僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二章

ストラックアウト

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「設置が終わったようだぞ!」
 誰かが叫んだ。十組の選手達をクラスメイトが目を皿にして見つめる。フリースローを担当するペアが地面に座り、ストラックアウトを担当するペアがサッカーボールに近づいてゆく。そして男子は少し離れた場所に控え、女子がボールの前に立った。十組は、女子が先行だからね。
 女子が先攻なのは各組共通ではない。例えばお隣の九組のように、女子サッカー部員はいても男子サッカー部員のいない組は、男子を先行にするのが一般的だった。十組には女子サッカー部員がいないので、ソフトボール部の斎藤さんが簡単な先攻を、そして男子サッカー部の真山が難しい後攻を受け持つことになっていた。
 ピ――ッ
 競技開始のホイッスルが鳴る。それを合図に、サッカーゴール全体が点滅を始めた。これは、ゴールのどこにシュートしても良いという意味。斎藤さんが慎重に一球目を蹴る。ボールは地面をコロコロ転がり、11メートル先のゴールへ吸い込まれてゆく。そしてサッカーゴールの上に、巨大なまるが3Dで映し出された。
 「「「ワァァ――!」」」
 クラスが沸き立った。と同時にグラウンド全体が沸き立った。見渡すと全てのゴールの上に、大きな〇が浮かび上がっていた。一球目を失敗したクラスが一つも無かったのである。それを称え、一年生全員でリズムの合った拍手をした。
 ボールがもとの位置に戻され、二球目が始まる。今度は、ゴールの右半分がピコピコ点滅していた。斎藤さんが落ち着いて二球目を蹴る。地を走るボールが右半分へ消えて行き、〇が映し出された。二十個の大きな〇に、またもや全員で拍手。その後、左半分がピコピコ点滅する三球目も、三分割した真ん中が点滅する四球目も二十個の〇が浮かんだので、一年生全員が浮かれ騒いでいた。
 しかし五球目で変化が訪れる。上下に二分割されたゴールの上半分が点滅しているという、ボールを上に蹴りあげなければならない場面で、バツが四つ浮かび上がったのである。そのうちの一つが隣の九組だったので、十組の生徒も固唾をのみ上空を見あげた。すると上空から、四人の可愛いキューピットが舞い降りてきて、バツに向かって矢を射て、それを消し去ってくれた。二回使用できるキューピットのサポートを各組が使ったのだ。その愛くるしい姿に、
「きゃ~」「可愛い~」「ありがとう~」
 みんな大いに盛り上がっていた。う~むやっぱ、3Dってありがたいなあ。
 キューピットに上空から見守られ、九組後攻の女子が進み出てきた。するとクラスの垣根を越えて、
「「「一条さ~ん」」」
 の大声援があがった。女子サッカー部の一年長を勤める、凛々しく見目麗しいこの女性は、女子生徒達から絶大な人気を集めているのだ。一条さんは危なげなくボールを蹴り、ゴールの上に巨大な〇を浮かび上がらせた。一条さんコールが再度、盛大に湧き起こる。それに合わせ、九組先攻の男子が地面に片膝つき、ナイトの礼を一条さんへ捧げた。僕らは再びクラスの垣根を越え、礼節ある九組先攻へ拍手を贈ったのだった。
 続く六球目、今度は十組がキューピットのサポートを使った。対角線で仕切られたゴールの右上部分に難なくボールを叩き込んだ真山へ、斎藤さんが膝を折り淑女の礼をとる。そんな二人は十組だけでなく、九組や八組からも盛大な拍手を贈られていた。
 ちなみにボールは長さ3メートルの衝撃吸収ロープで地面と繋がっており、遠くまで飛んで行くことはない。3メートルのロープがピンと張ると同時に、3Dのボールがその先を引き継ぐのだ。こんな凝った方法がわざわざ採用されている理由はずばり、この方が盛り上がるから。3Dにすれば、強く蹴り出されたボールがゴールを割ってからも減速せず突き進み、そのまま空の彼方へ消えて行くという演出が可能になる。ウチの真山が蹴ったボールがまさにそれだったので、僕らは声を揃えてお約束の「「「ドッカ――ン!」」」と叫んだ。メッッチャクチャ気分爽快だった。
 しかし七組は、ヘルプに入った後攻がシュートを外したらしい。この場合、キューピットのサポートが残っていればそれを使うことで、Xを〇に変えることができる。だがペナルティーとして、先攻は退場しなければならない。七組はキューピットのサポートが残っていたのだろう、ほどなくゴール上のXが〇に変わった。そして同じようなクラスが、他にも三つあったようだ。おそらく次の七球目から、脱落するクラスが出てくるんだろうな。
 予想が的中し七球目、四分割されたゴールを割れなかった2クラスが脱落した。続く八球目の九分割で、更に8クラスが脱落。ウチの組も斎藤さんが二度目の失敗をして先攻を降りた。サッカー部員でないのに八球目まで先攻に留まった斎藤さんを、僕らは大いなる拍手をもって称えた。
 残り10クラスとなり、上空に10クラス分のゴールが3Dで映し出される。決勝へ進めるのは白組の上位3クラスと赤組の上位3クラスの、計6クラスのみ。お隣の九組も白組側の5クラスの中に残っていたので、2クラス合同の即席応援団を僕らは結成した。いや実際、ウチの真山とお隣の一条さんは、声援を贈らずにはいられない素晴らしいプレーヤーなのだ。八球目も、九球目も、そして十球目も、二人は九分割されたゴールへ臆することなく強烈なシュートを叩き込み、大きな〇を浮かび上がらせた。その姿に女子の大半が涙を流し、男子全員が声を枯らした。そして十一球目、二人同時に蹴り出したボールが揃って空の彼方へ消えて行った数秒後、白組側の上空高くに映し出された四つの3D映像のうち一つが消滅し、決勝へ進出する3クラスが決定する。その中に九組と十組のゴールを認めた僕らは、この日一番の爆発的な歓声をあげたのだった。

「大天使のサポートを使わず決勝に残ったのは、6クラス中4クラス。十組と九組も使わなかったから、どちらかは上位3クラスに入ると俺は思う」
「俺も北斗と同じ意見だ。真山と一条さんなら、絶対やってくれるだろう」
「ええ、そうだといいわね。それにしても真山君と一条さん、素敵だった。それに二人は何だかとっても、お似合いなのよね!」
「清良、お前そういう話、ホント好きだよな」
「あら龍造寺君。龍造寺君と芹沢さんだって、とってもお似合いよ」
「白銀さん、それを言うなら白銀さんと」
「ねっ、ねえねえみんな、そろそろフリースローが始まるみたいだよ、ほら!」
 話が妙な方向へ進みそうだったので、僕は半ば強引に皆の視線をグラウンドへ向けさせた。体育祭開始直後、僕らは横12メートル縦15メートルの十組用応援エリアに、男女分かれて整然と座っていた。けど選手を送り出したり帰ってきた選手を迎えたりしているうち、みんな自然と好きな場所に腰をおろすようになった。これも、教師がいないからこその自由なのだろう。
「お~い、昴~」
 昴がおらず、どことなく寂しげな北斗と輝夜さんを気遣い、僕はグラウンドの昴に手を振った。フリースローの準備が丁度終わったらしく、昴はこっちに向かって両手を振り返してくれた。北斗と輝夜さんも、両手を大きく振りそれに応えている。昴に関してだけは大胆でなくなる北斗と、先陣を切るタイプではない輝夜さんへ、もっと気を配らなきゃなと僕は改めて思った。妙な方向へ進みつつあった会話を中断させる意図も、もちろんあったけどね。
 そのとき突然、 
 キュ~~ン♪
 キュラ  キュイィィィ~~~ン♪♪
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