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ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第96話 剣を振り抜けるだけの隙間がない
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セイはハマリエルの目の前までくると、刀をハマリエルの首筋にむかってつきだした。だがからだじゅうに突き刺さった剣が邪魔して、首筋を狙いたくてもその隙間がなかった。
「弱ったな。剣を振り抜けるだけの隙間がない」
『策士、策に溺れるだわね。剣を引き抜けば、あたくしはあんたにビームを食らわせるわ。この至近距離で、これ以上ないほどね』
「ビームを? その格好で?」
セイは両腕を横につきだして、ハマリエルの状態を真似して言った。
「悪魔のくせにイエス・キリストの真似をするような不届き者に、そんな力は残ってないと思うよ」
セイは頭上を見あげた。
そこにはハマリエルとおなじ格好で磔にされたイエス・キリスト象があった。
『キリストだとぉぉぉぉ。ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ』
ハマリエルが突然暴れ始めた。
からだのいたるところから、火が吹き出してからだを焦がしはじめる。その煙がハマリエルのからだの周りに立ちこめはじめる。
『セイっっっ。調子に乗るなよ。この人間風情がぁぁぁ』
ハマリエルの声が突然低くしゃがれたものに変わる。悪魔らしいひとの心を揺さぶる声。
と、火が吹き出した箇所の剣が、どろっと溶けて床の上に落ちた。
カチャン、カチャンと甲高い音をたてながら、次々と刀身が半分溶けた剣が落ちて行く。
『屈辱きわまりない! 待ってろ。すぐに殺してやる。あの中年親父のようにな!』
「そうはさせない」
セイはハマリエルからすこし離れた場所へ下がると、刀を身構えた。
「この一太刀には、ジャン・ド・メスの未練を最大限にこめ、ジャンヌの純粋な信仰心も宿らせる」
『あははは、なに格好つけてる、人間っっ。そんな貧弱な刀で、このハマリエル様を討てるとでも本機で思ってるのかぁぁぁ』
セイは刀を横に倒すと、目をつぶって精神を統一させた。セイの構えた刀の刀身がまばゆい光をまといはじめる。と、同時に刀身がむくむくと伸び始め、そしておおきくなっていく。
伸びた刀身はそのままギャラリーウィンドウのステンドグラスを突き破って、外へとでていった。刀身の厚みはすでに斧のようにぶ厚く膨れていたが、その刃先はさらに鋭さを増して、ゾクッとするほどのぎらつきをまとっていた。
『ちょ、ちょ、おまえ……なにを……』
その異様なほどおおきくなっていく剣先に見入られながら、ハマリエルは焦りの色をみせはじめた。
からだに突き刺さっている剣が溶け落ちるスピードが速くなる。
『あとすこしだ。あとすこしで腕が自由になる』
ハマリエルは腕を壁に縫いつけていた剣が落ち始めるのを見つめていた。
ガシャン、ガシャン、と剣が床に落ちて積み重なっていく音が響き渡る。
が、その音をかき消すように、外からなにかを破壊しているような破壊音が聞こえてきた。ハマリエルがその音に気づいて、ハッとした顔でセイを見つめた。
セイはカッと目をみひらいて叫んだ。
「トラウマ、おまえを浄化する!」
セイが手に持った刀を水平に力いっぱい振り抜いた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……
外から破壊音が近づいてくる。建物が崩れ落ちるような音。
『くそぉ、外れなさいよぉ』
ハマリエルはあとすこしで自由になりそうな両腕を、交互に見やりながら叫んだ。
外から迫ってくる振動が、天井からぶらさがったオブジェを激しく揺らしはじめた瞬間、ハマリエルを壁に張り付けていた剣が抜け落ちた。
が、その瞬間、バリバリという衝撃音と共に、教会の壁が中央から裂け、ぶ厚い刀の切っ先が飛び込んできた。それは数十メートルもある刀で、この世にあるどんな刀身よりぶ厚く、そして鋭かった。
武器というより、すでに兵器、といってもいい巨大な刀が、教会の壁を真っ二つになぎ倒しながら、ハマリエルの首元へ振り切られてきた。
ハマリエルの首回りには、まだ相当数の剣が突き刺さっていて、首筋を防御している形になっていたが、その剣の前にはまったく役にたたなかった。
その剣は轟音をたててハマリエルを守っている無数の剣をなぎ払うと、迷いなく首筋へそのぶ厚くも鋭利な刃先を突き立てた。
その瞬間、ハマリエルも自由になった両腕をセイのほうへむけて、ビームを放とうとしていた。
が、間に合わなかった——
ズドンというやや鈍い音とともに、ハマリエルの首は宙に浮いていた。
