ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

文字の大きさ
上 下
815 / 935
ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜

第47話 ハンニバルさん。退却はまだよ

しおりを挟む
「ビジェイ!」

 ビジェイは顔をしかめながらも、駆け寄ろうとしたわたしを手で制しながら叫んだ。

「エヴァちゃんは安全なところまで退避して!」
「ビジェイの言う通りだ、エヴァ。残念だがその機関銃の火力では、あのモンスターは倒せない」

「お父様はあいかわらず娘のこと、信頼していないのね」

「信頼はしているよ。だが今回は相手がわるい」

 父のちかくでドスンという重々しい音がした。みるとわずか1メートルも離れていない場所に投石がめり込んでいた。

「CEO、ヤバいですぜ。CEOこそ退避してください」
 ローガンが父の元へ歩みよろうとした。

「危ない!」

 ビジェイは叫ぶやいなや、ローガンのすぐ手前に氷の壁をせり上げた。が、その壁は10センチの厚みもないもので、簡単に投石に打ち砕かれた。
 ローガンのからだが数メートルうしろにはじき飛ぶ。

「ローガン!」

 飛び散った氷片が倒れたローガンのうえから降り注ぐ。
 わたしはローガンの元へ駆け寄ろうとしたけど、父がわたしの肩をつかんで押しとどめた。

「お父様、ローガンが……」
「心配ない。ちょっと怪我をおっただけだ。ビジェイの氷の壁が投石の勢いを殺した」
「ガードナーさん、すみません。完全に防ぎきれませんでした。このあたりに水がすくなくて、カンナエのときのようには……」

 それを聞いて、わたしはザマの戦場のほうへ目をやった。

 ハンニバル軍がまた押されはじめていた。
 当然と言えば当然だ——
 ビジェイの氷の足止めも、ローガンの炎の攻撃も勢いをうしなっているのだから。

 マルケルスは—— 悪魔フラウロスはアルキメデスと一緒に大笑いしていた。老人ふたりが皴だらけの顔を、満足そうに歪めて笑っている姿は、わたしには醜悪の極みにみえた。

「むかつく! あのモンスター、倒してくる」

「な、なにを言っている、エヴァ。さっきも言ったはずだ。機関銃ではあのモンスターに致命傷を与えられない」
「何発もぶっ込めば、なんとかなるでしょ?」
「ま、まぁ、たしかにそうだが…… 時間がかかりすぎる。危険だ」


「まぁね。わたしも一体に時間かけようとは思わないわ。あんなにいっぱいいるしね」

 ハンニバルの幕舎に投石が直撃して、テントごと吹き飛ばした。
 さすがのハンニバルも敗北を覚悟したようで、自分の乗った馬をゆっくりと後退させはじめた。

「ハンニバルさん。退却はまだよ」
「エヴァ、もう無理だ。やはり歴史通りにしかならんのだ」

 エヴァは地面にむけて手をかざした。
 地面にふたたびぽっかりと穴が開いて、そこから見える黒い霧のなかから武器がせりあがってきた。

「バズーカー砲!」
 ビジェイが叫んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

処理中です...