12 / 12
ビア島〜始まりの島〜
《八話》大変な時代になった
しおりを挟む
まさに鬼神だった。百人もの盗賊が、たった四人の手によって壊滅した。
「あんたら、何者だ…?」
戦闘場から離脱し、ネロ義賊団が尻尾を巻いて逃げ去った後、魔車の中で傭兵が尋ねた。
「ただの、勇者です。」
モリーが言った。イサムは、本当にもうダメだと思った。
「勇者?あのおとぎ話のか。…いや、信じられる程の強さだもんな。」
傭兵たちが、ガヤガヤとざわめく。
「…出発しますね。」
彼らのせいで声が通らず、運転手は少し悲しげに言う。それと共に、ゴトゴトと魔車が発進する。
「いやあ!俺、感動しちゃいましたよ。」
前の席に座っている青年が、彼らの方を振り向いて興奮気味に話しかける。
「まず魔女のあなた!物凄い炎がドーンって!恐らくあれは、初級魔法『火炎弾』でしょう。簡単な魔法でも、あんな威力が出るものなんですねえ。シビれちゃいますよ!」
彼はキラキラとした目で話し続ける。
「そして鎧のあなたと武闘家のあなたの連携!鎧さんは敵から一切攻撃を通さず、武闘家さんがズカズカと盗賊を倒していく。丁寧でありながら、迷いのない戦いでした。あれは爽快でしたね!」
「なあ、俺は武闘家じゃなくて『癒術師』なんだが…」
アツシが訂正する。が、彼の耳には届かない。
「しかし、なんと言っても大剣のあなたですよ!あれだけの大きな武器を持っていながら、素早い!恥ずかしいんですが、俺、よく見えなかったっす!気づいたら盗賊たちが宙を舞っていて…
閃光、鬼神…どう表そうかな?何にしろ凄いや!」
一通り総評が終わったらしく、鼻息を荒らげながら四人の反応を待っている。
「な、なあ。褒めてくれるのは嬉しいんだけど、君は一体誰なんだ。」
イサムが、至極当たり前のことを尋ねる。
「これは申し遅れました!俺、パルって言います!傭兵見習いで、タンブルに修行に行くんです!あそこはネロ義賊団のアジトですからね。ちょっと頑張ろうかなって!」
好青年と言うべきなのだろうが、イサムにとって、少し面倒な人種である。
「じゃあ、パル。あんまり大声で話さないでくれ。俺らも恥ずかしいよ。あと、俺は武闘家じゃなくて『癒術師』だ。」
アツシは最後の一文を強調する。
「あ、ご迷惑でしたか。すみません、俺、バカなもんで…」
どうしようもないくらい小声になる。彼には、適切という概念が無いようだ。
「いや、別にそんな卑屈にならなくても…」
「あ!タンブル港が見えてきましたよ!ほら、あの大きな門が見えますか?いやあ、血が騒ぎますねえ!」
いきなり大声に戻る。
「はぁ…」
四人は一斉に、ため息をついた。
―――――――――――――――――――――――
「じゃあ俺はここで!皆さんも気をつけて下さいね!」
パルと別れる。彼らは、何か無性に疲れた気がした。
「いや、もう何だったんだろうなアイツ。」
モリーがやれやれ、といった風に言う。
「まあまあ。さてと、ここから『ドミナント』行きの船に乗り込むんだったな。」
イサムが目標を確認する。
「そうだったね。船着き場はどこなのかな…」
ユーリが周りを見渡す。
港の周辺が頑丈そうな壁で囲まれているので、モンスターが入れないのだろう。そのためか、かなり活気のある港である。
また、他国との玄関口であるので、不思議な造形をした人が沢山いる。角が生えているもの、耳が異様に大きいもの、目が四つあるもの…
亜人だったっけ。兵士さんが言っていたな。
ユーリは理解する。
「船着き場、あそこじゃないか。」
アツシが遠くを指さす。そこには、複数の船が小さく見えている。
四人はそこに向かった。
…
「近くで見ると、大きい船だな。」
イサムは感心する。
「そうだなあ。『ドミナント』に行くんだよな。…すみません、『ドミナント』には、どの船に乗ればいいですか。」
アツシが、近くにいた船乗りへ尋ねる。しかし、船乗りは苦笑いして、
