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ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第39話 ジル・ド・レ、きみたちには無理だ
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「アランソン公! 手伝ってください!」
セイは大声で叫んだ。
返事はなかった。ジャンヌがすぐに声をかけてきた。
「セイ。アランソン公は戦えませんよ。それに戦えたとしても……」
「ジャンヌ。あのひとはちがうんです」
「なにが……」
そこにジル・ド・レがわってはいってきた。悲鳴のような訴えだった。
「セイ、ぼくらがジャンヌを守る。だから砦の兵士を助けてくれ」
「ジル・ド・レ、きみたちには無理だ。さっき思い知ったはずだろ」
「ああ、わかってるさ。セイ。おまえさんの言う通りだ」
ラ・イールが剣をぎゅっと握りしめながら言った。
「だが、オレたちゃ戦士だぜ。お姫さまのひとりくらい守ってやるさね」
「ああ。わたくしもラ・イールに賛成だ。ジャンヌはこれからフランスを勝利に導いてもらわねばならんのだ。そのためにこの命をかけること、けっして無為だとは思わん」
ル・バタールが心意気を口にすると、それまで恐怖や驚愕に押し黙っていたジャン・ド・メスやベルトラン・ド・ブーランジイたちも賛同の声をあげはじめた。
「守れない!」
セイが湧きあがった兵士の声を一喝した。
「砦の上の仲間を助けるどころか、ここにいる君たちのことだって、ぼくひとりで全員守るのは不可能なんだ」
「だから、セイ殿、我々は戦って」
メスが不満げに言うのを、セイが制した。
「ジャン。あれはきみたちがあの城で戦った黒騎士とはレベルがちがう。あれは実体がなかった。ここにいるやつらは死人をベースにして実体がある。きみたちじゃあ、到底かなわない」
ぎゃあああ……
砦の上から悲鳴があがった。
と同時に川岸で黒い兵士を迎え撃とうとしていた、フランス兵のあいだからも悲鳴があがりはじめた。
セイがそちらに目をむけると、すでに数人のフランス兵が倒れていた。不気味な動きで剣をふりまわす黒い兵士たちにまるで歯がたたないようだった。まるで関節がはずれているかのようなトリッキーな動きに、練度が高い兵士でさえ翻弄されていた。
そこかしこで悲鳴があがる。
どうする……
「セイ。わたしのことはかまいません。兵を助けてあげてください」
ジャンヌはヒステリックに叫んだ。
「そうはいきません、ジャンヌ。ぼくの使命はきみを、きみとジャン・ド・メスを守ることなんだ」
あたりから聞こえる悲鳴に負けないように、セイも声をあらげた。
そのとき、頭上から重たい空気がズーンと落ちてきた。まるで一瞬でそこだけ低気圧になったかのような感覚。耳がつまって、あたりの音が聞こえにくい。
どっちだ。トラウマか、それとも……
セイはぐっと身構えた。
が、その瞬間、黒い兵士たちのからだが、空中にはね跳ぶのがみえた。一度に十人以上ものからだが空中に舞っていくと、兵士たちのからだがバラバラに弾け飛んだ。
いくつかの肉片に切り刻まれた兵士の肉塊が、ボトボトと上空から落ちてきた。
そこにひとりの男が立っていた。
「美しき公爵さま」
セイは大声で叫んだ。
返事はなかった。ジャンヌがすぐに声をかけてきた。
「セイ。アランソン公は戦えませんよ。それに戦えたとしても……」
「ジャンヌ。あのひとはちがうんです」
「なにが……」
そこにジル・ド・レがわってはいってきた。悲鳴のような訴えだった。
「セイ、ぼくらがジャンヌを守る。だから砦の兵士を助けてくれ」
「ジル・ド・レ、きみたちには無理だ。さっき思い知ったはずだろ」
「ああ、わかってるさ。セイ。おまえさんの言う通りだ」
ラ・イールが剣をぎゅっと握りしめながら言った。
「だが、オレたちゃ戦士だぜ。お姫さまのひとりくらい守ってやるさね」
「ああ。わたくしもラ・イールに賛成だ。ジャンヌはこれからフランスを勝利に導いてもらわねばならんのだ。そのためにこの命をかけること、けっして無為だとは思わん」
ル・バタールが心意気を口にすると、それまで恐怖や驚愕に押し黙っていたジャン・ド・メスやベルトラン・ド・ブーランジイたちも賛同の声をあげはじめた。
「守れない!」
セイが湧きあがった兵士の声を一喝した。
「砦の上の仲間を助けるどころか、ここにいる君たちのことだって、ぼくひとりで全員守るのは不可能なんだ」
「だから、セイ殿、我々は戦って」
メスが不満げに言うのを、セイが制した。
「ジャン。あれはきみたちがあの城で戦った黒騎士とはレベルがちがう。あれは実体がなかった。ここにいるやつらは死人をベースにして実体がある。きみたちじゃあ、到底かなわない」
ぎゃあああ……
砦の上から悲鳴があがった。
と同時に川岸で黒い兵士を迎え撃とうとしていた、フランス兵のあいだからも悲鳴があがりはじめた。
セイがそちらに目をむけると、すでに数人のフランス兵が倒れていた。不気味な動きで剣をふりまわす黒い兵士たちにまるで歯がたたないようだった。まるで関節がはずれているかのようなトリッキーな動きに、練度が高い兵士でさえ翻弄されていた。
そこかしこで悲鳴があがる。
どうする……
「セイ。わたしのことはかまいません。兵を助けてあげてください」
ジャンヌはヒステリックに叫んだ。
「そうはいきません、ジャンヌ。ぼくの使命はきみを、きみとジャン・ド・メスを守ることなんだ」
あたりから聞こえる悲鳴に負けないように、セイも声をあらげた。
そのとき、頭上から重たい空気がズーンと落ちてきた。まるで一瞬でそこだけ低気圧になったかのような感覚。耳がつまって、あたりの音が聞こえにくい。
どっちだ。トラウマか、それとも……
セイはぐっと身構えた。
が、その瞬間、黒い兵士たちのからだが、空中にはね跳ぶのがみえた。一度に十人以上ものからだが空中に舞っていくと、兵士たちのからだがバラバラに弾け飛んだ。
いくつかの肉片に切り刻まれた兵士の肉塊が、ボトボトと上空から落ちてきた。
そこにひとりの男が立っていた。
「美しき公爵さま」
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