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ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第87話 国王シャルル七世は動かなかった
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「当然じゃないですか。フランスの領土にイングランド軍がいるなら勝ったなんて言えっこない」
「だが、国王シャルル七世は動かなかった……」
「そんなバカな……」
「嫉妬…… もしかしたらジャンヌの名声が高まることが、気にいらなかったのだろう。国王はきわめてちいさな器の人物だったからな」
「それで……ジャンヌは……ジャンヌはどうなったんです?」
「休戦の間にイングランド軍が大規模な援軍を迎え、反撃の準備をととのえているのを知るや、義勇軍を寄せ集めただけの小部隊だけを与え、イングランド軍攻撃をお命じになったのだ。しかも援軍も物資補給もないままにな……」
「そ、そんな……」
「勝てるわけがない!」
「ジャンヌはあの栄光が嘘のように、負けるようになってしまった……そしてコンピエーニュで……」
「なにがあったんです?」
「ブルゴーニュ公フィリップ三世が、パリ北方にあるコンピエーニュ包囲を計画しているという情報が宮廷にもたらされ、ジャンヌはいち早く動いた。だが、前年のパリ包囲戦の失敗を理由に、軍の指揮を認められていなかったジャンヌは、すくない志願兵とともに、国王には知らせずにブルゴーニュ軍に奇襲をかけるしか方法はなかった。ところがブルゴーニュ軍の反撃を受け撤退。その最後尾にいたジャンヌはコンピエーニュ城内に逃げ込む寸前に捕縛されたのだ」
「捕縛された?」
「結果的にこの戦いはコンピエーニュを守りきったフランス軍の勝利に終わったが、われわれはジャンヌ・ダルクという大切なシンボルをうしなったのだ」
「国王の、国王の力でなんとかならなかったのですか? そうだ、身代金を払うとか……」
「ああ、身代金を払えばジャンヌの解放もあっただろう。だが、国王は身柄引き渡しに介入しなかった」
「しなかった……?」
「そう、わざとな。フランス国内にはそう噂する者もおおい。わたしも同意見だ。ジャンヌがいずれ自分の地位を脅かす存在になることを怖れたのではないかと思っている。実際、国王は王太子のときに、ル・バタール様の異母兄、シャルル・ドルレアンやラ・イール様には身代金を払っているのだからな」
「そうだ。ル・バタールは? あのひとなら国王に進言できるはずだ」
「無駄だよ、セイ。彼は国王と十歳まで一緒に育った間柄だ。国王を裏切ることなどできるはずがない」
「じゃあ、ラ・イール…… ラ・イールは?」
「あぁ…… ラ・イールならジャンヌのためによろこんで命を賭けてただろうな。だが、彼はドゥールダンで捕虜になってしまった」
メスは首をうなだれた。
「そんな! ほかに誰かいるは…… そうだ、ジル・ド・レ。ここは彼の城なんだろ。ぼくがもう一度説得してみる!」
「だが、国王シャルル七世は動かなかった……」
「そんなバカな……」
「嫉妬…… もしかしたらジャンヌの名声が高まることが、気にいらなかったのだろう。国王はきわめてちいさな器の人物だったからな」
「それで……ジャンヌは……ジャンヌはどうなったんです?」
「休戦の間にイングランド軍が大規模な援軍を迎え、反撃の準備をととのえているのを知るや、義勇軍を寄せ集めただけの小部隊だけを与え、イングランド軍攻撃をお命じになったのだ。しかも援軍も物資補給もないままにな……」
「そ、そんな……」
「勝てるわけがない!」
「ジャンヌはあの栄光が嘘のように、負けるようになってしまった……そしてコンピエーニュで……」
「なにがあったんです?」
「ブルゴーニュ公フィリップ三世が、パリ北方にあるコンピエーニュ包囲を計画しているという情報が宮廷にもたらされ、ジャンヌはいち早く動いた。だが、前年のパリ包囲戦の失敗を理由に、軍の指揮を認められていなかったジャンヌは、すくない志願兵とともに、国王には知らせずにブルゴーニュ軍に奇襲をかけるしか方法はなかった。ところがブルゴーニュ軍の反撃を受け撤退。その最後尾にいたジャンヌはコンピエーニュ城内に逃げ込む寸前に捕縛されたのだ」
「捕縛された?」
「結果的にこの戦いはコンピエーニュを守りきったフランス軍の勝利に終わったが、われわれはジャンヌ・ダルクという大切なシンボルをうしなったのだ」
「国王の、国王の力でなんとかならなかったのですか? そうだ、身代金を払うとか……」
「ああ、身代金を払えばジャンヌの解放もあっただろう。だが、国王は身柄引き渡しに介入しなかった」
「しなかった……?」
「そう、わざとな。フランス国内にはそう噂する者もおおい。わたしも同意見だ。ジャンヌがいずれ自分の地位を脅かす存在になることを怖れたのではないかと思っている。実際、国王は王太子のときに、ル・バタール様の異母兄、シャルル・ドルレアンやラ・イール様には身代金を払っているのだからな」
「そうだ。ル・バタールは? あのひとなら国王に進言できるはずだ」
「無駄だよ、セイ。彼は国王と十歳まで一緒に育った間柄だ。国王を裏切ることなどできるはずがない」
「じゃあ、ラ・イール…… ラ・イールは?」
「あぁ…… ラ・イールならジャンヌのためによろこんで命を賭けてただろうな。だが、彼はドゥールダンで捕虜になってしまった」
メスは首をうなだれた。
「そんな! ほかに誰かいるは…… そうだ、ジル・ド・レ。ここは彼の城なんだろ。ぼくがもう一度説得してみる!」
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