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ビア島〜始まりの島〜

《六話》異世界主人公は強い

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「アツシさん。本当に大丈夫なんでしょうか。」

「いや、だって、あんなに弱いとは思ってなくてさ…」

「仮にもあんた回復役だろう。素手は無いだろう素手は。」

「兵士さん。兵士さーん。」

「返事がありませんよ。」

「おいイサム。俺が悪いって言うのか。」

「おかしいだろ。何でイサムの剣より、あんたの拳の方が強いんだよ。」

「たまたまクリーンヒットしたんだよ。上手いこと頭に当たれば誰でもこうなるって。」

「おーい兵士さん。大丈夫?」

…彼は目を覚ましたようだ。

「う、うぅん。ここは、一体…」
テンプレートのような回答をする。

「あ、気がついたよ。兵士さん、本当に大丈夫?」
…俺はどうなったんだ。妙に血が騒いじまって、それから…
俺は勇者さんたちに、とんでもないことをしてしまったんじゃないか。王に何と言えばいい…

「あの!すみません。どうにも手加減が出来なくてつい…」

「はは。まだ寝ぼけているみたいだ。」
アツシは軽い笑い声を出す。

「誰のせいなんでしょうかね。」
イサムは咎めるような目をアツシに向ける。

「ええと…?申し訳ない、私はどうなったのですか。」


―――――――――――――――――――――――


「でね、モリーが兵士さんの攻撃を防いですぐに、アツシが頭を思い切り殴っちゃったんだ。」
ユーリは楽しそうに説明する。

「仕方ないだろう。武器を持ってる人間は怖いじゃないか。」

「それで、パリーンって大きな音がして、兵士さん、気絶してさ。大丈夫かなって思ってたら、こっちに戻ってきたんだ。」

兵士は慌てて自分の手帳を見る。
HPと書かれた欄に、0の文字。

…参ったな。王がサイコに対して、彼らをぶつける理由が分かったよ。

「あの、手帳を見せてくれませんか。」
兵士は彼らに頼む。

「ん?ああ、いいよ。」
アツシが手帳を渡し、それに続き三人も渡す。

兵士はステータスの欄を見た。

ステータスには、HP、MP(魔法を使うことの出来るキャパシティ)、攻撃力、防御力、魔力、魔防力、素早さがある。

彼らは一部を除いて、その兵士よりも数値が下、つまり、平均であった。だが、

…はは。これは凄ぇや。イサムの攻撃力と素早さ、モリーの防御力と魔防力、ユーリの魔力。どれも50を越えているじゃないか。
俺でも攻撃力は30くらいしかないってのに。

アツシに至っては、何なんだ。攻撃力80って。魔力も十分高いが、この人はおかしいだろう。

「ありがとうございます、手帳はお返ししますね。
…参ったな。強い訳ですよ。」
兵士は苦笑いする。

「…?とにかく、これで戦闘のいろはを知れたんだ。兵士さん、ありがとうな。」
モリーが手を差し出し、寝転がっている兵士を立ち上がらせる。

「ああ、すみません。しかし、これだけ強いと、さっき説明した意味が無いような気がしますね。」
相変わらず苦笑いしながら、兵士は言う。

「いえいえ、そんなことは無いですよ。」
イサムは謙遜する。しかし、褒められると嬉しいので、少し俯いてしまう。

―――――――――――――――――――――――

「さて、俺らはそろそろ行く準備をしようか。」
アツシが揚々と言う。

「そうだね。サイコを倒す旅に出る。うーん、いよいよ『ゲーム』って感じがしてくるね!」
ユーリが伸びをし、嬉しそうに答える。

「そうだ、装備品は返します。借りたものは返さなくちゃ。」
イサムが手帳から、剣と鎧を取り出そうとする。しかし、

「それは大丈夫です。皆さんに渡したそれは、王からのプレゼントですから。ああ、それと忘れない内に、他のものも渡しておきますね。」
兵士は手帳から幾つか取り出す。

「まず、お金です。五十万Gゴルドあります。決して多い額ではないのですが、イスファンも財政が厳しくて…

次に、教科書です。ここには『魔法』が書かれてあります。補助魔法から、攻撃魔法、それぞれの称号に合ったものが四冊あります。ビア島にいる内に、一通り読む事をお勧めします。」

兵士は説明する。魔法、と聞いて四人の心が躍る。

「最後に地図です。かなり簡易的な世界地図ですが…ほら、ここがイスファンです…。

アシラ大陸に行くのは困難ですが、ビア島東の『タンブル』より貿易船が出ています。それに上手く乗り込めれば、そこから『ドミナント』が支配するレジオ島を経由して、『サキャイ』の港に行けば、アシラ大陸にたどり着くことが出来ます。

問題は『ドミナント』なんです。詳しくは『タンブル』で聞くといいでしょう。

一応、『レリギオス』行きの船もありますが、不定期なのでたどり着く保証はありません。なにより、あの国は『ドミナント』より危険だと言われていますし…」


「ありがとう。まずは『タンブル』に行けばいいんだな。」
モリーは確認をする。

「はい。しかし気をつけて下さいね。タンブルにはネロ義賊団のアジトがあると聞きます。要らぬ怪我はなさらないように…」
彼は四人の身を案じる。

「心配して下さってありがとうございます。でも、大丈夫ですから。」
イサムは、余裕といった風だ。

彼らは客室を出た。後ろで、兵士が見送ってくれているのが見える。緊張が解け、余裕が出ると、イサムは城内の華やかさに気づいた。

煌びやかな格好をした老若男女がそこらを歩いている。貴族、というものである。天井には、恐らく神話であろう絵が描かれている。四人の人物が旅をしている絵のようだ。

城を出た。振り返れば、それは相変わらずの存在感を放っている。それが、彼らにとって、自分達の背を押してくれるように感じた。

意気揚々と四人は歩く。最初に目指すはタンブルである。
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