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ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第27話 ジャンヌ、オルレアン入城
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1429年4月29日 金曜日の夜——
ロワール川を渡河したジャンヌは、イングランド兵からの妨害を受けることもなく、出入り自由なただひとつの門、ブルゴーニュ門を通ってオルレアンの町に入城した。
先駆の兵に純白の旗印を掲げさせ、甲冑に身を固めたジャンヌ・ダルクは白馬にまたがり町へはいってきた。彼女の左側には、美々しく装った馬上のル・バタールが得意げな表情を隠そうともせず付き添っていた。そのうしろからは、おおくの貴族、武名のたかい騎士、従者、隊長、兵士、駐留部隊の武将たちが続いた。
わぁぁぁぁぁぁぁ……
乙女の姿が門から姿を現わすと、街中から歓声が巻き起こった。オルレアンの大勢の兵士や市民たちが、おびただしい松明をかかげて待ち受けていた。
『まるで神様でも見ているようなまなざしだな』
セイは自分たちを取り囲む熱狂を、見回しながらそう思った。
案内されるままに街中を練り歩くジャンヌを見る目は、ゆらめく松明のなかで、ギラギラと輝いてみえた。男も女も子供たちにいたるまで、希望や加護を求めていた。街中の全員が集まってきたかと思うほどの人々が、神から遣わされた少女を見ようと、彼女や彼女の乗馬に触れようとして、まわりに押し寄せてきた。
「あぶないから、みんなもうすこし離れて」
セイは行軍に支障がでるほど近づいてきた群衆に注意をうながした。ラ・イールやジル・ド・レたちもおなじように、ジャンヌに近づきすぎる人々に声をかけている。
そのとき、旗手がもっていた三角の旗の端に、松明の火が燃え移った。
「くそ、言わんこっちゃない!」
ラ・イールがおもわず悪態をついた。
「ラ・イール! そのようなことば使いは、神のご意志に反します。慎みなさい」
ジャンヌはラ・イールを一喝すると、馬に拍車をかけて先頭の兵のところへむかい、手慣れた手つきで火をはらった。
旗の火が消えると、なにごともなかったように、ジャンヌはゆっくり戻ってきた。
うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
ジャンヌが行軍に戻るやいなや、あたりを 響もすような大歓声があがった。兵士たちや彼女についてまわっていた町人たちは、ジャンヌの振る舞いに称賛や感激の声をあげるのをとめられなかった。
「なんて人なんだ。あの方は」
ジル・ド・レが呟くのが聞こえた。その視線には敬愛と尊敬の念がこもっていた。セイはジル・ド・レの熱い思いをくみ取って返事をした。
「ぼくもおどろいてる。あんなに魅力的なひと、見たことない」
「ああ。魅力的だ。凛々しく、気高く……そして信念はゆらがない」
「オルレアンを解放して、フランスを救ったのも納得だよ」
「救った? まだオルレアンの町に入っただけだよ」
「ええ。でもぼくは、ジャンヌが見事にそれを成し遂げることを知ってるんです」
「セイ、きみは前にもそう言ってたね。ジャンヌがオルレアンを解放して、フランス王太子を即位させるって」
「だって本当のことだもの」
「はは。きみもずいぶん変わった人だね」
「そりゃ変わってるよ。だって未来から来たんだから」
ロワール川を渡河したジャンヌは、イングランド兵からの妨害を受けることもなく、出入り自由なただひとつの門、ブルゴーニュ門を通ってオルレアンの町に入城した。
先駆の兵に純白の旗印を掲げさせ、甲冑に身を固めたジャンヌ・ダルクは白馬にまたがり町へはいってきた。彼女の左側には、美々しく装った馬上のル・バタールが得意げな表情を隠そうともせず付き添っていた。そのうしろからは、おおくの貴族、武名のたかい騎士、従者、隊長、兵士、駐留部隊の武将たちが続いた。
わぁぁぁぁぁぁぁ……
乙女の姿が門から姿を現わすと、街中から歓声が巻き起こった。オルレアンの大勢の兵士や市民たちが、おびただしい松明をかかげて待ち受けていた。
『まるで神様でも見ているようなまなざしだな』
セイは自分たちを取り囲む熱狂を、見回しながらそう思った。
案内されるままに街中を練り歩くジャンヌを見る目は、ゆらめく松明のなかで、ギラギラと輝いてみえた。男も女も子供たちにいたるまで、希望や加護を求めていた。街中の全員が集まってきたかと思うほどの人々が、神から遣わされた少女を見ようと、彼女や彼女の乗馬に触れようとして、まわりに押し寄せてきた。
「あぶないから、みんなもうすこし離れて」
セイは行軍に支障がでるほど近づいてきた群衆に注意をうながした。ラ・イールやジル・ド・レたちもおなじように、ジャンヌに近づきすぎる人々に声をかけている。
そのとき、旗手がもっていた三角の旗の端に、松明の火が燃え移った。
「くそ、言わんこっちゃない!」
ラ・イールがおもわず悪態をついた。
「ラ・イール! そのようなことば使いは、神のご意志に反します。慎みなさい」
ジャンヌはラ・イールを一喝すると、馬に拍車をかけて先頭の兵のところへむかい、手慣れた手つきで火をはらった。
旗の火が消えると、なにごともなかったように、ジャンヌはゆっくり戻ってきた。
うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
ジャンヌが行軍に戻るやいなや、あたりを 響もすような大歓声があがった。兵士たちや彼女についてまわっていた町人たちは、ジャンヌの振る舞いに称賛や感激の声をあげるのをとめられなかった。
「なんて人なんだ。あの方は」
ジル・ド・レが呟くのが聞こえた。その視線には敬愛と尊敬の念がこもっていた。セイはジル・ド・レの熱い思いをくみ取って返事をした。
「ぼくもおどろいてる。あんなに魅力的なひと、見たことない」
「ああ。魅力的だ。凛々しく、気高く……そして信念はゆらがない」
「オルレアンを解放して、フランスを救ったのも納得だよ」
「救った? まだオルレアンの町に入っただけだよ」
「ええ。でもぼくは、ジャンヌが見事にそれを成し遂げることを知ってるんです」
「セイ、きみは前にもそう言ってたね。ジャンヌがオルレアンを解放して、フランス王太子を即位させるって」
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「はは。きみもずいぶん変わった人だね」
「そりゃ変わってるよ。だって未来から来たんだから」
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