862 / 935
ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第28話 フランスは一人の女に滅ぼされ、一人の少女に救われる
しおりを挟む
「未来? ああ、そうだったね。でもそれは本当に本当なのかい?」
「まぁね。すくなくともジャンヌは信じてくれたよ。神の子って呼ばれるのは、ちょっと困っちゃうんだけどね」
「未来から……未来からか……」
ジル・ド・レはなかばうわの空で、セイのことばを反芻していたが、得心したのかセイのほうへ真摯な目をむけて言った。
「『フランスは一人の女によって滅ぼされ、ロレーヌから現われし一人の少女によって救われる』……。いつごろからだろうか、こんな預言が人々のあいだで語られるようになったんだ」
ジルは汗を拭うように、額に手をあてて続けた。
「すでに半分は現実となった。王太子の母イザボー妃によってね」
「なにがあったんです?」
「イングランド王、ヘンリー五世と自分の娘を政略結婚させたんだ。そして王太子シャルルがいないところで、夫シャルル六世の死後、イングランドとフランス両国は統合される、ということを勝手に取り決めたんだ」
「王妃が自分の国を売ったんですか?」
「ああ。だがヘンリー五世が30歳なかばで病死したせいで、それは実現しなかった。ふたつの王位を継承したヘンリー六世はまだ赤ん坊だ。だからフランスの正統な王位継承者であるシャルル七世は、王位の継承を宣言した。だけど……すでにこんなにも追い詰められている……」
ジルはあたりをとりまいている群衆をみまわした。ジャンヌにつきまとう民衆。家の窓という窓からつきだしている顔。ひきもきらず湧きあがってくる歓声。
「もう半分の預言も叶ってほしい、という切なる願いが、この熱狂を生んでいるだよ」
------------------------------------------------------------
ジャンヌはオルレアンに入城し終えるやいなや、戦争を仕掛けようとしたが、ル・バタールの協力が得られず、なにもできないことに苛立っていた。
ル・バタールは合流予定の援軍の到着を待って、攻撃をしかけると宣言していたが、その間、ただ街中に閉じこめられていることにジャンヌは耐えられなかった。
オルレアンの市民はなんとしても、彼女の姿を拝もうと、彼女の宿舎にあてられた屋敷の扉を打ち破りかねない勢いで集まってきたし、彼女がどこかに行こうとすると、行く先の沿道には市民があふれ、通り抜けるのがやっとという窮屈さだった。
責任者であるル・バタールが援軍を出迎えにいってたため、彼の留守中に勝手な行動にでることもできず、ジャンヌの不満はたまるばかりだった。
いてもたってもいられなくなったジャンヌは、夜な夜なイングランド軍の要塞や防塁が見える城壁までいって、敵に投降を呼びかけた。
いたしかなくセイもジル・ド・レもラ・イールもそれに加わったが、相手が説得に応じるはずもなく、ただ無為に時間を費やしているだけだった。
「まぁね。すくなくともジャンヌは信じてくれたよ。神の子って呼ばれるのは、ちょっと困っちゃうんだけどね」
「未来から……未来からか……」
ジル・ド・レはなかばうわの空で、セイのことばを反芻していたが、得心したのかセイのほうへ真摯な目をむけて言った。
「『フランスは一人の女によって滅ぼされ、ロレーヌから現われし一人の少女によって救われる』……。いつごろからだろうか、こんな預言が人々のあいだで語られるようになったんだ」
ジルは汗を拭うように、額に手をあてて続けた。
「すでに半分は現実となった。王太子の母イザボー妃によってね」
「なにがあったんです?」
「イングランド王、ヘンリー五世と自分の娘を政略結婚させたんだ。そして王太子シャルルがいないところで、夫シャルル六世の死後、イングランドとフランス両国は統合される、ということを勝手に取り決めたんだ」
「王妃が自分の国を売ったんですか?」
「ああ。だがヘンリー五世が30歳なかばで病死したせいで、それは実現しなかった。ふたつの王位を継承したヘンリー六世はまだ赤ん坊だ。だからフランスの正統な王位継承者であるシャルル七世は、王位の継承を宣言した。だけど……すでにこんなにも追い詰められている……」
ジルはあたりをとりまいている群衆をみまわした。ジャンヌにつきまとう民衆。家の窓という窓からつきだしている顔。ひきもきらず湧きあがってくる歓声。
「もう半分の預言も叶ってほしい、という切なる願いが、この熱狂を生んでいるだよ」
------------------------------------------------------------
ジャンヌはオルレアンに入城し終えるやいなや、戦争を仕掛けようとしたが、ル・バタールの協力が得られず、なにもできないことに苛立っていた。
ル・バタールは合流予定の援軍の到着を待って、攻撃をしかけると宣言していたが、その間、ただ街中に閉じこめられていることにジャンヌは耐えられなかった。
オルレアンの市民はなんとしても、彼女の姿を拝もうと、彼女の宿舎にあてられた屋敷の扉を打ち破りかねない勢いで集まってきたし、彼女がどこかに行こうとすると、行く先の沿道には市民があふれ、通り抜けるのがやっとという窮屈さだった。
責任者であるル・バタールが援軍を出迎えにいってたため、彼の留守中に勝手な行動にでることもできず、ジャンヌの不満はたまるばかりだった。
いてもたってもいられなくなったジャンヌは、夜な夜なイングランド軍の要塞や防塁が見える城壁までいって、敵に投降を呼びかけた。
いたしかなくセイもジル・ド・レもラ・イールもそれに加わったが、相手が説得に応じるはずもなく、ただ無為に時間を費やしているだけだった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる