867 / 935
ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第33話 イングランド軍の要衝レ・トゥーレル要塞
しおりを挟む
翌5月7日 早朝——
去年の10月以来、オルレアンを苦しめ続けたイングランド軍の要衝レ・トゥーレル要塞。ロワール川にかかる橋のたもとを塞ぐように建てられ、四方を建物で囲まれた小広場があり、その奥に石造りの頑丈ながそびえたっていた。イングランド軍の守備にも死角もなく、簡単には攻め落とせそうにない場所である。
オルレアンの町からは昨晩のうちにロワール川を渡河し、オーギュスタン要塞へ食料が運び込まれていた。市民たちは王太子軍の首脳たちの決定よりも、2つの要塞を立て続けに陥落させたジャンヌ・ダルクを支持していた。自分たちは戦うことはないが、協力はおしまなかった。もしかしたら市民はなんとなく勝利を感じ取っていたのかもしれない、
「突撃!」
三角旗がふられ、ジャンヌ・ダルクはレ・トゥーレル要塞に攻撃をしかけた。
要塞へ向かって一気に突撃する兵士たち。われさきとはしごを城壁にかけてよじ登ろうとする、だが、雨のように降り注いでくる弓矢に、ひとりまたひとりと倒れていく。
攻撃開始の報告を受けてル・バタールや王太子軍の将校たちも、腰をあげざるを得なくなった。援軍が船で渡河してきて、ジャンヌの軍に加わる。
そしてジャンヌの再三にわたる要請で、要塞を孤立する作戦がとられた。
櫓を支えている橋孤のひとつを切り崩させせると、満載した粗朶の束に火をつけた艀を流して、橋を燃やしたりした。
すでに日は真上にあがり、昼間になっていたが、まったく戦いの先は見えない状況だった。
「進めぇぇ! ひるまないで。神がついています。勝利はわがフランスのものです!」
三角旗を振りながらジャンヌが兵士を鼓舞する。
セイはジャン・ド・メスとともにジャンヌの警護にあたっていた。ジャンヌもすでに数時間、旗を振り続けている。おそろしいほどの体力だった。
兵士たちはみなどこかしら傷ついていたものの、彼女の声援に応えようと、ふたたび立ち上がって戦場へ飛び込んでいく。
「無駄だ。無駄だ!」
要塞の上から聞き覚えのあるダミ声が聞こえてきた。
セイが上をみあげると、レ・トゥーレル要の指揮官、グラスデールが下を睥睨していた。
グラスデールは頭のてっぺんからつま先までフル装備の甲冑をきていた。
「クラシダ!」
ジャンヌが叫んだ。
「この淫売め、なにを勝手な呼び方を。我が名はギョーム・グラスデール。このレ・トゥーレル要塞の隊長だ」
「クラシダ、降伏しなさい」
「だから、我が名はグラスデールだ! 降伏なんぞするわけがあるまい。まだおまえたちのだれもここまで登ってこれてねぇのだぞ」
去年の10月以来、オルレアンを苦しめ続けたイングランド軍の要衝レ・トゥーレル要塞。ロワール川にかかる橋のたもとを塞ぐように建てられ、四方を建物で囲まれた小広場があり、その奥に石造りの頑丈ながそびえたっていた。イングランド軍の守備にも死角もなく、簡単には攻め落とせそうにない場所である。
オルレアンの町からは昨晩のうちにロワール川を渡河し、オーギュスタン要塞へ食料が運び込まれていた。市民たちは王太子軍の首脳たちの決定よりも、2つの要塞を立て続けに陥落させたジャンヌ・ダルクを支持していた。自分たちは戦うことはないが、協力はおしまなかった。もしかしたら市民はなんとなく勝利を感じ取っていたのかもしれない、
「突撃!」
三角旗がふられ、ジャンヌ・ダルクはレ・トゥーレル要塞に攻撃をしかけた。
要塞へ向かって一気に突撃する兵士たち。われさきとはしごを城壁にかけてよじ登ろうとする、だが、雨のように降り注いでくる弓矢に、ひとりまたひとりと倒れていく。
攻撃開始の報告を受けてル・バタールや王太子軍の将校たちも、腰をあげざるを得なくなった。援軍が船で渡河してきて、ジャンヌの軍に加わる。
そしてジャンヌの再三にわたる要請で、要塞を孤立する作戦がとられた。
櫓を支えている橋孤のひとつを切り崩させせると、満載した粗朶の束に火をつけた艀を流して、橋を燃やしたりした。
すでに日は真上にあがり、昼間になっていたが、まったく戦いの先は見えない状況だった。
「進めぇぇ! ひるまないで。神がついています。勝利はわがフランスのものです!」
三角旗を振りながらジャンヌが兵士を鼓舞する。
セイはジャン・ド・メスとともにジャンヌの警護にあたっていた。ジャンヌもすでに数時間、旗を振り続けている。おそろしいほどの体力だった。
兵士たちはみなどこかしら傷ついていたものの、彼女の声援に応えようと、ふたたび立ち上がって戦場へ飛び込んでいく。
「無駄だ。無駄だ!」
要塞の上から聞き覚えのあるダミ声が聞こえてきた。
セイが上をみあげると、レ・トゥーレル要の指揮官、グラスデールが下を睥睨していた。
グラスデールは頭のてっぺんからつま先までフル装備の甲冑をきていた。
「クラシダ!」
ジャンヌが叫んだ。
「この淫売め、なにを勝手な呼び方を。我が名はギョーム・グラスデール。このレ・トゥーレル要塞の隊長だ」
「クラシダ、降伏しなさい」
「だから、我が名はグラスデールだ! 降伏なんぞするわけがあるまい。まだおまえたちのだれもここまで登ってこれてねぇのだぞ」
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる