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ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第66話 神様には『L』が不足してる 〜ハンニバル篇完結〜
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父は忌々しげに顔をゆがめると、しぶしぶという動作で、墓の前に正座をすると、上半身を前に沈み込ませた。
「佳奈子、おまえとエヴァを捨てて、勝手に帰国してしまったわたしを許してくれ」
「ください」
わたしはことばを訂正した。
「わたしを許してください」
父はすぐに謝罪のことばを訂正した。すくなくとも真摯にむきあっているような態度にはみえた。
スラックスについた汚れをはたきながら、よろよろと立ち上がると父は言った。
「エヴァ。これで満足か」
「まぁ、お母さんは喜んでると思うわ」
「潜ってくれるのか?」
「いいわ。でも条件がある」
わたしは父を正面からみあげた。
「わたしは日本で中学生活と、高校生活を送りたい。だからアメリカでは暮らさない」
「そう言うと思っていたよ。それなら大丈夫だ。ガードナー財団の日本支部を用意してある。そこで遠隔ダイブをしてくれればいい」
「それと、学校生活を満喫したいから、ダイブは放課後だけにして」
「それも承知している。それにおまえにダイブを依頼するのは、A級難度のものに限定する。それなら週に一回あるかどうかだ」
「それならこっちもOKよ」
「よしきまりだ」
父が手をさしだしてきた。
わたしはその手を無視して、持っていたブリーフケースから書類をとりだした。
「じゃあ、正式に契約をしましょう」
目の前にさしだされた書類の束を目の前にして、父はあきらかに面喰らっている様子だった。
だけど、その書類に目を通しはじめると、その表情は徐々にこわばりはじめ、みるみる蒼ざめはじめた。
「エ、エヴァ……、こ、これは?」
「ビジェイに頼んで作成してもらったの」
「しかし、わたしの持ち株の40%……って」
「経営権まで譲渡しろとは言ってないわ。だけど発言権が及ぶくらいの力はもっておかないとね」
「今、土下座をして謝ったじゃないか!」
父は気色ばんだ。
「あら、謝ったからと言って、全部ちゃらになったりしないでしょ。とくにビジネスの世界では」
「あ、いや、そ、そうだが……」
「なにを心配してるの? お父さんの事業を引き継ぐのは、わたししかいないでしょうに。それとも再婚でもして、産まれた子にでも継承させるの? わたしなしには、この事業はうまくいかないっていうのに?」
「な、なぜ…… この事業にまで手を伸ばす……」
「貧乏だったから!」
「わたしたち母子、ほんとうに貧乏だったの。お母さんがダイブのためにお金を欠けすぎてね。お金がない惨めさをいやっていうほど思い知らされたの」
「佳奈子のいれ知恵か!」
「ちがうわ!」
わたしは力づよく否定した。
「お母さんはお父様のために、わたしの才能を鍛え上げたわ。お金のことなんか、なーんにも気に留めずにね。だけどわたしは、お金にこだわりたいの」
わたしは書類にサインを促すように、父にペンをさしだしてから言った。
「歴史を旅してよくわかったの。どの時代のひとびともみんな『神』の名のもとに、非道を繰り返し、戦争をおこしているってこと。結局、神の力なんてしれたものなのよ。神様には『L』が不足してるしね」
「神に『L』が足りない? LOVE(愛)が足りないとでも?」
「いいえ。GODには、 GOLDがないのよ」
わたしは父が書類にサインしたのを確認しながら言った。
「だからわたしは『神様』より『金様』を信じることにしたの」
---------------------------- ハンニバル篇完結 --------------------------------
読了いただきまして、ありがとうございました。
今回も様々な資料に助けられました。
とくにYOUTUBEの非株式会社いつかやるさんの「トラシメヌス湖畔の戦い」の動画をみて、インスパイアされたので、マジで感謝しています。
記載はないですが、ハンニバルを説明した動画やブログ等、もちろんウィキペディアも死ぬほど参考にしました。
書籍=======================================
●ハンニバル 地中海世界の覇権をかけて ( 講談社学術文庫 )
長谷川 博隆/[著] -- 講談社
●経済大国カルタゴ滅亡史 一冊で読めるポエニ戦争ハンニバル戦記
是本 信義/著 -- 光人社
●ローマ人の物語 (2) ハンニバル戦記
塩野 七生/著 -- 新潮社
●敗者が変えた世界史 上
ジャン=クリストフ・ビュイッソン/著 -- 原書房
●ローマ・カルタゴ百年戦争
塚原 富衛/著 -- 展転社
●ポエニ戦争 ( 文庫クセジュ )
ベルナール・コンベ=ファルヌー/著 -- 白水社
●ローマ・カルタゴ百年戦争
塚原 富衛/著 -- 展転社
動画=====================================================
非株式会社いつかやる
●前人未踏の奇襲!雪のアルプス越え【トレビアの戦い】ハンニバル戦記1回
●3時間で3万人が消えた壮絶な罠【トラシメヌス湖畔の戦い】ハンニバル戦記2回
●不可能を覆す史上空前の決戦【カンナエの戦い】ハンニバル戦記4回【世界の戦術戦略】
もし事実誤認等があったり、表記の間違いがあったとしたら筆者の責です。
「佳奈子、おまえとエヴァを捨てて、勝手に帰国してしまったわたしを許してくれ」
「ください」
わたしはことばを訂正した。
「わたしを許してください」
父はすぐに謝罪のことばを訂正した。すくなくとも真摯にむきあっているような態度にはみえた。
スラックスについた汚れをはたきながら、よろよろと立ち上がると父は言った。
「エヴァ。これで満足か」
「まぁ、お母さんは喜んでると思うわ」
「潜ってくれるのか?」
「いいわ。でも条件がある」
わたしは父を正面からみあげた。
「わたしは日本で中学生活と、高校生活を送りたい。だからアメリカでは暮らさない」
「そう言うと思っていたよ。それなら大丈夫だ。ガードナー財団の日本支部を用意してある。そこで遠隔ダイブをしてくれればいい」
「それと、学校生活を満喫したいから、ダイブは放課後だけにして」
「それも承知している。それにおまえにダイブを依頼するのは、A級難度のものに限定する。それなら週に一回あるかどうかだ」
「それならこっちもOKよ」
「よしきまりだ」
父が手をさしだしてきた。
わたしはその手を無視して、持っていたブリーフケースから書類をとりだした。
「じゃあ、正式に契約をしましょう」
目の前にさしだされた書類の束を目の前にして、父はあきらかに面喰らっている様子だった。
だけど、その書類に目を通しはじめると、その表情は徐々にこわばりはじめ、みるみる蒼ざめはじめた。
「エ、エヴァ……、こ、これは?」
「ビジェイに頼んで作成してもらったの」
「しかし、わたしの持ち株の40%……って」
「経営権まで譲渡しろとは言ってないわ。だけど発言権が及ぶくらいの力はもっておかないとね」
「今、土下座をして謝ったじゃないか!」
父は気色ばんだ。
「あら、謝ったからと言って、全部ちゃらになったりしないでしょ。とくにビジネスの世界では」
「あ、いや、そ、そうだが……」
「なにを心配してるの? お父さんの事業を引き継ぐのは、わたししかいないでしょうに。それとも再婚でもして、産まれた子にでも継承させるの? わたしなしには、この事業はうまくいかないっていうのに?」
「な、なぜ…… この事業にまで手を伸ばす……」
「貧乏だったから!」
「わたしたち母子、ほんとうに貧乏だったの。お母さんがダイブのためにお金を欠けすぎてね。お金がない惨めさをいやっていうほど思い知らされたの」
「佳奈子のいれ知恵か!」
「ちがうわ!」
わたしは力づよく否定した。
「お母さんはお父様のために、わたしの才能を鍛え上げたわ。お金のことなんか、なーんにも気に留めずにね。だけどわたしは、お金にこだわりたいの」
わたしは書類にサインを促すように、父にペンをさしだしてから言った。
「歴史を旅してよくわかったの。どの時代のひとびともみんな『神』の名のもとに、非道を繰り返し、戦争をおこしているってこと。結局、神の力なんてしれたものなのよ。神様には『L』が不足してるしね」
「神に『L』が足りない? LOVE(愛)が足りないとでも?」
「いいえ。GODには、 GOLDがないのよ」
わたしは父が書類にサインしたのを確認しながら言った。
「だからわたしは『神様』より『金様』を信じることにしたの」
---------------------------- ハンニバル篇完結 --------------------------------
読了いただきまして、ありがとうございました。
今回も様々な資料に助けられました。
とくにYOUTUBEの非株式会社いつかやるさんの「トラシメヌス湖畔の戦い」の動画をみて、インスパイアされたので、マジで感謝しています。
記載はないですが、ハンニバルを説明した動画やブログ等、もちろんウィキペディアも死ぬほど参考にしました。
書籍=======================================
●ハンニバル 地中海世界の覇権をかけて ( 講談社学術文庫 )
長谷川 博隆/[著] -- 講談社
●経済大国カルタゴ滅亡史 一冊で読めるポエニ戦争ハンニバル戦記
是本 信義/著 -- 光人社
●ローマ人の物語 (2) ハンニバル戦記
塩野 七生/著 -- 新潮社
●敗者が変えた世界史 上
ジャン=クリストフ・ビュイッソン/著 -- 原書房
●ローマ・カルタゴ百年戦争
塚原 富衛/著 -- 展転社
●ポエニ戦争 ( 文庫クセジュ )
ベルナール・コンベ=ファルヌー/著 -- 白水社
●ローマ・カルタゴ百年戦争
塚原 富衛/著 -- 展転社
動画=====================================================
非株式会社いつかやる
●前人未踏の奇襲!雪のアルプス越え【トレビアの戦い】ハンニバル戦記1回
●3時間で3万人が消えた壮絶な罠【トラシメヌス湖畔の戦い】ハンニバル戦記2回
●不可能を覆す史上空前の決戦【カンナエの戦い】ハンニバル戦記4回【世界の戦術戦略】
もし事実誤認等があったり、表記の間違いがあったとしたら筆者の責です。
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