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ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第59話 ハンニバル、ザマの戦いに勝利
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かなたから歓声が聞こえてきた。
こちらにむかってその歓喜の波が近づいてくる。
ゆっくりとバイクのハンドルを切って、そちらに向き直ると、雄叫びをあげながらこちらへ向ってくるハンニバル軍があった。
数万いた兵はすでに数千にまで減り、傷を負っていない者はだれもいないほど疲弊していたけれど、まるで先陣を競うように突進してきていた。
だけどその先頭は騎馬を駆るハンニバル将軍だった。
ハンニバル将軍はわたしたちの手前で減速すると、息を整える時間も惜しいとばかりに言った。
「エヴァ、リスクス、よくやった! よくぞこの負け戦をひっくり返してくれた」
ハンニバル将軍は馬から降りたつと、わたしたちを見あげた。
「このハンニバル、そなたらに礼を言うぞ」
ハンニバルがその場に片膝をついた。
「将軍、将軍がそんなことをしちゃいけません。おれっちはガリア人ですよ」
後部座席でリスクスがあわてふためいていた。
ハンニバルはすぐにすっくと立ち上がると、にやりと笑った。
「ああ、部下の前でこんなマネはできん。だからみんなを振り切って一番最初に来た。このことは他言無用で頼む」
「わかったわ」
わたしはリスクスの代わりに答えた。
「それにこの程度のことで、感謝されても、わたし、別にうれしくないしね」
「うわはははは。エヴァ、そう言ってくれると助かる」
ハンニバルは満足そうに大笑いした。
しばらくすると後続の兵たちが続々とやってきた。
ハンニバルは護衛の者たちに独断専行したことを諌められていたけど、あたりを包む勝利の空気が場をなごませ、すぐに笑いがはじけていった。
「エヴァちゃん、すごいね」
ビジェイがあたりに散らばるドラゴンの頭を見回しながら言った。
「あら、ビジェイが手伝ってくれたおかげよ」
「よく言いますね、お嬢さん。オレたちなしでもやれたでしょう」
ローガンがすこし不満そうに口をはさんできた。
お嬢さん——?
いつのまにか『お嬢ちゃん』から変わっていることに気づいた。
「そんなことないわよ、ローガン。あれだけの大型ミサイル、精神力をため込まないと撃てないんだもの。時間稼ぎをしてもらわなきゃ、大変だったわ」
「本当かね。別にあんなに強力でなくても倒せたような気がするぞ」
こちらをじっと見ながら、父がゆっくりと近づいてきた。
「そう? お父様がそうおっしゃるのなら、そうかもしれないわね。でもわたしあのサイズしか撃ったことがないから……」
「前にも撃ったことがあるのかい?」
ビジェイが目を見開いた。
「もちろんよ。そのときも相手は『ソロモンの72柱』の悪魔だったわ。名前は忘れちゃったけど、すくなくとも今回のフラウロスより、序列は上だったはず」
「参ったな。だからあんなに自信満々だった、っていうわけかい」
「そうね、ローガン。でもそいつもそんなに強くなかった」
こちらにむかってその歓喜の波が近づいてくる。
ゆっくりとバイクのハンドルを切って、そちらに向き直ると、雄叫びをあげながらこちらへ向ってくるハンニバル軍があった。
数万いた兵はすでに数千にまで減り、傷を負っていない者はだれもいないほど疲弊していたけれど、まるで先陣を競うように突進してきていた。
だけどその先頭は騎馬を駆るハンニバル将軍だった。
ハンニバル将軍はわたしたちの手前で減速すると、息を整える時間も惜しいとばかりに言った。
「エヴァ、リスクス、よくやった! よくぞこの負け戦をひっくり返してくれた」
ハンニバル将軍は馬から降りたつと、わたしたちを見あげた。
「このハンニバル、そなたらに礼を言うぞ」
ハンニバルがその場に片膝をついた。
「将軍、将軍がそんなことをしちゃいけません。おれっちはガリア人ですよ」
後部座席でリスクスがあわてふためいていた。
ハンニバルはすぐにすっくと立ち上がると、にやりと笑った。
「ああ、部下の前でこんなマネはできん。だからみんなを振り切って一番最初に来た。このことは他言無用で頼む」
「わかったわ」
わたしはリスクスの代わりに答えた。
「それにこの程度のことで、感謝されても、わたし、別にうれしくないしね」
「うわはははは。エヴァ、そう言ってくれると助かる」
ハンニバルは満足そうに大笑いした。
しばらくすると後続の兵たちが続々とやってきた。
ハンニバルは護衛の者たちに独断専行したことを諌められていたけど、あたりを包む勝利の空気が場をなごませ、すぐに笑いがはじけていった。
「エヴァちゃん、すごいね」
ビジェイがあたりに散らばるドラゴンの頭を見回しながら言った。
「あら、ビジェイが手伝ってくれたおかげよ」
「よく言いますね、お嬢さん。オレたちなしでもやれたでしょう」
ローガンがすこし不満そうに口をはさんできた。
お嬢さん——?
いつのまにか『お嬢ちゃん』から変わっていることに気づいた。
「そんなことないわよ、ローガン。あれだけの大型ミサイル、精神力をため込まないと撃てないんだもの。時間稼ぎをしてもらわなきゃ、大変だったわ」
「本当かね。別にあんなに強力でなくても倒せたような気がするぞ」
こちらをじっと見ながら、父がゆっくりと近づいてきた。
「そう? お父様がそうおっしゃるのなら、そうかもしれないわね。でもわたしあのサイズしか撃ったことがないから……」
「前にも撃ったことがあるのかい?」
ビジェイが目を見開いた。
「もちろんよ。そのときも相手は『ソロモンの72柱』の悪魔だったわ。名前は忘れちゃったけど、すくなくとも今回のフラウロスより、序列は上だったはず」
「参ったな。だからあんなに自信満々だった、っていうわけかい」
「そうね、ローガン。でもそいつもそんなに強くなかった」
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