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ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第49話 さあ、死に行く時間ですわ
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「さあ、死に行く時間ですわ」
ハマリエルの声には先ほどまでの重たい響きはなかった。が、こころを切り裂くような鋭利な響きをまとっていた。
「このトラウマ、女なのか……」
セイが驚きもそのまま口にした。
「セイ、こいつらに性別なんかない。ただこちらを惑わせようとしているだけだ」
リアムは変貌しおえたハマリエルを注視した。
ひらひらとした装飾をからだにまとわせ、猛獣や猛禽ですらひれ伏すであろうほどの、残酷な目をこちらにむけている。その姿はまちがいなく邪気の塊であるにもかかわらず、高潔さや徳の高さを印象づけ、天使にも悪魔にも見えた。
絶対的な悪魔だ——
リアムはその姿に惹かれそうになっている自分に気づいて、そう言い聞かせた。
「リアム…… あなたは知っていますよね。あなたがたの仲間が死んでいるのを」
セイがこちらに目をむけたのがわかった。だがリアムはぎゅっと口を引き結んだだけだった。
「わたくしはすでに10人ほど、あなたの仲間を葬りましたわ。たぶん全員死んでいるはずですわ。それとも、心臓が動いてればこころが機能しなくなっても、『生きてる』って言うのですか?」
「死んだわけじゃないっ!」
リアムは絞り出すようにして言った。
「そうね。でも自分の意志も感情もなくなって、ただ生命を維持している状態でしょう。それを生きてるって言えるって、ずいぶん前向きですね」
リアムは自分たちとおなじ団体『ダイバーズ・オブ・ゴッド』に所属する友人を思い出した。
昔、なんども一緒にダイブした男で、その経験値を買われ、スペインの部隊へスカウトされ活躍していたと聞いていた。
だが、数ヶ月前、ダイブ先で事故が起きた。
溺れた、という隠語でかたられる、ダイバーの意識が前世の記憶から戻ってこない事故だ。
いや、正確には事故ではない。
あちらの世界で命を落とした、のだから。
「生きてるって言うさ。脳死状態でも植物人間でもないんだからな」
リアムはハマリエルを睨みつけた。
「まぁ。人間とは愚かですね。ゾンビのように意志も持たずに徘徊しているでしょうに、それを生きてる、などと……」
見舞いに訪れた病院で見た友人の姿がフラッシュバックする。
なんの表情もない生気のない顔。からだをゆらゆら揺らしながら、すり足で目的もなくうろついている様。おむつをあてがわれ、だらしない格好で廊下を歩くのを、だれも気に留めようとしない。
そう、ハマリエルが指摘するとおり、ゾンビ、そのものだ。
「おまえさんがおれたちの仲間を狩った、っていうなら、おれはその復讐をしなきゃなんないな」
「あら、できるとでも?」
「さあ……でもやらないと、やられるだけだろ?」
「そう……このまま逃がすような慈悲は、端から持ち合わせてませんしね」
ハマリエルが指先をこちらにむけた。
ハマリエルの声には先ほどまでの重たい響きはなかった。が、こころを切り裂くような鋭利な響きをまとっていた。
「このトラウマ、女なのか……」
セイが驚きもそのまま口にした。
「セイ、こいつらに性別なんかない。ただこちらを惑わせようとしているだけだ」
リアムは変貌しおえたハマリエルを注視した。
ひらひらとした装飾をからだにまとわせ、猛獣や猛禽ですらひれ伏すであろうほどの、残酷な目をこちらにむけている。その姿はまちがいなく邪気の塊であるにもかかわらず、高潔さや徳の高さを印象づけ、天使にも悪魔にも見えた。
絶対的な悪魔だ——
リアムはその姿に惹かれそうになっている自分に気づいて、そう言い聞かせた。
「リアム…… あなたは知っていますよね。あなたがたの仲間が死んでいるのを」
セイがこちらに目をむけたのがわかった。だがリアムはぎゅっと口を引き結んだだけだった。
「わたくしはすでに10人ほど、あなたの仲間を葬りましたわ。たぶん全員死んでいるはずですわ。それとも、心臓が動いてればこころが機能しなくなっても、『生きてる』って言うのですか?」
「死んだわけじゃないっ!」
リアムは絞り出すようにして言った。
「そうね。でも自分の意志も感情もなくなって、ただ生命を維持している状態でしょう。それを生きてるって言えるって、ずいぶん前向きですね」
リアムは自分たちとおなじ団体『ダイバーズ・オブ・ゴッド』に所属する友人を思い出した。
昔、なんども一緒にダイブした男で、その経験値を買われ、スペインの部隊へスカウトされ活躍していたと聞いていた。
だが、数ヶ月前、ダイブ先で事故が起きた。
溺れた、という隠語でかたられる、ダイバーの意識が前世の記憶から戻ってこない事故だ。
いや、正確には事故ではない。
あちらの世界で命を落とした、のだから。
「生きてるって言うさ。脳死状態でも植物人間でもないんだからな」
リアムはハマリエルを睨みつけた。
「まぁ。人間とは愚かですね。ゾンビのように意志も持たずに徘徊しているでしょうに、それを生きてる、などと……」
見舞いに訪れた病院で見た友人の姿がフラッシュバックする。
なんの表情もない生気のない顔。からだをゆらゆら揺らしながら、すり足で目的もなくうろついている様。おむつをあてがわれ、だらしない格好で廊下を歩くのを、だれも気に留めようとしない。
そう、ハマリエルが指摘するとおり、ゾンビ、そのものだ。
「おまえさんがおれたちの仲間を狩った、っていうなら、おれはその復讐をしなきゃなんないな」
「あら、できるとでも?」
「さあ……でもやらないと、やられるだけだろ?」
「そう……このまま逃がすような慈悲は、端から持ち合わせてませんしね」
ハマリエルが指先をこちらにむけた。
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