「あんちゃん、何言ってるんだよ。ドミナントがある『レジオ島』には行けないよ。」
「どういうことなんだよ。」
モリーが尋ねる。
「あんたら、知らないのか。ドミナントは中継貿易の国だ。しかも、そのやり方が無茶苦茶でね。オイラ達はビア島とアシラ大陸とで貿易をしたいんだが、その間に奴らがいる。
奴らの船が、タンブル港にやって来て、物資だけを持ってそのままアシラに向かうんだ。確かに、オイラ達からしたら費用が浮くから良いはずなんだが、奴ら、とんでもない手数料を取っていきやがる。
独自に貿易をしようとしても、ドミナントはどえらい軍事国家だ。何をされるか分かんねえ。」
船乗りが説明する。
「昔はそんな事も無かったらしいがな。あそこは、サイコが現れてから出来た国だからなあ…」
またサイコか。イサムは顔をしかめる。
「あ、言うのを忘れてたよ。どっちにしろ、今は船が出せねえんだ。」
「何だって?」
モリーが頓狂な声を出す。
「…ネロ義賊団さ。奴ら、海賊みてえな事もしてるんだ。何が義賊だよ。奴らのせいでしばらく船が出せねえ。最近、かなり勢力が強くなってきてな。」
船乗りが声のトーンを落として話す。余程ネロ義賊団が疎ましいらしい。
「そっかあ。ありがとうね。」
ユーリはため息混じりに言う。
四人はその場を離れる。
「なあ、どうするよ。」
アツシは皆に尋ねる。
…決まっているだろう。
「ネロ義賊団を倒します。」
「あんたら、何者だ…?」
戦闘場から離脱し、ネロ義賊団が尻尾を巻いて逃げ去った後、魔車の中で傭兵が尋ねた。
「ただの、勇者です。」
モリーが言った。イサムは、本当にもうダメだと思った。
「勇者?あのおとぎ話のか。…いや、信じられる程の強さだもんな。」
傭兵たちが、ガヤガヤとざわめく。
「…出発しますね。」
彼らのせいで声が通らず、運転手は少し悲しげに言う。それと共に、ゴトゴトと魔車が発進する。
「いやあ!俺、感動しちゃいましたよ。」
前の席に座っている青年が、彼らの方を振り向いて興奮気味に話しかける。
「まず魔女のあなた!物凄い炎がドーンって!恐らくあれは、初級魔法『火炎弾』でしょう。簡単な魔法でも、あんな威力が出るものなんですねえ。シビれちゃいますよ!」
彼はキラキラとした目で話し続ける。
「そして鎧のあなたと武闘家のあなたの連携!鎧さんは敵から一切攻撃を通さず、武闘家さんがズカズカと盗賊を倒していく。丁寧でありながら、迷いのない戦いでした。あれは爽快でしたね!」
「なあ、俺は武闘家じゃなくて『癒術師』なんだが…」
アツシが訂正する。が、彼の耳には届かない。
「しかし、なんと言っても大剣のあなたですよ!あれだけの大きな武器を持っていながら、素早い!恥ずかしいんですが、俺、よく見えなかったっす!気づいたら盗賊たちが宙を舞っていて…
閃光、鬼神…どう表そうかな?何にしろ凄いや!」
一通り総評が終わったらしく、鼻息を荒らげながら四人の反応を待っている。
「な、なあ。褒めてくれるのは嬉しいんだけど、君は一体誰なんだ。」
イサムが、至極当たり前のことを尋ねる。
「これは申し遅れました!俺、パルって言います!傭兵見習いで、タンブルに修行に行くんです!あそこはネロ義賊団のアジトですからね。ちょっと頑張ろうかなって!」
好青年と言うべきなのだろうが、イサムにとって、少し面倒な人種である。
「じゃあ、パル。あんまり大声で話さないでくれ。俺らも恥ずかしいよ。あと、俺は武闘家じゃなくて『癒術師』だ。」
アツシは最後の一文を強調する。
「あ、ご迷惑でしたか。すみません、俺、バカなもんで…」
どうしようもないくらい小声になる。彼には、適切という概念が無いようだ。
「いや、別にそんな卑屈にならなくても…」
「あ!タンブル港が見えてきましたよ!ほら、あの大きな門が見えますか?いやあ、血が騒ぎますねえ!」
いきなり大声に戻る。
