807 / 935
ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第39話 ルクス・クラウディウス・マルケルス
しおりを挟む
「おいおい、挨拶もなしかい」
「きさまぁ、父の仇!」
「父の仇ぃ? なんだ、そりゃ?」
「だまれ!」
リスクスが剣をふりあげて、打ち下ろす。マルケルスはその一撃を易々と受け流した。
「リスクス、剣をひけ!」
「マルケルス、もういい!」
ハンニバルとスキピオが同時に叫んだ。
マルケルスがリスクスに蔑むような目つきを投げつけると、剣をゆっくりと腰の革帯に戻した。その仕草を目で追いながら、スキピオが言った。
「ハンニバル、あなたには紹介不要だろうが、紹介させてもらうよ。『イタリアの剣』、ルクス・クラウディウス・マルケルス」
「ああ、スキピオ。紹介は不要だ。この男はわたしにとって、不倶戴天の敵だよ。まったくどれほどこの年寄りに苦しめられたか。カンナエの戦い以降、この男はわたしの軍をずっと追撃しては襲いかかってきた。ほとんどが小競り合い程度の戦闘だったが、我が軍はすこしづつ兵を削られていった」
「しかたなぇのよ。こちらもカンナエの戦いで壊滅的被害を喰らったからね。正面からぶつかるわけにはいかなくてね」
「何年だ! そなたはわたしを何年のあいだ苦しめてきた?」
「14年だ、たったのね。ノラの戦いでささやかな勝利をもぎとってからは、ただお前さんだけを追いかけてきたにすぎんがね」
「本国やスペインからの補給がおぼつかない以上、消耗戦を避けるしないのだ。そこをそなたは……」
「ああ、たっぷりと消耗させていただいたよ」
「そなたは、幸運にも悪運にも左右されない。勝てば勢いに乗って追撃し、負けてもなお立ち向かってくる。そのおかげでいつの頃か、我が軍はローマ軍に劣勢をしいられ、この会戦で雌雄を決するまでに追い込まれている」
「だが、おれはおまえさんだけにかかずらわってたわけじゃねぇよ。カルタゴに寝返ったシラクサ討伐やら、なんやらにもやらされていたからな。まぁ、おかげでスゴイ軍師を手に入れた」
マルケルスがスキピオの背後に控えていた、ひときわ年をとった老人を手招きした。老人がよろよろと前に歩みでてきた。
わたしには髭もじゃの老人は、どれもおなじ顔にしか見えなかったし、歩くのもおぼつかなそうな状態で、軍師、と呼ばれているのが嘘っぽく感じられた。
だけど、ビジェイはちがっていた。その老人をみるなり、驚愕の表情でうわごとのように呟いた。
「そんな…… まさか……シラクサって……」
「きさまぁ、父の仇!」
「父の仇ぃ? なんだ、そりゃ?」
「だまれ!」
リスクスが剣をふりあげて、打ち下ろす。マルケルスはその一撃を易々と受け流した。
「リスクス、剣をひけ!」
「マルケルス、もういい!」
ハンニバルとスキピオが同時に叫んだ。
マルケルスがリスクスに蔑むような目つきを投げつけると、剣をゆっくりと腰の革帯に戻した。その仕草を目で追いながら、スキピオが言った。
「ハンニバル、あなたには紹介不要だろうが、紹介させてもらうよ。『イタリアの剣』、ルクス・クラウディウス・マルケルス」
「ああ、スキピオ。紹介は不要だ。この男はわたしにとって、不倶戴天の敵だよ。まったくどれほどこの年寄りに苦しめられたか。カンナエの戦い以降、この男はわたしの軍をずっと追撃しては襲いかかってきた。ほとんどが小競り合い程度の戦闘だったが、我が軍はすこしづつ兵を削られていった」
「しかたなぇのよ。こちらもカンナエの戦いで壊滅的被害を喰らったからね。正面からぶつかるわけにはいかなくてね」
「何年だ! そなたはわたしを何年のあいだ苦しめてきた?」
「14年だ、たったのね。ノラの戦いでささやかな勝利をもぎとってからは、ただお前さんだけを追いかけてきたにすぎんがね」
「本国やスペインからの補給がおぼつかない以上、消耗戦を避けるしないのだ。そこをそなたは……」
「ああ、たっぷりと消耗させていただいたよ」
「そなたは、幸運にも悪運にも左右されない。勝てば勢いに乗って追撃し、負けてもなお立ち向かってくる。そのおかげでいつの頃か、我が軍はローマ軍に劣勢をしいられ、この会戦で雌雄を決するまでに追い込まれている」
「だが、おれはおまえさんだけにかかずらわってたわけじゃねぇよ。カルタゴに寝返ったシラクサ討伐やら、なんやらにもやらされていたからな。まぁ、おかげでスゴイ軍師を手に入れた」
マルケルスがスキピオの背後に控えていた、ひときわ年をとった老人を手招きした。老人がよろよろと前に歩みでてきた。
わたしには髭もじゃの老人は、どれもおなじ顔にしか見えなかったし、歩くのもおぼつかなそうな状態で、軍師、と呼ばれているのが嘘っぽく感じられた。
だけど、ビジェイはちがっていた。その老人をみるなり、驚愕の表情でうわごとのように呟いた。
「そんな…… まさか……シラクサって……」
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる