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ダイブ8 オルレアンの乙女 〜ジャンヌ・ダルク編 〜
第1話 聖女を焼き殺してしまった!
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これは、夢見・聖がみずからを『ソウル・ダイバー』と名乗り、まだたったひとりで『トラウマ』と戦っていたときの話。
マリアやエヴァたちと出会う前の、孤独な戦いのなかのひとつ。
「ソウル・ダイバー篇」
1431年五月二十日——
フランス ルーアン ヴィュー・マルシェ広場
広場にしつらえられた処刑台の周りを、取り囲んだ数千人の群衆のだれもが、悲鳴にもにた叫び声をあげ、その場に泣き崩れていた。警備の兵士たちでさえ、おのれの職務を放棄するかのように脱力し、ただ処刑台のほうを呆然として見ていた。涙を流している者さえいる。
群衆をかきわけるように、よろよろと死刑執行人が歩み出て、ちかくにいたひとりの修道士の足にしがみつく。
「修道士さま……お許しを……」
執行人は煙で黒ずんだ顔を、まるで洗い流すかのように涙にくれながら告解した。
「おれは聖女を焼き殺してしまった!」
修道士はその場に跪き。執行人の頬の涙を指でぬぐってやりながら、広場中央に目をやった。
炎が燃えさかっていた。
すでにその高さは正面にある肉屋の屋根を越えるほど立ち上り、あたりを濛濛とした煙は暗雲のように空を覆っていた。
修道士はその炎のなかに目をこらした。
まだかろうじて形を保っている人らしき影がそこにあった。
ひとびとの悲痛な嘆きの声と、バチバチと音をたてる炎の音で満たされるなか、彼はふと鳥の羽ばたきの音を聞いたような気がした。
空を一羽の鳩が飛んでいた。
鳩は黒煙の隙間からのぞく、青空にむかって優雅に羽ばたいていった。
------------------------------------------------------------
「待ってよ。聖ちゃん!」
広瀬・花香里は終業のチャイムをきくなり、教室を飛び出していった夢見・聖を追いかけながら言った。
「かがり、それは無理だよ。だって今日から叔父さんの研究所は正式稼働するんだろ」
聖はそう答えながらも、すたすたと歩をすすめる。こちらを配慮して歩みをゆるめるという気はないらしい。
「聖ちゃんも開発にかかわったんだから、いまさらはしゃぐことなんかないでしょうにぃ」
「まぁ、基本、ぼく専用に開発したんだから、かかわるのは当然さ」
「だったら、そんなに……」
聖がふいに足をとめて振り向いた。
「あの装置での初ダイブなんだ。興奮するな、っていうのが無理だよ」
聖の顔はこころなしか紅潮してみえた。
「前の装置だって、そうわるくなかったわ」
「かがり、全然ちがうよ」
「前のプールはバスタブを改造したものだったから、完全に横たわることができなかった。水の中に沈んでも足が外につきだしていただろ。それにセンサー類もすくなかった。心拍数とか呼吸とか体温とか、リアルタイムで計測されるヴァイタル・データは限られてた。でも今度の装置は、脳内物質のこまかな動きをトレースできるんだ」
「それってそんな大切なこと?」
「あったりまえだろう。潜っている前世で、ぼくがどんな状態にあるのかが、モニタリングできるんだから」
「だいたい大暴れしているんだから、アドレナリン出まくりってとこでしょ」
「そ、そうかもしれないけど、どんな場面でどれほど精神の起伏があったか、あとで検証することで、その後のダイブの参考になるかもしれないし……」
「いつかぼく以外のソウル・ダイバーと一緒にダイブできる日が訪れたら、その人たちにそのデータは役にたつと思うんだ」
マリアやエヴァたちと出会う前の、孤独な戦いのなかのひとつ。
「ソウル・ダイバー篇」
1431年五月二十日——
フランス ルーアン ヴィュー・マルシェ広場
広場にしつらえられた処刑台の周りを、取り囲んだ数千人の群衆のだれもが、悲鳴にもにた叫び声をあげ、その場に泣き崩れていた。警備の兵士たちでさえ、おのれの職務を放棄するかのように脱力し、ただ処刑台のほうを呆然として見ていた。涙を流している者さえいる。
群衆をかきわけるように、よろよろと死刑執行人が歩み出て、ちかくにいたひとりの修道士の足にしがみつく。
「修道士さま……お許しを……」
執行人は煙で黒ずんだ顔を、まるで洗い流すかのように涙にくれながら告解した。
「おれは聖女を焼き殺してしまった!」
修道士はその場に跪き。執行人の頬の涙を指でぬぐってやりながら、広場中央に目をやった。
炎が燃えさかっていた。
すでにその高さは正面にある肉屋の屋根を越えるほど立ち上り、あたりを濛濛とした煙は暗雲のように空を覆っていた。
修道士はその炎のなかに目をこらした。
まだかろうじて形を保っている人らしき影がそこにあった。
ひとびとの悲痛な嘆きの声と、バチバチと音をたてる炎の音で満たされるなか、彼はふと鳥の羽ばたきの音を聞いたような気がした。
空を一羽の鳩が飛んでいた。
鳩は黒煙の隙間からのぞく、青空にむかって優雅に羽ばたいていった。
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「待ってよ。聖ちゃん!」
広瀬・花香里は終業のチャイムをきくなり、教室を飛び出していった夢見・聖を追いかけながら言った。
「かがり、それは無理だよ。だって今日から叔父さんの研究所は正式稼働するんだろ」
聖はそう答えながらも、すたすたと歩をすすめる。こちらを配慮して歩みをゆるめるという気はないらしい。
「聖ちゃんも開発にかかわったんだから、いまさらはしゃぐことなんかないでしょうにぃ」
「まぁ、基本、ぼく専用に開発したんだから、かかわるのは当然さ」
「だったら、そんなに……」
聖がふいに足をとめて振り向いた。
「あの装置での初ダイブなんだ。興奮するな、っていうのが無理だよ」
聖の顔はこころなしか紅潮してみえた。
「前の装置だって、そうわるくなかったわ」
「かがり、全然ちがうよ」
「前のプールはバスタブを改造したものだったから、完全に横たわることができなかった。水の中に沈んでも足が外につきだしていただろ。それにセンサー類もすくなかった。心拍数とか呼吸とか体温とか、リアルタイムで計測されるヴァイタル・データは限られてた。でも今度の装置は、脳内物質のこまかな動きをトレースできるんだ」
「それってそんな大切なこと?」
「あったりまえだろう。潜っている前世で、ぼくがどんな状態にあるのかが、モニタリングできるんだから」
「だいたい大暴れしているんだから、アドレナリン出まくりってとこでしょ」
「そ、そうかもしれないけど、どんな場面でどれほど精神の起伏があったか、あとで検証することで、その後のダイブの参考になるかもしれないし……」
「いつかぼく以外のソウル・ダイバーと一緒にダイブできる日が訪れたら、その人たちにそのデータは役にたつと思うんだ」
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