ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

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ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜

第7話 あのかたは聖女となるべきだった...

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「ヤニス・デュランドさんですね。あなたを迎えにきました」
「迎えに? きみはだれだ? 東洋人のようだが」
「ぼくはセイ・ユメミ。あなたは21世紀で昏睡病に罹患して、魂を前世に囚われているんです」
「こ、昏睡病! わたしは昏睡病なのか!」
「はい。ぼくはあなたの魂を引き揚げサルベージにきました……」

「このジャン・ド・メスさんの未練を教えてください」

 ふっとデュランドの顔がメスの頭の上から消えた。と同時に我にかえったメスが、悲痛な表情で声を絞りだした。

「わたしはジャンヌ・ダルクを救えなかった。あのかたは『聖女』となるべきおひとであったはずなのに、それが果たせなかった。それがわたしの人生最大の心残りなのだ」

「ジャンヌ・ダルクだって!」
 セイがあげた驚きの声に、ブーランジイが反応した。
「未来からきた少年よ。そなたはジャンヌを知っているのか? それに今ジャンが言っていた、ジャンヌを救えなかったというのはどういう意味なのだ」

「ぼくはそんなに詳しいわけじゃない。だけど未来の常識としてこれだけは知ってる」

「ジャンヌ・ダルクは100年戦争と呼ばれるイギリスとの戦いで、フランスを勝利に導きながら、魔女として火刑にふされて若くして命を落とした」

「魔女だとぉ!」
 ジャン・ド・メスがセイに掴みかからんばかりの勢いで叫んだ。
「ジャンヌは聖女だ。魔女なんかであるものか! 彼女は数年も前から神の声を聞いて、片田舎のドンレミ村から使命にかられてここまで来たのだ」
「ああ、そうだとも。わたしたちふたりはジャンヌの聖なる言葉を信じて、ヴォークルールからこのシノンまで警護してきた。そして今まさにこれからジャンヌとともに、ろう城を続けるオルレアンを解放すべく、戦いに向うところなのだ」

「なにを騒いでいるのです。ベルトラン、ジャン」

 奥の螺旋らせん階段のほうから女性の声が聞こえた。

 その声は森を抜ける風のように涼やかで、満天の星のように神々しく、そして猛獣の咆哮のような猛々しさに満ちていた。

 ラ・ピュセル乙女ジャンヌ・ダルクだった。
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