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ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第38話 セイ、グラスデールの刺客を討つ
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ガン、ガン、ガン!
どうしても避けきれない部位にぶつかって、兵士の鎧が武骨な金属音をたてた。が、セイの剣の切っ先は滑らかな円弧を描いて、敵兵の急所を的確にトレースしていた。
一瞬、なにも起きなかったのでは、という間があったが、足の付け根、の順番に敵兵のからだの部位が地面に落ちた。
そして最後に首がゴロンともげおちた。
その頭が兜ごと落ちてガチャンと音を立てる前に、セイはジル・ド・レを狙った黒騎士のほうへ駆け出すと、余計な動きを一切排して、首だけをはね飛ばした。黒騎士の首が空中に舞うのをみて、ジル・ド・レがなにか口をもごもごと動かしたのが見えたが、セイはかまわずル・バタールにむけられた刺客のほうに剣をふるった。
最後のひとりはほかのふたりよりも腕が立った。セイの一閃を正面で受けると、すかさず反撃に転じた。だが、セイは宙に浮いたままにしておいた3本の剣を、その背後から襲いかからせた。
3本の剣は致命傷を与えることはできなかったが、注意をセイからそらせるだけの効果はあった。うしろから衝撃に思わず黒騎士がよろめいた瞬間、セイの剣は兜の覆いをはねあげ、その隙間から頭を貫いていた。
「は、小僧。いい腕をしている……と、ほめてもらいたいか?」
グラスデールが不敵な声色で言った。
なにか仕掛けてくるか——
その不穏な言い方が気になって、セイはわざと明るく煽ってみせた。
「うん、ほめて、ほめて。ぼく、ほめられて伸びるタイプだからね」
「ふ、では次の攻撃を防げたら、ほめてやろう」
グラスデールがパチンと指をならす仕草をした。とたんにロワール川のそこかしこから兵士や騎士が浮かびあがってきた。100人をゆうに超える数だった。
黒い兵士たちがふいに動きはじめた。芯のないゆらゆらとした動きで、川岸ちかくにいるフランス兵のほうへ向っていく。あきらかに人間ばなれした動きだった。
フランス兵はその不気味な動きに気圧されて、身動きできずにいた。
うわぁぁぁぁ
突然、砦のうえから悲鳴が聞こえた。
そこに黒い兵士たちの群れがあった。倒されたはずの兵が邪気をまとったまま蘇ったのだとわかった。グラスデールが蘇らせた死んだ兵士は、川に沈んだものだけでないことがわかった。
「セイ!」
ジャンヌが不安をいっぱいに含んだ声をあげた。
「ジャンヌ、大丈夫だ。きみはぼくが守る」
「ですが、ほかの兵士たちは……」
「数が多すぎる。ここにいるひとたちはなんとかなるけど……」
「それでは、フランス軍は負けます。せっかくレ・トゥレール要塞を落としたと思ったのに……」
「わかってる。だけど、ぼくはきみの近くを離れるわけにはいかない」
セイはそう言いながら、あたりを見渡してアランソン公の姿をさがした。戦いには直接参加はしていなかったが、潜むようにして戦況を見守っているはずだった。
だが彼の姿は視認できる範囲にはいなかった。
どうしても避けきれない部位にぶつかって、兵士の鎧が武骨な金属音をたてた。が、セイの剣の切っ先は滑らかな円弧を描いて、敵兵の急所を的確にトレースしていた。
一瞬、なにも起きなかったのでは、という間があったが、足の付け根、の順番に敵兵のからだの部位が地面に落ちた。
そして最後に首がゴロンともげおちた。
その頭が兜ごと落ちてガチャンと音を立てる前に、セイはジル・ド・レを狙った黒騎士のほうへ駆け出すと、余計な動きを一切排して、首だけをはね飛ばした。黒騎士の首が空中に舞うのをみて、ジル・ド・レがなにか口をもごもごと動かしたのが見えたが、セイはかまわずル・バタールにむけられた刺客のほうに剣をふるった。
最後のひとりはほかのふたりよりも腕が立った。セイの一閃を正面で受けると、すかさず反撃に転じた。だが、セイは宙に浮いたままにしておいた3本の剣を、その背後から襲いかからせた。
3本の剣は致命傷を与えることはできなかったが、注意をセイからそらせるだけの効果はあった。うしろから衝撃に思わず黒騎士がよろめいた瞬間、セイの剣は兜の覆いをはねあげ、その隙間から頭を貫いていた。
「は、小僧。いい腕をしている……と、ほめてもらいたいか?」
グラスデールが不敵な声色で言った。
なにか仕掛けてくるか——
その不穏な言い方が気になって、セイはわざと明るく煽ってみせた。
「うん、ほめて、ほめて。ぼく、ほめられて伸びるタイプだからね」
「ふ、では次の攻撃を防げたら、ほめてやろう」
グラスデールがパチンと指をならす仕草をした。とたんにロワール川のそこかしこから兵士や騎士が浮かびあがってきた。100人をゆうに超える数だった。
黒い兵士たちがふいに動きはじめた。芯のないゆらゆらとした動きで、川岸ちかくにいるフランス兵のほうへ向っていく。あきらかに人間ばなれした動きだった。
フランス兵はその不気味な動きに気圧されて、身動きできずにいた。
うわぁぁぁぁ
突然、砦のうえから悲鳴が聞こえた。
そこに黒い兵士たちの群れがあった。倒されたはずの兵が邪気をまとったまま蘇ったのだとわかった。グラスデールが蘇らせた死んだ兵士は、川に沈んだものだけでないことがわかった。
「セイ!」
ジャンヌが不安をいっぱいに含んだ声をあげた。
「ジャンヌ、大丈夫だ。きみはぼくが守る」
「ですが、ほかの兵士たちは……」
「数が多すぎる。ここにいるひとたちはなんとかなるけど……」
「それでは、フランス軍は負けます。せっかくレ・トゥレール要塞を落としたと思ったのに……」
「わかってる。だけど、ぼくはきみの近くを離れるわけにはいかない」
セイはそう言いながら、あたりを見渡してアランソン公の姿をさがした。戦いには直接参加はしていなかったが、潜むようにして戦況を見守っているはずだった。
だが彼の姿は視認できる範囲にはいなかった。
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