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ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第52話 時間はおれがかせぐ!
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間に合わなかった——
ビームに右胸を貫かれて、セイはうしろにはね飛ばされていた。
斬り落したはずの左腕から放たれたビームだった。
ドラゴンの背中の上をごろごろと転がっていく。すぐさまリアムが空気の壁でセイのからだを押しとどめてくれたが、腹と胸を穿たれたセイはまったく反応できなかった。
「セイっっ! 精神を集中して、傷をその穴を修復するのにつとめろ!。おまえさんの精神力だったら大丈夫だ。なんとでもなる」
リアムがふらふらと立ち上がりながら言った。
「時間はおれがかせぐ!」
------------------------------------------------------------
リアムは自分が『ハマリエル』という名前に完全に怖じ気づいていることがわかっていた。
キリスト教を信仰する者なら、精神世界にダイブして悪魔と戦い続けているものなら、この黄道十二宮に属する存在がどれほど上位者なのかを知っている。
本来ならこちら側に味方したかもしれない堕天使——
もちろん、今まで同等な脅威と邂逅したこともない。
それどころか仲間内でそんな話に盛りあがった時も、それほどの高位の悪魔と一生出くわすことはないだろう、と一笑に付されたことさえある。
倒せる、倒せない、という可能性を考えていい相手ではない。
けっして出くわしてはならない敵なのだ。
目の前のハマリエルは『処女宮の悪魔』を体現するかのように、むしろ可憐な少女の姿をしている。ふつうならこちらを威嚇するため、異形の化物になったり、人間サイズを越える体躯を誇示してみせるものだ。
それが少女の姿で現われた——
それだけ己の力に絶対的な自信がある証左だ。
「さぁて…… 空気ごときでどこまで行けるかだな」
リアムはセイに聞こえないよう呟いた。ちらりの目の端でセイの姿をとらえる。
セイは苦しそうに顔をしかめながらも、精神を集中させて言いつけどおり、自分のからだの回復に注力しているようだった。
この少年は無事に現世に戻さないといけない——
ハマリエルが切られた腕を拾いあげ、元の場所に戻した。その瞬間、切られたことが嘘であったように腕が修復された。
こっちも速いってかぁ。
そのとき、リアムはドラゴンが高度を下げていることに気づいた。
落ちてる——?
リアムはさきほどセイがドラゴンに、どんな攻撃を仕掛けたのかわかっていなかったが、それが今も効いているのだと理解した。
「ドラゴンが落ちてるぜ。ハマリエル」
ハマリエルは首をうしろにむけて、ドラゴンの顔のほうに目をやった。
「そのようね。まったく役立たずったらないわ」
「はん、おまえさんの力不足ってことじゃないのかね」
「まぁ、そうとも言えるでしょうね」
ハマリエルはかるくため息をついた。
「このドラゴンといい、グラスデールといい、わたしの期待を裏切ってくれますわね」
ハマリエルがうんざりしたような目つきをリアムへむけてから言った。
「まぁいいですわ。役立たずは始末します」
ビームに右胸を貫かれて、セイはうしろにはね飛ばされていた。
斬り落したはずの左腕から放たれたビームだった。
ドラゴンの背中の上をごろごろと転がっていく。すぐさまリアムが空気の壁でセイのからだを押しとどめてくれたが、腹と胸を穿たれたセイはまったく反応できなかった。
「セイっっ! 精神を集中して、傷をその穴を修復するのにつとめろ!。おまえさんの精神力だったら大丈夫だ。なんとでもなる」
リアムがふらふらと立ち上がりながら言った。
「時間はおれがかせぐ!」
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リアムは自分が『ハマリエル』という名前に完全に怖じ気づいていることがわかっていた。
キリスト教を信仰する者なら、精神世界にダイブして悪魔と戦い続けているものなら、この黄道十二宮に属する存在がどれほど上位者なのかを知っている。
本来ならこちら側に味方したかもしれない堕天使——
もちろん、今まで同等な脅威と邂逅したこともない。
それどころか仲間内でそんな話に盛りあがった時も、それほどの高位の悪魔と一生出くわすことはないだろう、と一笑に付されたことさえある。
倒せる、倒せない、という可能性を考えていい相手ではない。
けっして出くわしてはならない敵なのだ。
目の前のハマリエルは『処女宮の悪魔』を体現するかのように、むしろ可憐な少女の姿をしている。ふつうならこちらを威嚇するため、異形の化物になったり、人間サイズを越える体躯を誇示してみせるものだ。
それが少女の姿で現われた——
それだけ己の力に絶対的な自信がある証左だ。
「さぁて…… 空気ごときでどこまで行けるかだな」
リアムはセイに聞こえないよう呟いた。ちらりの目の端でセイの姿をとらえる。
セイは苦しそうに顔をしかめながらも、精神を集中させて言いつけどおり、自分のからだの回復に注力しているようだった。
この少年は無事に現世に戻さないといけない——
ハマリエルが切られた腕を拾いあげ、元の場所に戻した。その瞬間、切られたことが嘘であったように腕が修復された。
こっちも速いってかぁ。
そのとき、リアムはドラゴンが高度を下げていることに気づいた。
落ちてる——?
リアムはさきほどセイがドラゴンに、どんな攻撃を仕掛けたのかわかっていなかったが、それが今も効いているのだと理解した。
「ドラゴンが落ちてるぜ。ハマリエル」
ハマリエルは首をうしろにむけて、ドラゴンの顔のほうに目をやった。
「そのようね。まったく役立たずったらないわ」
「はん、おまえさんの力不足ってことじゃないのかね」
「まぁ、そうとも言えるでしょうね」
ハマリエルはかるくため息をついた。
「このドラゴンといい、グラスデールといい、わたしの期待を裏切ってくれますわね」
ハマリエルがうんざりしたような目つきをリアムへむけてから言った。
「まぁいいですわ。役立たずは始末します」
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