870 / 935
ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第36話 歴史通りに終わられては困るのだよ
しおりを挟む
「グ、グラスデール様、オルレアン市民がこちらに押し寄せてきています」
「市民が? なにを怖れることがある」
「いや、それが……」
だがグラスデールは橋を埋め尽くす人々に恐怖した。まるで民衆の海がうなりをあげて、こちらを飲みこもうとしているようだった。
「砦を守らねば」
グラスデールはちいさな橋をわたって避難しようとした。
その姿をジャンヌ・ダルクは見逃さなかった。
「クラシダ! もう降伏なさい」
「この淫売! きさま、いったいなにをした!」
「またそのような穢らわしいことばを。わたしは神の御心に従っただけです」
「神だとぉ。神はいつだってイングランドの味方だ」
「神があなたを許すようにと、わたしに語りかけてきます。ですから降伏をしてください」
「負けたわけではない!」
ドカン!
その瞬間、グラスデールたちがいた橋にフランス軍が放った石弾が命中した。あっという間に橋が粉砕した。
「う、うわわわわ」
グラスデールは崩れる橋に必死にしがみつこうとしたが、ほかの兵士たち同様、それはかなわなかった。イングランド兵は指揮官と一緒に、一斉にロワール川に投げ出された。
頭のてっぺんから重たい鎧で完全武装していたイングランド兵は、必死で水をかいて浮かびあがろうとしたが、水面を数回ビチャビチャと叩いただけで沈んでいった。
「おお、クラシダ。あなたの魂を深く憐れみます」
ジャンヌはだれもいない橋の残骸にむかって叫んだ。
「クラシダ、クラシダ。天上の王に降参しなさい。あなたはわたしを淫売呼ばわりしました。ですが、あなたの霊魂とあなたの部下の霊魂を、おおいに憐れんでさしあげます」
ジャンヌは泣いていた。
「ジャンヌ、これは戦争なんだ。しかたがないよ」
「彼らに告解のチャンスを与えられなかったのが残念なのです」
そのときロワール川の水面がぐぐっと持ち上がるのが見えた。
『なに?』
やがてそれは水の柱のようにおおきく膨れ上がったかと思うと、そのなかになにかが立っているのが見えた。
それはグラスデール、そしてその部下たちだった。
「ど、どういうこったい」
ラ・イールがびっくりして声をあげると、ジル・ド・レも声を震わせる。
「な、なんで水の上に浮いているんだ」
『歴史通りに終わられては困るのだよ』
グラスデールが人間のものとは思えない声で言った。まるで変成器でも使っているような不自然きわまりない、そして邪悪な声。からだに邪気をまとい、それがまるでどす黒い経帷子を身にまとっているように見えた。
「黒い騎士……」
ジャンヌが目をみはった。
「しゃべった……だと……」
ル・バタールが呆然としたまま呟いた。
「みんなさがってくれるかな」
セイはみんなを制止するように、手を横につきだして言った、
「こいつは……」
「神の子案件だ」
「市民が? なにを怖れることがある」
「いや、それが……」
だがグラスデールは橋を埋め尽くす人々に恐怖した。まるで民衆の海がうなりをあげて、こちらを飲みこもうとしているようだった。
「砦を守らねば」
グラスデールはちいさな橋をわたって避難しようとした。
その姿をジャンヌ・ダルクは見逃さなかった。
「クラシダ! もう降伏なさい」
「この淫売! きさま、いったいなにをした!」
「またそのような穢らわしいことばを。わたしは神の御心に従っただけです」
「神だとぉ。神はいつだってイングランドの味方だ」
「神があなたを許すようにと、わたしに語りかけてきます。ですから降伏をしてください」
「負けたわけではない!」
ドカン!
その瞬間、グラスデールたちがいた橋にフランス軍が放った石弾が命中した。あっという間に橋が粉砕した。
「う、うわわわわ」
グラスデールは崩れる橋に必死にしがみつこうとしたが、ほかの兵士たち同様、それはかなわなかった。イングランド兵は指揮官と一緒に、一斉にロワール川に投げ出された。
頭のてっぺんから重たい鎧で完全武装していたイングランド兵は、必死で水をかいて浮かびあがろうとしたが、水面を数回ビチャビチャと叩いただけで沈んでいった。
「おお、クラシダ。あなたの魂を深く憐れみます」
ジャンヌはだれもいない橋の残骸にむかって叫んだ。
「クラシダ、クラシダ。天上の王に降参しなさい。あなたはわたしを淫売呼ばわりしました。ですが、あなたの霊魂とあなたの部下の霊魂を、おおいに憐れんでさしあげます」
ジャンヌは泣いていた。
「ジャンヌ、これは戦争なんだ。しかたがないよ」
「彼らに告解のチャンスを与えられなかったのが残念なのです」
そのときロワール川の水面がぐぐっと持ち上がるのが見えた。
『なに?』
やがてそれは水の柱のようにおおきく膨れ上がったかと思うと、そのなかになにかが立っているのが見えた。
それはグラスデール、そしてその部下たちだった。
「ど、どういうこったい」
ラ・イールがびっくりして声をあげると、ジル・ド・レも声を震わせる。
「な、なんで水の上に浮いているんだ」
『歴史通りに終わられては困るのだよ』
グラスデールが人間のものとは思えない声で言った。まるで変成器でも使っているような不自然きわまりない、そして邪悪な声。からだに邪気をまとい、それがまるでどす黒い経帷子を身にまとっているように見えた。
「黒い騎士……」
ジャンヌが目をみはった。
「しゃべった……だと……」
ル・バタールが呆然としたまま呟いた。
「みんなさがってくれるかな」
セイはみんなを制止するように、手を横につきだして言った、
「こいつは……」
「神の子案件だ」
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる