848 / 935
ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第14話 美しき公爵さま
しおりを挟む
ブローへ出立するジャンヌの軍は、セイが思ったよりも仰々しいものだった。
「ジャンヌ。ずいぶん大所帯だね」
セイは騎馬したジャンヌを見あげながら言った。
「神の子、セイ。これは吉兆です。王太子様がわたしを正式な司令官として、任命していただいた証ですので」
「そうなのだよ、セイ殿」
ジャン・ド・メスがジャンヌの馬の反対にいる男を目で指し示した。
「正式な司令官の証として、ジャン・ドーロンという副官を用意してくれている。それに小姓もセイ殿を含めて二名、さらに伝令使も二名と、貴族出身の司令官と同列の扱いをしてくれてるのだ」
「それだけではないぞ」
ブーランジイが馬上からからだを乗り出してきた。
「軍馬5頭、速歩馬7頭もお貸しいただいてもいる。それだけ王太子様のジャンヌへの期待がつよいということだ」
「わたしの兄、ピエールとジャンも加勢してくれることになりました。それに……」
ジャンヌはすこし顔を赤らめながら、自分の隣の馬に騎乗している青年に目をむけた。
「美しき公爵さま、いえ、アランソン公もご一緒していただけることになりました。とても心強い限りです」
セイはジャンヌにそんな態度をとらせる青年のほうを仰ぎ見た。
アランソン公(20歳)はジャンヌでなくてもおもわず見とれる、整った容姿をしていた。涼やかな目元やすっと通った鼻筋、口元は軍人らしくキリッと引き締まっていたが、貴族の高貴な血ゆえか、どこかしら気高さを感じ、なによりも華があった。
だが、セイはアランソン公の表情が気になった。
疲れている——?
「きみが神の子、セイか。よろしく頼むよ」
アランソン公は前に進み出ると、セイの手を握った。
「あ、はい…… ありがとうございます」
「そんなにかしこまらなくていい、セイ。アジャンクールの戦いで父が戦死したせいで、アランソン公とペルシュ伯を継いではいるが、わたしはまだ20歳、そなたとそれほど年が離れているわけではない」
「アランソン公は、ヴェルヌイユの戦いにも参加されたのですよ」
ジャンヌがうっとりとした視線をむけながら言った。
「ジャンヌ、そんなに期待する目でわたしを見ないでくれるかね。わたしはシャルルに参謀長を申し付けられたが、戦いに参加できない身なのだ」
「なぜです?」
「15歳で参戦したそのヴェルヌイユの戦いでイングランド軍の捕虜になってしまったのだ。5年も投獄され、つい先日、高額の身代金を支払って釈放されたばかりなのだ」
「だったらその仕返しをしようよ」
セイはアランソン公をたきつけたが、彼は悔しそうに目を伏せた。
「セイ、恥ずかしい話だが、じつはまだ身代金を全部支払い終えていないんだ。だからここでイングランド軍と敵対するわけにはいかないんだ」
「ジャンヌ。ずいぶん大所帯だね」
セイは騎馬したジャンヌを見あげながら言った。
「神の子、セイ。これは吉兆です。王太子様がわたしを正式な司令官として、任命していただいた証ですので」
「そうなのだよ、セイ殿」
ジャン・ド・メスがジャンヌの馬の反対にいる男を目で指し示した。
「正式な司令官の証として、ジャン・ドーロンという副官を用意してくれている。それに小姓もセイ殿を含めて二名、さらに伝令使も二名と、貴族出身の司令官と同列の扱いをしてくれてるのだ」
「それだけではないぞ」
ブーランジイが馬上からからだを乗り出してきた。
「軍馬5頭、速歩馬7頭もお貸しいただいてもいる。それだけ王太子様のジャンヌへの期待がつよいということだ」
「わたしの兄、ピエールとジャンも加勢してくれることになりました。それに……」
ジャンヌはすこし顔を赤らめながら、自分の隣の馬に騎乗している青年に目をむけた。
「美しき公爵さま、いえ、アランソン公もご一緒していただけることになりました。とても心強い限りです」
セイはジャンヌにそんな態度をとらせる青年のほうを仰ぎ見た。
アランソン公(20歳)はジャンヌでなくてもおもわず見とれる、整った容姿をしていた。涼やかな目元やすっと通った鼻筋、口元は軍人らしくキリッと引き締まっていたが、貴族の高貴な血ゆえか、どこかしら気高さを感じ、なによりも華があった。
だが、セイはアランソン公の表情が気になった。
疲れている——?
「きみが神の子、セイか。よろしく頼むよ」
アランソン公は前に進み出ると、セイの手を握った。
「あ、はい…… ありがとうございます」
「そんなにかしこまらなくていい、セイ。アジャンクールの戦いで父が戦死したせいで、アランソン公とペルシュ伯を継いではいるが、わたしはまだ20歳、そなたとそれほど年が離れているわけではない」
「アランソン公は、ヴェルヌイユの戦いにも参加されたのですよ」
ジャンヌがうっとりとした視線をむけながら言った。
「ジャンヌ、そんなに期待する目でわたしを見ないでくれるかね。わたしはシャルルに参謀長を申し付けられたが、戦いに参加できない身なのだ」
「なぜです?」
「15歳で参戦したそのヴェルヌイユの戦いでイングランド軍の捕虜になってしまったのだ。5年も投獄され、つい先日、高額の身代金を支払って釈放されたばかりなのだ」
「だったらその仕返しをしようよ」
セイはアランソン公をたきつけたが、彼は悔しそうに目を伏せた。
「セイ、恥ずかしい話だが、じつはまだ身代金を全部支払い終えていないんだ。だからここでイングランド軍と敵対するわけにはいかないんだ」
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる