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ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第65話 なんとか死なずに済んだ
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「……イ…… セイ…… セイ様、神の子、セイ」
リアムの気配が消えてからしばらくして、セイは自分を呼ぶ声に意識を呼び戻された。目を開けると、自分の顔を覗き込んでいるジャンヌ・ダルクの顔があった。
「ああ、セイ。無事でしたのね」
「ジャンヌ……残念だけど、無事、とは言えない。なんとか死なずに済んだってとこ。今、全力を集中してからだを修復中なんだ」
「治せる……のですか?」
「なんとかね。リアムに力を分けてもらったから。だけど次は……」
そのとき、セイの顔に冷たいものがふりかかった。
ジャンヌが泣いていた。
おおきな瞳から流れでた大粒の涙が、セイの頬の上にぽたぽたと落ちてくる。
「セイ…… わたしのために……命を……」
「そのために来たんだ」
「でももう無理はしないでください……」
「そうはいかないよ」
「ですが、わたしのような者のために、神の子の命を危険にさらすわけにはいきません」
「ジャンヌ。きみは神の声を聞いたんだろ」
「え? はい……」
「なら、きみは神に選ばれた女性だ。神の子が命を懸けるに値するネ」
セイはわざとらしく語尾をあげて、軽口をたたいているように言うと、ジャンヌは困ったように眉根を寄せながら破顔した。
「まぁ、セイ…… 神の子ですのに、まるで女性を口説いているような口ぶりですわよ」
「ん、まぁ、そうとも言えるかもね」
「どういうことですの?」
セイはゆっくりとからだを起こした。まだ胸のキズが疼いたが、傷そのものは完全に閉じていたし、破損した臓器や血管はほぼ修復されていた。
大丈夫。戦える——
「ジャンヌ。きみに出会った人は、みんなきみの虜になるのさ。だれだってきみのために命を投げ出せるほどにね」
そう言ってセイはジャンヌの背後にいる面々を見やった。
ラ・イール、ル・バタール、ジャン・ド・ブロス、ジル・ド・レ、そしてジャン・ド・メスたちが心配そうに見守っていた。
セイは彼らに目で大丈夫だ、というサインを送ってから立ち上がった。
「セイ。おまえさん、大丈夫なのか? ずいぶんひどい怪我だったが」
ラ・イールが声をあげた。
「ラ・イール。ぼくは神の子ですよ。この程度でやられやしません」
「だけど、セイ、その神の御力をもってしても、あいつにはまったく歯がたたないじゃないか?」
「ええ、ジル様。つよいです。あいつは今まで遭遇したトラウマのなかでも、別格と言っていいほどつよい。でもまだ負けたわけじゃない」
「セイ、わたくしたちになにか手伝えることはないだろうか?」
「ル・バタール、ありがとうございます。ですが……なにも……」
そう言いかけて、セイはふと思いついた。
「いえ、みなさんにやってもらいたいことがあります」
リアムの気配が消えてからしばらくして、セイは自分を呼ぶ声に意識を呼び戻された。目を開けると、自分の顔を覗き込んでいるジャンヌ・ダルクの顔があった。
「ああ、セイ。無事でしたのね」
「ジャンヌ……残念だけど、無事、とは言えない。なんとか死なずに済んだってとこ。今、全力を集中してからだを修復中なんだ」
「治せる……のですか?」
「なんとかね。リアムに力を分けてもらったから。だけど次は……」
そのとき、セイの顔に冷たいものがふりかかった。
ジャンヌが泣いていた。
おおきな瞳から流れでた大粒の涙が、セイの頬の上にぽたぽたと落ちてくる。
「セイ…… わたしのために……命を……」
「そのために来たんだ」
「でももう無理はしないでください……」
「そうはいかないよ」
「ですが、わたしのような者のために、神の子の命を危険にさらすわけにはいきません」
「ジャンヌ。きみは神の声を聞いたんだろ」
「え? はい……」
「なら、きみは神に選ばれた女性だ。神の子が命を懸けるに値するネ」
セイはわざとらしく語尾をあげて、軽口をたたいているように言うと、ジャンヌは困ったように眉根を寄せながら破顔した。
「まぁ、セイ…… 神の子ですのに、まるで女性を口説いているような口ぶりですわよ」
「ん、まぁ、そうとも言えるかもね」
「どういうことですの?」
セイはゆっくりとからだを起こした。まだ胸のキズが疼いたが、傷そのものは完全に閉じていたし、破損した臓器や血管はほぼ修復されていた。
大丈夫。戦える——
「ジャンヌ。きみに出会った人は、みんなきみの虜になるのさ。だれだってきみのために命を投げ出せるほどにね」
そう言ってセイはジャンヌの背後にいる面々を見やった。
ラ・イール、ル・バタール、ジャン・ド・ブロス、ジル・ド・レ、そしてジャン・ド・メスたちが心配そうに見守っていた。
セイは彼らに目で大丈夫だ、というサインを送ってから立ち上がった。
「セイ。おまえさん、大丈夫なのか? ずいぶんひどい怪我だったが」
ラ・イールが声をあげた。
「ラ・イール。ぼくは神の子ですよ。この程度でやられやしません」
「だけど、セイ、その神の御力をもってしても、あいつにはまったく歯がたたないじゃないか?」
「ええ、ジル様。つよいです。あいつは今まで遭遇したトラウマのなかでも、別格と言っていいほどつよい。でもまだ負けたわけじゃない」
「セイ、わたくしたちになにか手伝えることはないだろうか?」
「ル・バタール、ありがとうございます。ですが……なにも……」
そう言いかけて、セイはふと思いついた。
「いえ、みなさんにやってもらいたいことがあります」
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