924 / 935
ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第90話 時を操る悪魔 アガレス
しおりを挟む
ルーアンへ渡るセーヌ川にかかる橋は、やけにせわしなかった。
馬車が頻繁に行き交い、警備のイングランド兵たちも、その対応に手を焼いてる様子が遠くからも見てとれた。街中から喊声とも怒声ともつかない声が聞こえる。
「まるで祭でもあるかのようだな」
ジャン・ド・メスが呟いた。
「メス。やばい。たぶん、ジャンヌ・ダルクの刑が執行されるんだ。急ぐよ」
そう言うなりセイは橋の袂の検問所へすたすたと歩いていった。
「とまれ!」
真正面から歩いてきた2人をみて、数人のイングランド兵が道をふさぐように立ちふさがった。
「いやだ」
セイは警備隊長らしき男を睨みつけて言うなり、すばやく腹にむかってパンチをうちこんだ。ボコンという金属が凹む音がして、その男がその場に崩れ落ちる。部下たちがあわてて剣を引き抜いて、セイのほうへ振りかざそうとするが、それよりもはやくセイが腹にパンチを食らわせた。
さきほどより軽いボコっという音がして、兵たちが倒れていく。
「行こう、メス」
セイはうしろにむかって声をかけてから、そのまま橋をわたっていこうとした。
が、正面に渦巻くような邪気を感じて、歩をとめた。
橋の対岸に修道服をきた男が立っていた。
『人間じゃない……』
男が顔をあげた。
その男には顔がなかった。
セイはその男に見覚えがあった。はじめて前世の記憶に送り込まされたとき、妹、サエを奪っていった男だった。
「きさまぁ!」
セイは瞬時に日本刀を中空から呼びだし、それを構えていた。
「サエを……サエをどこへやったぁぁぁ!」
「はて、どこかで……」
その男の声は、動物の断末魔の悲鳴、機械めいた音、世の中に存在するあらゆる不快な雑音を混ぜ合わせたような響きがあった。
「そうですか。あなた様はあのタイタニックの……」
「サエを返せぇぇぇぇ!」
セイは中空へジャンプすると、男に斬りつけた。が、男はぎりぎりのところでうしろへ跳ね跳び、その刃を避けた。セイの剣先が橋のレンガをえぐりとる。
「ほうほう、これは強いお方だ。今の一太刀、よけるのが精いっぱいでしたよ。とてもわたくしめではお相手できそうにない」
「はん、ぼくを邪魔しに現われたんじゃないのか?」
「いえいえ。わたくしめにはそんな力はございません」
「じゃあ、なにしに来た!」
男がふいに上空を見あげた。
そこに直径2メートルほどの、どす黒い光の玉が浮いていた。
「我が名はアガレス。ハマリエル様を復活させるために、罷り越した次第でございます」
その瞬間、黒い光の玉が空中で四散し、なかからハマリエルが姿を現わした。邪悪そのものを体現したような姿。
馬車が頻繁に行き交い、警備のイングランド兵たちも、その対応に手を焼いてる様子が遠くからも見てとれた。街中から喊声とも怒声ともつかない声が聞こえる。
「まるで祭でもあるかのようだな」
ジャン・ド・メスが呟いた。
「メス。やばい。たぶん、ジャンヌ・ダルクの刑が執行されるんだ。急ぐよ」
そう言うなりセイは橋の袂の検問所へすたすたと歩いていった。
「とまれ!」
真正面から歩いてきた2人をみて、数人のイングランド兵が道をふさぐように立ちふさがった。
「いやだ」
セイは警備隊長らしき男を睨みつけて言うなり、すばやく腹にむかってパンチをうちこんだ。ボコンという金属が凹む音がして、その男がその場に崩れ落ちる。部下たちがあわてて剣を引き抜いて、セイのほうへ振りかざそうとするが、それよりもはやくセイが腹にパンチを食らわせた。
さきほどより軽いボコっという音がして、兵たちが倒れていく。
「行こう、メス」
セイはうしろにむかって声をかけてから、そのまま橋をわたっていこうとした。
が、正面に渦巻くような邪気を感じて、歩をとめた。
橋の対岸に修道服をきた男が立っていた。
『人間じゃない……』
男が顔をあげた。
その男には顔がなかった。
セイはその男に見覚えがあった。はじめて前世の記憶に送り込まされたとき、妹、サエを奪っていった男だった。
「きさまぁ!」
セイは瞬時に日本刀を中空から呼びだし、それを構えていた。
「サエを……サエをどこへやったぁぁぁ!」
「はて、どこかで……」
その男の声は、動物の断末魔の悲鳴、機械めいた音、世の中に存在するあらゆる不快な雑音を混ぜ合わせたような響きがあった。
「そうですか。あなた様はあのタイタニックの……」
「サエを返せぇぇぇぇ!」
セイは中空へジャンプすると、男に斬りつけた。が、男はぎりぎりのところでうしろへ跳ね跳び、その刃を避けた。セイの剣先が橋のレンガをえぐりとる。
「ほうほう、これは強いお方だ。今の一太刀、よけるのが精いっぱいでしたよ。とてもわたくしめではお相手できそうにない」
「はん、ぼくを邪魔しに現われたんじゃないのか?」
「いえいえ。わたくしめにはそんな力はございません」
「じゃあ、なにしに来た!」
男がふいに上空を見あげた。
そこに直径2メートルほどの、どす黒い光の玉が浮いていた。
「我が名はアガレス。ハマリエル様を復活させるために、罷り越した次第でございます」
その瞬間、黒い光の玉が空中で四散し、なかからハマリエルが姿を現わした。邪悪そのものを体現したような姿。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる