ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

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ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜

第15話 ジャンヌ隊、ブロワへ

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「ジャンヌ隊、前進!」
 馬上のジャンヌの声は、とても17歳の少女の口から発せられたものとは思えないほど、重々しく威厳に満ちあふれていた。
 ジャンヌの合図に旗手が百合の紋章のはいった旗を翻す。ジャンヌとアランソン公が先頭に立ち、ドーロンと旗手がそれに続いた。

 凛としたまなざしで町の城門へむかうジャンヌを、シノンの町の住民たちが遠巻きで見送っている。その表情には不安と期待がないまぜになっているように見えた。


 それは当然だろうとセイは思った。
 たかが17歳の田舎の小娘に、自分の国の存亡を託すのだ。不安にならないはずがない。
 馬上のジャンヌもその思いを感じているのか、こころなしか表情が硬い。

「ジャンヌ、大丈夫かい」
 ジャンヌはすぐには答えなかった。
 が、正面の一点から目をそらさないまま、口元をゆるめた。
「神の子、セイ。この旗、すてきでしょう」




 セイは旗手が掲げもつ旗を見あげた。
 二等辺三角形を横にたおしたペナント型で、先端がふたつにわかれている旗。全体に百合の花の紋様があしらわれ、そこに天地を手にのせた救世主の両側に天使を配置したデザインされている。
「ああ……うん、すてきだよ」

「ありがとう。わたしは腰につけた剣より、この旗のほうが40倍も好きなのです」
 ジャンヌはじつにうれしそうだった。

「さあ、セイ。うしろへさがって。あとからついていらっしゃい」

 セイが歩兵たちの列にさがっていくと、ジャンヌのうしろ姿がやけに遠くにあるように感じられた。ジャンヌは背筋を伸ばしたまま、威風堂々とした姿で城門をくぐっていく。

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 ブロワには2日後到着した。
 が、町のはずれに野営していた部隊の駐屯場所は、まるでならず者のたまり場のような様相をていしていた。
 
 身なりの汚い山賊のような荒くれものが博打に興じていたり、酒を煽っていたり、果ては娼婦と思われる女たちにちょっかいをだして揉めていたりしていた。だれもが大声を挙げていて騒々しく、ときおり「くそったれ」や「地獄に落ちろ」などという、きたないことばも混じっていた。

「ああ、この町はすでにイングランド軍に落ちてしまったのですか?」

 おもわずジャンヌが悲痛な声をもらすと副官が答えた。
「いえ、ラ・ピュセル。これがオルレアンへの糧秣りょうまつ輸送の警備隊です」
「どういうことです。わたしたちは神の命により、フランスに勝利をもたらす神の軍隊なのですよ。こんな卑賎ひせんな部隊であっていいわけがありません」

「卑賎とは失礼ではないかね」
 たくましい髭をはやしたいかにも武人という男が、ジャンヌのほうへ歩いてきた。
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