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ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第40話 シラクサからの刺客
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「このジジイには、さすがのおれも手こずらされた。見たこともない投石機で兵を寄せつけねぇし、海から上陸しようとしたら、おかしな機械で船の舳先を持ちあげられて、あれよあれよという間にひっくり返された。あげくに光線かなにかで遠くから船に火をつけられたんだ」
「おどろくに当たらん。大量の鏡で太陽の光を一ヶ所に集約しただけじゃ」
老人は自分の功績を褒められるのは、迷惑とばかりに口を曲げた。
「アルキメデス!!」
ビジェイがおおきな声で叫んだ。
老人はビジェイのほうを不思議そうに見つめた。
「なぜ、あんたはわしを知っている?」
「ローマ軍の攻撃を、自分で開発した最先端の兵器でことごとく蹴散らした、シラクサの軍師にして、希代の数学者、そして歴史的物理学者…… し、しかし、あなたはシラクサ攻囲戦で、突入してきたローマ兵に殺されたはずです」
「ああ、あれは危なかった……」
マルケルスが頭をかきながら言った。
「この爺さん、床に描いた図形を踏まれて、ぶち切れちまってな。あやうくうちの兵に殺されるところだった」
「いや、ちがう。『わしの図形を踏むな!』と言って、ローマ兵に殺されるはずだ」
ビジェイがマルケルスに反論した。
「だから危なかった、と言ってるだろ?」
「バカな? 歴史を変えたのか?」
「だから?」
その声色は、人間の声帯から発せられたものとは思えなかった。機械が軋むような耳障りのわるい音のようであり、未知の生物の咆哮のようであった。
わたしはハッとしてマルケルスを見つめた。
「てめぇ、悪魔だな!」
ローガンが前に足を踏みだしながら言った。
前のめりのローガンを父が手を横につきだして、押しとどめる。
「ローガン、はやるな! 階級もわからない相手に、不用意に挑むんじゃない。命を落とすぞ」
「ほう。さすがリーダー。おれの階級の高さに気づいたかね」
「いいや、正直わからん。だが、もし名のある悪魔であれば、作戦も練らずに戦っていいはずがない」
「賢明だ」
「お父さん、悪魔の階級ってなに?」
「エヴァ。おまえは遭遇したことがないだろうが、ここのところ悪魔どもは勢いを強めていて、強い悪魔が復活しはじめているのだ。これまでは名もしれぬ雑魚がほとんどだったが……」
「CEO、どうやらこいつは……」
「ああ。すくなくとも雑魚ではないようだ」
「ふふふ、正体を教えてやろう」
にたりとマルケルスが笑うと、その口元がガバッと避けて、猛獣の顔が浮かびあがった
「豹!」
ローガンが叫んだ。
「我が名は地獄の大侯爵フラウロス。序列64番目の悪魔だよ」
「おどろくに当たらん。大量の鏡で太陽の光を一ヶ所に集約しただけじゃ」
老人は自分の功績を褒められるのは、迷惑とばかりに口を曲げた。
「アルキメデス!!」
ビジェイがおおきな声で叫んだ。
老人はビジェイのほうを不思議そうに見つめた。
「なぜ、あんたはわしを知っている?」
「ローマ軍の攻撃を、自分で開発した最先端の兵器でことごとく蹴散らした、シラクサの軍師にして、希代の数学者、そして歴史的物理学者…… し、しかし、あなたはシラクサ攻囲戦で、突入してきたローマ兵に殺されたはずです」
「ああ、あれは危なかった……」
マルケルスが頭をかきながら言った。
「この爺さん、床に描いた図形を踏まれて、ぶち切れちまってな。あやうくうちの兵に殺されるところだった」
「いや、ちがう。『わしの図形を踏むな!』と言って、ローマ兵に殺されるはずだ」
ビジェイがマルケルスに反論した。
「だから危なかった、と言ってるだろ?」
「バカな? 歴史を変えたのか?」
「だから?」
その声色は、人間の声帯から発せられたものとは思えなかった。機械が軋むような耳障りのわるい音のようであり、未知の生物の咆哮のようであった。
わたしはハッとしてマルケルスを見つめた。
「てめぇ、悪魔だな!」
ローガンが前に足を踏みだしながら言った。
前のめりのローガンを父が手を横につきだして、押しとどめる。
「ローガン、はやるな! 階級もわからない相手に、不用意に挑むんじゃない。命を落とすぞ」
「ほう。さすがリーダー。おれの階級の高さに気づいたかね」
「いいや、正直わからん。だが、もし名のある悪魔であれば、作戦も練らずに戦っていいはずがない」
「賢明だ」
「お父さん、悪魔の階級ってなに?」
「エヴァ。おまえは遭遇したことがないだろうが、ここのところ悪魔どもは勢いを強めていて、強い悪魔が復活しはじめているのだ。これまでは名もしれぬ雑魚がほとんどだったが……」
「CEO、どうやらこいつは……」
「ああ。すくなくとも雑魚ではないようだ」
「ふふふ、正体を教えてやろう」
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「我が名は地獄の大侯爵フラウロス。序列64番目の悪魔だよ」
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