ハマリエルの指先に光が灯ったタイミングだった。
勢いあまって、ハマリエルの頭は祭壇の下に転がっていった。その顔に浮かんでいた表情は、逆転勝利を確信していびつに笑った、じつに悪魔らしい憎々しげなものだった。
「弱ったな。剣を振り抜けるだけの隙間がない」
『策士、策に溺れるだわね。剣を引き抜けば、あたくしはあんたにビームを食らわせるわ。この至近距離で、これ以上ないほどね』
「ビームを? その格好で?」
セイは両腕を横につきだして、ハマリエルの状態を真似して言った。
「悪魔のくせにイエス・キリストの真似をするような不届き者に、そんな力は残ってないと思うよ」
セイは頭上を見あげた。
そこにはハマリエルとおなじ格好で磔にされたイエス・キリスト象があった。
『キリストだとぉぉぉぉ。ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ』
ハマリエルが突然暴れ始めた。
からだのいたるところから、火が吹き出してからだを焦がしはじめる。その煙がハマリエルのからだの周りに立ちこめはじめる。
『セイっっっ。調子に乗るなよ。この人間風情がぁぁぁ』
ハマリエルの声が突然低くしゃがれたものに変わる。悪魔らしいひとの心を揺さぶる声。
と、火が吹き出した箇所の剣が、どろっと溶けて床の上に落ちた。
カチャン、カチャンと甲高い音をたてながら、次々と刀身が半分溶けた剣が落ちて行く。
『屈辱きわまりない! 待ってろ。すぐに殺してやる。あの中年親父のようにな!』
「そうはさせない」
セイはハマリエルからすこし離れた場所へ下がると、刀を身構えた。
「この一太刀には、ジャン・ド・メスの未練を最大限にこめ、ジャンヌの純粋な信仰心も宿らせる」
『あははは、なに格好つけてる、人間っっ。そんな貧弱な刀で、このハマリエル様を討てるとでも本機で思ってるのかぁぁぁ』
セイは刀を横に倒すと、目をつぶって精神を統一させた。セイの構えた刀の刀身がまばゆい光をまといはじめる。と、同時に刀身がむくむくと伸び始め、そしておおきくなっていく。
伸びた刀身はそのままギャラリーウィンドウのステンドグラスを突き破って、外へとでていった。刀身の厚みはすでに斧のようにぶ厚く膨れていたが、その刃先はさらに鋭さを増して、ゾクッとするほどのぎらつきをまとっていた。
『ちょ、ちょ、おまえ……なにを……』
その異様なほどおおきくなっていく剣先に見入られながら、ハマリエルは焦りの色をみせはじめた。
からだに突き刺さっている剣が溶け落ちるスピードが速くなる。
『あとすこしだ。あとすこしで腕が自由になる』
ハマリエルは腕を壁に縫いつけていた剣が落ち始めるのを見つめていた。
ガシャン、ガシャン、と剣が床に落ちて積み重なっていく音が響き渡る。
が、その音をかき消すように、外からなにかを破壊しているような破壊音が聞こえてきた。ハマリエルがその音に気づいて、ハッとした顔でセイを見つめた。
セイはカッと目をみひらいて叫んだ。
「トラウマ、おまえを浄化する!」
セイが手に持った刀を水平に力いっぱい振り抜いた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……
外から破壊音が近づいてくる。建物が崩れ落ちるような音。
『くそぉ、外れなさいよぉ』
ハマリエルはあとすこしで自由になりそうな両腕を、交互に見やりながら叫んだ。
外から迫ってくる振動が、天井からぶらさがったオブジェを激しく揺らしはじめた瞬間、ハマリエルを壁に張り付けていた剣が抜け落ちた。
が、その瞬間、バリバリという衝撃音と共に、教会の壁が中央から裂け、ぶ厚い刀の切っ先が飛び込んできた。それは数十メートルもある刀で、この世にあるどんな刀身よりぶ厚く、そして鋭かった。
武器というより、すでに兵器、といってもいい巨大な刀が、教会の壁を真っ二つになぎ倒しながら、ハマリエルの首元へ振り切られてきた。
ハマリエルの首回りには、まだ相当数の剣が突き刺さっていて、首筋を防御している形になっていたが、その剣の前にはまったく役にたたなかった。
その剣は轟音をたててハマリエルを守っている無数の剣をなぎ払うと、迷いなく首筋へそのぶ厚くも鋭利な刃先を突き立てた。
その瞬間、ハマリエルも自由になった両腕をセイのほうへむけて、ビームを放とうとしていた。
が、間に合わなかった——
ズドンというやや鈍い音とともに、ハマリエルの首は宙に浮いていた。
ハマリエルの指先に光が灯ったタイミングだった。
勢いあまって、ハマリエルの頭は祭壇の下に転がっていった。その顔に浮かんでいた表情は、逆転勝利を確信していびつに笑った、じつに悪魔らしい憎々しげなものだった。
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