ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

文字の大きさ
上 下
847 / 935
ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜

第13話 セイ、ジャンヌに唖然とさせられる

しおりを挟む
「はい。今よりわたしたち神の軍隊が戦地にむかうのです。彼らイングランド軍が負けるのは必定。その前に神の慈悲として、立ち去る猶予を与えたいのです」

「ジャンヌ。そんなものを書いたとして、彼らが立ち去るとでも?」

「はい。ぜひそうあってほしいです。もし神と乙女ラ・ピュセルの申し出を信じず、それに服さなければ、彼らがどこに潜んでいても探しだして、千年来フランスでは聞くことがないほどの猛襲をかけて、ひとり残らず殲滅せんめつしなければなりませんもの」

 ジャンヌの口から発せられる物騒極まりない発言に、セイは唖然とした。
 彼女はけっしてたけっているわけでもなく、憤怒に駆られているようでもなかった。あっけらかんとした、邪気のない表情でそう言ってのけている。
 ことばをうしなっているのは、メスもブーランジイも同様だった。

「そ……そんなことを、て、手紙に……」
 メスがかすれた声で、ジャンヌに尋ねた。

「ええ。もちろんよ。神がそうわたしにお告げくださったのだから。だれだって、絶対に負ける戦いはしたくはないでしょう? にっくきイングランド軍だからと言って、わたしもむやみに死なせたいわけではありませんから」
「あ、いや……たしかにそうですが……」

 セイはうろたえているブーランジイとメスの姿をみて、きゅうにおかしくなった。
「あはははは…… ベルトラン、ジャン。きみたちはジャンヌのことを信じてたンじゃないのかい」
「セイ殿……」

「ジャンヌは絶対に勝つ。そうだろ? 神の啓示を受けてるんだから。きみたちがそれを疑ってどうするんだい」
 セイが投げかけたことばにブーランジイが反応した。
「ああ……そ、そうだな。セイ殿の言う通りだ。われわれは神の軍隊なのだから」
「そうとも、ベルトランがただしい。ジャンヌのおことばがあまりに確信に満ちていたから、つい気圧けおされてしまったが……そう、わたしたちは神の軍隊なのだ」

「だろ? それにこれはジャンヌが言ってるんじゃない。神がジャンヌに授けた啓示だ。ま、ちょいと過激だからイングランド軍は激高しそうだけどね」
「神の子、セイ。そうなのですか? わたしの申し出は過激なのですか?」

「ジャンヌ。気にすることはないさ」

 セイはにこりと笑ってから言った。
「きみは言ったとおりに、イングランド軍を大敗させる。未来からきたぼくが保証するよ」

 ジャンヌはおおきく目をひらいて、うれしそうな顔をした。
「まぁ、神の子、セイ。それはなによりの福音ですわ」

 ジャンヌはすぐに敬虔な顔をすると、セイの前にひざまずいて五指を組んだ。
「ジャンヌ、よしてくれよ。ぼくは神じゃないよ」
「ですが、わたしに福音をもたらしてくれました」

 セイは自分を見あげるジャンヌを、見おろしながら真剣な表情で言った。
「ジャンヌ、気をつけて。さきほど現われたどくろの黒騎士は、きみを歴史どおりの結末に導かせないための『悪意』が具現化したものだ」

「それは悪魔なのですか?」
「それはわからない……」

「だけどそいつは、ジャンヌ、あなたを『聖女』として名を残したい、というジャンの願いを阻止するためにならなんでも仕掛けてくるはずだ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...