚の長さの人が真山と同じペースで脚を動かしても、真山は一歩進むごとにグイッ、グイッと相手を引き離してゆく。そこに派手さは無い。胸のすく軽快感も無いだろう。だが、一歩ずつ着実に体を前へ押し出して行く真山の走りには力強さと、そして何より溢れる逞しさがあった。人は、自分に無いものを持つ人へ憧れを抱く生き物。然るに、力強さや逞しさとは真逆の走りしかできない僕は、真山の走りにどうしようもなく惹きつけられて行った。
「真山―――!!」
後続を20メートル近く引き離した真山がゴールテープを断ち切るまで、僕は声の限りにそう叫び続けたのだった。
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帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
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異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
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