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ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜

第19話 確かに神に導かれた人かもしれん

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「まわりをよく見なさい。この軍隊がなんの役にたたない集団に見えますか? 兵たちはもう先ほどまでとはちがっていますよ。みな神のご加護を与えられたのです」
 ジャンヌは手をひろげて、まわりの兵たちを指し示した。
「わたしの目にはあなたたちの本当の姿が見えています。愛国心に満ちあふれた、神に選ばれし軍隊になることがわかっているのです。わたしはあなたたちを率いていけることを誇らしく思っています」
 だれもがジャンヌのことばに、きょとんとしていた。
 
「もしかして、わたしの目がおかしいのでしょうか?」
 ジャンヌがちょっととまどったように、眉根をよせた。

 うわははははははは……

 突然、ラ・イールがおおきな笑い声をあげた。

「まいった、まいった。おまえさんは確かに神に導かれた人かもしれん」
 
 ふたりを取り巻いていた緊張が解け、まわりの兵士や司令官たちの表情がやわらいだ。一触即発にそなえていたセイも、おもわず脱力する。

 ラ・イールがにっこりと笑って、ジャンヌのほうへ手をさしだした。
「オレ様はフランス国王軍傭兵隊長エティエンヌ・ド・ヴィニョール。あまりに怒りっぽいんでな。みんなからは、ラ・イール(怒り)と呼ばれている」

「そうでしょうね。だって、一番笑い顔がステキなんですもの」

「ステキ?」

「表情ゆたかな人は、よく怒ります」
 ドッとあたりに笑いがはじけた。

「あの方はとても不思議な人ですね」
 セイに声をかけてきたのは、ジル・ド・レだった。
「あ、元帥様。ぼくはジャンヌの小姓をやっております、セイと申します」
 セイは反射的にかしこまってみせたが、ジルは手をふりながら言った。

「そんなにかしこまらないでくれないか。それでなくても若いぼくは、ここじゃあ腫れ物のように扱われているんだ。年の近いきみのような少年と、話をするときくらい、もっとフランクに話せたらって思ってる」
「ありがとうございます。では、ジル様」

「ジルさ……ま…… ん、まぁ、しかたないだろう。それでいいよ。ところでセイ、きみはジャンヌのことをどう思ってる?」
「というと?」
「彼女は本物の聖女なのだろうかってことだ。ぼくは本物にしか見えないし、そう信じたい。ちかくにいるきみの意見を聞ければ……」

「本物ですよ。ジル様」
 セイは自信をもって断言した。
「ジャンヌはオルレアンを解放し、イングランド軍を駆逐し、フランス王太子を即位させます」
 ジルの目がおおきく見開かれた。
「おお、そうなのか。そこまで自信をもって言ってもらえると、ぼくも高揚するなぁ。で、そのあとどうなるんだい」
 
「それは……それは知らないほうがいい」
「ど、どういう……ことなんだ」

「ご心配なく、ジル様。ジャンヌはぼくが守ります。どんな苦難が襲いかかってきても、ぼくがかならず。そのためにぼくはここにいるんですから」
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