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ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第13話 セイ、ジャンヌに唖然とさせられる
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「はい。今よりわたしたち神の軍隊が戦地にむかうのです。彼らイングランド軍が負けるのは必定。その前に神の慈悲として、立ち去る猶予を与えたいのです」
「ジャンヌ。そんなものを書いたとして、彼らが立ち去るとでも?」
「はい。ぜひそうあってほしいです。もし神と乙女の申し出を信じず、それに服さなければ、彼らがどこに潜んでいても探しだして、千年来フランスでは聞くことがないほどの猛襲をかけて、ひとり残らず殲滅しなければなりませんもの」
ジャンヌの口から発せられる物騒極まりない発言に、セイは唖然とした。
彼女はけっして猛っているわけでもなく、憤怒に駆られているようでもなかった。あっけらかんとした、邪気のない表情でそう言ってのけている。
ことばをうしなっているのは、メスもブーランジイも同様だった。
「そ……そんなことを、て、手紙に……」
メスがかすれた声で、ジャンヌに尋ねた。
「ええ。もちろんよ。神がそうわたしにお告げくださったのだから。だれだって、絶対に負ける戦いはしたくはないでしょう? にっくきイングランド軍だからと言って、わたしもむやみに死なせたいわけではありませんから」
「あ、いや……たしかにそうですが……」
セイはうろたえているブーランジイとメスの姿をみて、きゅうにおかしくなった。
「あはははは…… ベルトラン、ジャン。きみたちはジャンヌのことを信じてたンじゃないのかい」
「セイ殿……」
「ジャンヌは絶対に勝つ。そうだろ? 神の啓示を受けてるんだから。きみたちがそれを疑ってどうするんだい」
セイが投げかけたことばにブーランジイが反応した。
「ああ……そ、そうだな。セイ殿の言う通りだ。われわれは神の軍隊なのだから」
「そうとも、ベルトランがただしい。ジャンヌのおことばがあまりに確信に満ちていたから、つい気圧されてしまったが……そう、わたしたちは神の軍隊なのだ」
「だろ? それにこれはジャンヌが言ってるんじゃない。神がジャンヌに授けた啓示だ。ま、ちょいと過激だからイングランド軍は激高しそうだけどね」
「神の子、セイ。そうなのですか? わたしの申し出は過激なのですか?」
「ジャンヌ。気にすることはないさ」
セイはにこりと笑ってから言った。
「きみは言ったとおりに、イングランド軍を大敗させる。未来からきたぼくが保証するよ」
ジャンヌはおおきく目をひらいて、うれしそうな顔をした。
「まぁ、神の子、セイ。それはなによりの福音ですわ」
ジャンヌはすぐに敬虔な顔をすると、セイの前に跪いて五指を組んだ。
「ジャンヌ、よしてくれよ。ぼくは神じゃないよ」
「ですが、わたしに福音をもたらしてくれました」
セイは自分を見あげるジャンヌを、見おろしながら真剣な表情で言った。
「ジャンヌ、気をつけて。さきほど現われたどくろの黒騎士は、きみを歴史どおりの結末に導かせないための『悪意』が具現化したものだ」
「それは悪魔なのですか?」
「それはわからない……」
「だけどそいつは、ジャンヌ、あなたを『聖女』として名を残したい、というジャンの願いを阻止するためにならなんでも仕掛けてくるはずだ」
「ジャンヌ。そんなものを書いたとして、彼らが立ち去るとでも?」
「はい。ぜひそうあってほしいです。もし神と乙女の申し出を信じず、それに服さなければ、彼らがどこに潜んでいても探しだして、千年来フランスでは聞くことがないほどの猛襲をかけて、ひとり残らず殲滅しなければなりませんもの」
ジャンヌの口から発せられる物騒極まりない発言に、セイは唖然とした。
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ことばをうしなっているのは、メスもブーランジイも同様だった。
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メスがかすれた声で、ジャンヌに尋ねた。
「ええ。もちろんよ。神がそうわたしにお告げくださったのだから。だれだって、絶対に負ける戦いはしたくはないでしょう? にっくきイングランド軍だからと言って、わたしもむやみに死なせたいわけではありませんから」
「あ、いや……たしかにそうですが……」
セイはうろたえているブーランジイとメスの姿をみて、きゅうにおかしくなった。
「あはははは…… ベルトラン、ジャン。きみたちはジャンヌのことを信じてたンじゃないのかい」
「セイ殿……」
「ジャンヌは絶対に勝つ。そうだろ? 神の啓示を受けてるんだから。きみたちがそれを疑ってどうするんだい」
セイが投げかけたことばにブーランジイが反応した。
「ああ……そ、そうだな。セイ殿の言う通りだ。われわれは神の軍隊なのだから」
「そうとも、ベルトランがただしい。ジャンヌのおことばがあまりに確信に満ちていたから、つい気圧されてしまったが……そう、わたしたちは神の軍隊なのだ」
「だろ? それにこれはジャンヌが言ってるんじゃない。神がジャンヌに授けた啓示だ。ま、ちょいと過激だからイングランド軍は激高しそうだけどね」
「神の子、セイ。そうなのですか? わたしの申し出は過激なのですか?」
「ジャンヌ。気にすることはないさ」
セイはにこりと笑ってから言った。
「きみは言ったとおりに、イングランド軍を大敗させる。未来からきたぼくが保証するよ」
ジャンヌはおおきく目をひらいて、うれしそうな顔をした。
「まぁ、神の子、セイ。それはなによりの福音ですわ」
ジャンヌはすぐに敬虔な顔をすると、セイの前に跪いて五指を組んだ。
「ジャンヌ、よしてくれよ。ぼくは神じゃないよ」
「ですが、わたしに福音をもたらしてくれました」
セイは自分を見あげるジャンヌを、見おろしながら真剣な表情で言った。
「ジャンヌ、気をつけて。さきほど現われたどくろの黒騎士は、きみを歴史どおりの結末に導かせないための『悪意』が具現化したものだ」
「それは悪魔なのですか?」
「それはわからない……」
「だけどそいつは、ジャンヌ、あなたを『聖女』として名を残したい、というジャンの願いを阻止するためにならなんでも仕掛けてくるはずだ」
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