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ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第80話 まだ生きてるのか!
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ハマリエルのからだは頭を切り離されても、すぐに霧消しなかった。
今まで戦ってきたトラウマは倒したと同時に、からだの一部が黒い霧となって空中に舞い始めただけに、そのような変化が起きないことに、セイはおどろいた。
まだ倒せてない?
セイはあわてて地面に転がったハマリエルの頭の元へ駆け寄った。ハマリエルの頭はまだ生きていてきょろきょろと辺りを見回していた。
「まだ生きてるのか!」
おもわずセイが叫ぶと、ハマリエルの頭が反応した。
「生きてる? 生き…… そうか」
ハマリエルはぎりっと歯を食いしばった。悔しさと無念の思いが顔に刻まれる。
「わたしは……殺られたのかぁぁぁ」
「ああ、きみは負けたんだ」
セイは足元のハマリエルの頭を見おろした。ハマリエルがセイの顔を睨みつけてきたが、セイはほっとした思いを吐きだした。
「これでこの歴史を変えて、ジャンヌを生きながらえさせられる」
ハマリエルの憤怒にゆがんだ顔が、ふいに不敵な笑みに変わった。
「ふ、すべて終わったと思っているの?」
「負け惜しみかい?」
「おまえたちの時代からきた魂はどうなってる?」
セイはハッとして自分のからだに目をやった。なにか変化が起きているようには見えなかった。
『おかしい。魂が現世に戻っていかない……』
「ジャン・ド・メス! メスさんはいまどこにいますか?」
セイが暗闇にむかって叫ぶと、すぐに威勢のいい声が返ってきた。
「セイ殿、わたしはここです! ご心配なくかすり傷ひとつ負ってません」
ジャン・ド・メスは暗がりから姿を現わすと、わざとらしく、力こぶをつくるポーズをとってみせた。
メスさんのからだから、現世に魂が戻っていこうという兆候が一切ない。
どういうことだ——?
「くふふふふ。まだきさまの使命は終わってないのよ」
「くそぅ。そうか。ジャンヌの命が脅かされるのは、本来この場所じゃなかった」
「そう、そしてきさまはそれを完遂できないの」
「やってみせるよ。あんたはとんでもなく強かったけど、もう邪魔できない。ぼくとリアムさんがいれば、歴史を変えてジャンヌを救える」
「リアムと一緒に?」
「それは無理ね」
ハマリエルがにたりと笑った。
「リアムは死んだもの」
------------------------------------------------------------
セイはハマリエルの胴体のかたわらに倒れているはずのリアムのほうへ目をやった。
リアムは座っているジャンヌ・ダルクの膝に頭を預けていたが、あきらかに意識がない様子がみえる。松明に浮かびあがるジャンヌの表情は哀しみに沈んでいる。
「リアム……リアムさん」
セイはリアムの足元に滑り込んだ。
リアムがうっすらと目を開けた。
今まで戦ってきたトラウマは倒したと同時に、からだの一部が黒い霧となって空中に舞い始めただけに、そのような変化が起きないことに、セイはおどろいた。
まだ倒せてない?
セイはあわてて地面に転がったハマリエルの頭の元へ駆け寄った。ハマリエルの頭はまだ生きていてきょろきょろと辺りを見回していた。
「まだ生きてるのか!」
おもわずセイが叫ぶと、ハマリエルの頭が反応した。
「生きてる? 生き…… そうか」
ハマリエルはぎりっと歯を食いしばった。悔しさと無念の思いが顔に刻まれる。
「わたしは……殺られたのかぁぁぁ」
「ああ、きみは負けたんだ」
セイは足元のハマリエルの頭を見おろした。ハマリエルがセイの顔を睨みつけてきたが、セイはほっとした思いを吐きだした。
「これでこの歴史を変えて、ジャンヌを生きながらえさせられる」
ハマリエルの憤怒にゆがんだ顔が、ふいに不敵な笑みに変わった。
「ふ、すべて終わったと思っているの?」
「負け惜しみかい?」
「おまえたちの時代からきた魂はどうなってる?」
セイはハッとして自分のからだに目をやった。なにか変化が起きているようには見えなかった。
『おかしい。魂が現世に戻っていかない……』
「ジャン・ド・メス! メスさんはいまどこにいますか?」
セイが暗闇にむかって叫ぶと、すぐに威勢のいい声が返ってきた。
「セイ殿、わたしはここです! ご心配なくかすり傷ひとつ負ってません」
ジャン・ド・メスは暗がりから姿を現わすと、わざとらしく、力こぶをつくるポーズをとってみせた。
メスさんのからだから、現世に魂が戻っていこうという兆候が一切ない。
どういうことだ——?
「くふふふふ。まだきさまの使命は終わってないのよ」
「くそぅ。そうか。ジャンヌの命が脅かされるのは、本来この場所じゃなかった」
「そう、そしてきさまはそれを完遂できないの」
「やってみせるよ。あんたはとんでもなく強かったけど、もう邪魔できない。ぼくとリアムさんがいれば、歴史を変えてジャンヌを救える」
「リアムと一緒に?」
「それは無理ね」
ハマリエルがにたりと笑った。
「リアムは死んだもの」
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セイはハマリエルの胴体のかたわらに倒れているはずのリアムのほうへ目をやった。
リアムは座っているジャンヌ・ダルクの膝に頭を預けていたが、あきらかに意識がない様子がみえる。松明に浮かびあがるジャンヌの表情は哀しみに沈んでいる。
「リアム……リアムさん」
セイはリアムの足元に滑り込んだ。
リアムがうっすらと目を開けた。
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