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ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第17話 フランス王国元帥、ジル・ド・レ
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おもわず身をすくめるほどの、歓声が突然巻き起こった。
対立していた司令官たちではなく、まわりにいた兵士が熱狂に包まれていた。なかには感激のあまりか、涙している者もいた。いきなり興奮の渦の中心に、身を置くはめになった指揮官たちは、多少面喰らいながらも、徐々にその渦に飲みこまれていったようだった。
おおくの司令官が先ほどまでの非礼など、どこふく風とばかりに周りの兵士にむかって剣をつきあげてみせた。指揮官のブロスはまだ苦虫を潰したような顔をしていたが、目の前で高まる士気を無下にすることはしなかった。
「兵士諸君! 今我々はここに神の御言葉を聞いたジャンヌ・ラ・ピュセルを、主より遣わされた。神はわれらにオルレアンを解放し、イングランドをこの地より追い払え、と命じた。神のことばを信じ、それを成し遂げようではないか!」
鬨の声があがる。
さきほどよりおおきなうねり。
「信じられない…… あっと言う間に、みんなを虜にしてしまった」
セイは歓声に囲まれながらも、決意のこもった表情を崩そうともしないジャンヌを見つめた。
「セイ殿。これがジャンヌの不思議な力なのだよ」
メスが耳打ちしてきた。
「わたしはなんどもこのような奇跡の瞬間をみてきた。そしてジャンヌはまごうことなく、神からの啓示を受けたのだと確信したのだ」
ひとたびジャンヌ・ダルクに心酔してしまった司令官たちは、おどろくほどこころよく彼女を仲間に招き入れた。貴族も領主も代官もジャンヌへの信頼を勝ち取ろうと、積極的に協力を申し出た。
そのなかでもひときわ目をひいたのは、ほかの司令官とはあきらかに年が離れた若者だった。顎と鼻の下に髭をたくわえて、貫録をつけようと努力をしているようだったが、その若さと、匂い立つような品の良さはどうにも隠しようがなかった。
「フランス王国元帥、ジル・ド・レと申します。ラ・ピュセル、あなたをずっとお待ちしておりました」
「ジル・ド・レ様、ずいぶん優秀なのですね。ずいぶんお若くして元帥とは……」
「あ、いえ。祖父のコネと父の残した莫大な財産のおかげで……」
「そうだな。そうでなければ25歳の若輩が、オレ様と肩を並べるなぞできまいな」
ジル・ド・レのことばを、野太い声がさえぎった。
声のしたほうをみると、見るからに蛮族といった風貌の男が酒をあおりながら、こちらを見ていた。
「ラ・イール。ぼくのことをそんなに邪険にしないでくれたまえ」
「は、邪険になぞしちゃいねぇよ。オレ様は少年のときから、イングランドとやりあってるたたき上げだ。戦いにあけくれたあげくに足を折っちまって、このざまだ」
ラ・イールは杖をつきながら、こちらへ足をひきずってきた。
対立していた司令官たちではなく、まわりにいた兵士が熱狂に包まれていた。なかには感激のあまりか、涙している者もいた。いきなり興奮の渦の中心に、身を置くはめになった指揮官たちは、多少面喰らいながらも、徐々にその渦に飲みこまれていったようだった。
おおくの司令官が先ほどまでの非礼など、どこふく風とばかりに周りの兵士にむかって剣をつきあげてみせた。指揮官のブロスはまだ苦虫を潰したような顔をしていたが、目の前で高まる士気を無下にすることはしなかった。
「兵士諸君! 今我々はここに神の御言葉を聞いたジャンヌ・ラ・ピュセルを、主より遣わされた。神はわれらにオルレアンを解放し、イングランドをこの地より追い払え、と命じた。神のことばを信じ、それを成し遂げようではないか!」
鬨の声があがる。
さきほどよりおおきなうねり。
「信じられない…… あっと言う間に、みんなを虜にしてしまった」
セイは歓声に囲まれながらも、決意のこもった表情を崩そうともしないジャンヌを見つめた。
「セイ殿。これがジャンヌの不思議な力なのだよ」
メスが耳打ちしてきた。
「わたしはなんどもこのような奇跡の瞬間をみてきた。そしてジャンヌはまごうことなく、神からの啓示を受けたのだと確信したのだ」
ひとたびジャンヌ・ダルクに心酔してしまった司令官たちは、おどろくほどこころよく彼女を仲間に招き入れた。貴族も領主も代官もジャンヌへの信頼を勝ち取ろうと、積極的に協力を申し出た。
そのなかでもひときわ目をひいたのは、ほかの司令官とはあきらかに年が離れた若者だった。顎と鼻の下に髭をたくわえて、貫録をつけようと努力をしているようだったが、その若さと、匂い立つような品の良さはどうにも隠しようがなかった。
「フランス王国元帥、ジル・ド・レと申します。ラ・ピュセル、あなたをずっとお待ちしておりました」
「ジル・ド・レ様、ずいぶん優秀なのですね。ずいぶんお若くして元帥とは……」
「あ、いえ。祖父のコネと父の残した莫大な財産のおかげで……」
「そうだな。そうでなければ25歳の若輩が、オレ様と肩を並べるなぞできまいな」
ジル・ド・レのことばを、野太い声がさえぎった。
声のしたほうをみると、見るからに蛮族といった風貌の男が酒をあおりながら、こちらを見ていた。
「ラ・イール。ぼくのことをそんなに邪険にしないでくれたまえ」
「は、邪険になぞしちゃいねぇよ。オレ様は少年のときから、イングランドとやりあってるたたき上げだ。戦いにあけくれたあげくに足を折っちまって、このざまだ」
ラ・イールは杖をつきながら、こちらへ足をひきずってきた。
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