「はぁ…」
四人は一斉に、ため息をついた。
―――――――――――――――――――――――
「じゃあ俺はここで!皆さんも気をつけて下さいね!」
パルと別れる。彼らは、何か無性に疲れた気がした。
「いや、もう何だったんだろうなアイツ。」
モリーがやれやれ、といった風に言う。
「まあまあ。さてと、ここから『ドミナント』行きの船に乗り込むんだったな。」
イサムが目標を確認する。
「そうだったね。船着き場はどこなのかな…」
ユーリが周りを見渡す。
港の周辺が頑丈そうな壁で囲まれているので、モンスターが入れないのだろう。そのためか、かなり活気のある港である。
また、他国との玄関口であるので、不思議な造形をした人が沢山いる。角が生えているもの、耳が異様に大きいもの、目が四つあるもの…
亜人だったっけ。兵士さんが言っていたな。
ユーリは理解する。
「船着き場、あそこじゃないか。」
アツシが遠くを指さす。そこには、複数の船が小さく見えている。
四人はそこに向かった。
…
「近くで見ると、大きい船だな。」
イサムは感心する。
「そうだなあ。『ドミナント』に行くんだよな。…すみません、『ドミナント』には、どの船に乗ればいいですか。」
アツシが、近くにいた船乗りへ尋ねる。しかし、船乗りは苦笑いして、
「あんちゃん、何言ってるんだよ。ドミナントがある『レジオ島』には行けないよ。」
「どういうことなんだよ。」
モリーが尋ねる。
「あんたら、知らないのか。ドミナントは中継貿易の国だ。しかも、そのやり方が無茶苦茶でね。オイラ達はビア島とアシラ大陸とで貿易をしたいんだが、その間に奴らがいる。
奴らの船が、タンブル港にやって来て、物資だけを持ってそのままアシラに向かうんだ。確かに、オイラ達からしたら費用が浮くから良いはずなんだが、奴ら、とんでもない手数料を取っていきやがる。
独自に貿易をしようとしても、ドミナントはどえらい軍事国家だ。何をされるか分かんねえ。」
船乗りが説明する。
「昔はそんな事も無かったらしいがな。あそこは、サイコが現れてから出来た国だからなあ…」
またサイコか。イサムは顔をしかめる。
「あ、言うのを忘れてたよ。どっちにしろ、今は船が出せねえんだ。」
「何だって?」
モリーが頓狂な声を出す。
「…ネロ義賊団さ。奴ら、海賊みてえな事もしてるんだ。何が義賊だよ。奴らのせいでしばらく船が出せねえ。最近、かなり勢力が強くなってきてな。」
船乗りが声のトーンを落として話す。余程ネロ義賊団が疎ましいらしい。
「そっかあ。ありがとうね。」
ユーリはため息混じりに言う。
四人はその場を離れる。
「なあ、どうするよ。」
アツシは皆に尋ねる。
…決まっているだろう。
「ネロ義賊団を倒します。」
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪
山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。
「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」
そうですか…。
私は離婚届にサインをする。
私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。
使用人が出掛けるのを確認してから
「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
義妹と一緒になり邪魔者扱いしてきた婚約者は…私の家出により、罰を受ける事になりました。
coco
恋愛
可愛い義妹と一緒になり、私を邪魔者扱いする婚約者。
耐えきれなくなった私は、ついに家出を決意するが…?
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる