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ビア島〜始まりの島〜

《八話》大変な時代になった

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まさに鬼神だった。百人もの盗賊が、たった四人の手によって壊滅した。

「あんたら、何者だ…?」
戦闘場から離脱し、ネロ義賊団が尻尾を巻いて逃げ去った後、魔車の中で傭兵が尋ねた。

「ただの、勇者です。」
モリーが言った。イサムは、本当にもうダメだと思った。

「勇者?あのおとぎ話のか。…いや、信じられる程の強さだもんな。」
傭兵たちが、ガヤガヤとざわめく。

「…出発しますね。」
彼らのせいで声が通らず、運転手は少し悲しげに言う。それと共に、ゴトゴトと魔車が発進する。

「いやあ!俺、感動しちゃいましたよ。」
前の席に座っている青年が、彼らの方を振り向いて興奮気味に話しかける。

「まず魔女のあなた!物凄い炎がドーンって!恐らくあれは、初級魔法『火炎弾ファイアボール』でしょう。簡単な魔法でも、あんな威力が出るものなんですねえ。シビれちゃいますよ!」
彼はキラキラとした目で話し続ける。

「そして鎧のあなたと武闘家のあなたの連携!鎧さんは敵から一切攻撃を通さず、武闘家さんがズカズカと盗賊を倒していく。丁寧でありながら、迷いのない戦いでした。あれは爽快でしたね!」

「なあ、俺は武闘家じゃなくて『癒術師』なんだが…」
アツシが訂正する。が、彼の耳には届かない。

「しかし、なんと言っても大剣のあなたですよ!あれだけの大きな武器を持っていながら、素早い!恥ずかしいんですが、俺、よく見えなかったっす!気づいたら盗賊たちが宙を舞っていて…
閃光、鬼神…どう表そうかな?何にしろ凄いや!」
一通り総評が終わったらしく、鼻息を荒らげながら四人の反応を待っている。

「な、なあ。褒めてくれるのは嬉しいんだけど、君は一体誰なんだ。」
イサムが、至極当たり前のことを尋ねる。

「これは申し遅れました!俺、パルって言います!傭兵見習いで、タンブルに修行に行くんです!あそこはネロ義賊団のアジトですからね。ちょっと頑張ろうかなって!」
好青年と言うべきなのだろうが、イサムにとって、少し面倒な人種である。

「じゃあ、パル。あんまり大声で話さないでくれ。俺らも恥ずかしいよ。あと、俺は武闘家じゃなくて『癒術師』だ。」
アツシは最後の一文を強調する。

「あ、ご迷惑でしたか。すみません、俺、バカなもんで…」
どうしようもないくらい小声になる。彼には、適切という概念が無いようだ。

「いや、別にそんな卑屈にならなくても…」

「あ!タンブル港が見えてきましたよ!ほら、あの大きな門が見えますか?いやあ、血が騒ぎますねえ!」
いきなり大声に戻る。

「はぁ…」
四人は一斉に、ため息をついた。


―――――――――――――――――――――――


「じゃあ俺はここで!皆さんも気をつけて下さいね!」
パルと別れる。彼らは、何か無性に疲れた気がした。

「いや、もう何だったんだろうなアイツ。」
モリーがやれやれ、といった風に言う。

「まあまあ。さてと、ここから『ドミナント』行きの船に乗り込むんだったな。」
イサムが目標を確認する。

「そうだったね。船着き場はどこなのかな…」
ユーリが周りを見渡す。

港の周辺が頑丈そうな壁で囲まれているので、モンスターが入れないのだろう。そのためか、かなり活気のある港である。

また、他国との玄関口であるので、不思議な造形をした人が沢山いる。角が生えているもの、耳が異様に大きいもの、目が四つあるもの…

亜人だったっけ。兵士さんが言っていたな。
ユーリは理解する。

「船着き場、あそこじゃないか。」
アツシが遠くを指さす。そこには、複数の船が小さく見えている。

四人はそこに向かった。


「近くで見ると、大きい船だな。」
イサムは感心する。

「そうだなあ。『ドミナント』に行くんだよな。…すみません、『ドミナント』には、どの船に乗ればいいですか。」
アツシが、近くにいた船乗りへ尋ねる。しかし、船乗りは苦笑いして、

「あんちゃん、何言ってるんだよ。ドミナントがある『レジオ島』には行けないよ。」

「どういうことなんだよ。」
モリーが尋ねる。

「あんたら、知らないのか。ドミナントは中継貿易の国だ。しかも、そのやり方が無茶苦茶でね。オイラ達はビア島とアシラ大陸とで貿易をしたいんだが、その間に奴らがいる。

奴らの船が、タンブル港にやって来て、物資だけを持ってそのままアシラに向かうんだ。確かに、オイラ達からしたら費用が浮くから良いはずなんだが、奴ら、とんでもない手数料を取っていきやがる。
独自に貿易をしようとしても、ドミナントはどえらい軍事国家だ。何をされるか分かんねえ。」
船乗りが説明する。

「昔はそんな事も無かったらしいがな。あそこは、サイコが現れてから出来た国だからなあ…」
またサイコか。イサムは顔をしかめる。

「あ、言うのを忘れてたよ。どっちにしろ、今は船が出せねえんだ。」

「何だって?」
モリーが頓狂な声を出す。

「…ネロ義賊団さ。奴ら、海賊みてえな事もしてるんだ。何が義賊だよ。奴らのせいでしばらく船が出せねえ。最近、かなり勢力が強くなってきてな。」
船乗りが声のトーンを落として話す。余程ネロ義賊団が疎ましいらしい。

「そっかあ。ありがとうね。」
ユーリはため息混じりに言う。

四人はその場を離れる。
「なあ、どうするよ。」
アツシは皆に尋ねる。

…決まっているだろう。
「ネロ義賊団を倒します。」
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