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ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第35話 時間をとばされた!
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「時間を飛ばされたぞ! ビジェイ、どれくらい移動した?」
あたりの風景が戻ってくるなりローガンが叫んだ。
わたしは、『いくらビジェイでもそんなにはやく答えられるわけないでしょ』と内心毒づきながら、あたりの風景を見回した。
目の前に平原が広がっていた。
自分たちは崖の上にいて、その平原を見おろしていることがわかった。
そしてその平原に、ものすごい数の兵士たちがいた。
おそらく数万を数える兵士に、数千もの騎兵。そして百頭ちかい戦象までが揃っていた。
彼らは陣営地を設営していた。
だけどそこからはるか数キロ離れた場所にも、別の集団があった。小高い丘にさえぎられて全貌は見えなかったけど、川の近くに陣取った数万の兵士たちが陣営地を設営している。
「ザマだ! なんてことだ。一気に14年飛ばされた」
ビジェイはそう言うなり、下唇を噛みしめた。
「ザマだと。バカな。歴史は変わったはずだ。ハンニバルはあのあと、ローマへ進攻したのではないのか!」
父が叫んだ。だれかに責任をなすりつけるような口ぶりだった。
「ビジェイ! なぜここがザマだとわかる! ただの平原だぞ」
ローガンが大声をあげた。まるで父の怒りの矛先を自分に向けまいとしているようだ。
「あれを見てください!」
ビジェイが両軍の兵の設営場所の真ん中付近にある低い丘を指さした。
そこに数十人の騎兵がいた。
そしてその騎兵に守られるようにして、中央で騎馬していたのはハンニバルだった。ハンニバルたちは慎重な足取りで、丘を登っていく。
反対側からも騎馬隊が丘を登ってきているのがみえた。
「あちらはローマ軍執政官スキピオだ。まわりを警士たちが警護している」
「スキピオ?」
わたしは驚いて、ビジェイに尋ねた。
「ああ、スキピオ・アフリカヌス。いや、もっともまだこのときはそう呼ばれてない。このアフリカの地、ザマでハンニバル軍を殲滅したことで、呼ばれるようになった尊称だからね」
「ハンニバルの最大のライバルなんでしょ? ヤバいじゃない? あんなに近づくなんて」
「ああ、ヤバい。歴代十傑とされる名武将同士が直接会談するんだ。ぼくらは歴史上でも稀なトンでもない瞬間を目の当たりにしてる。ヤバいに決まってる」
そのとき、ローガンがおどろきの声をあげた。
「おい、ハンニバルのうしろにいるのって、リスクスじゃねぇか」
たしかにそのとおりだった。かなり老けていたが、リスクスにまちがいなかった。
わたしは要引揚者が14年後も生きていたことに、まずはホッとした。超跳躍したということは、対象者がいなくなっていないっていう証拠だったけど、それでもとりあえず安心した。
「われわれもあそこへ行こう」
父が提案した。
提案するもなにも、すこしでも要引揚者の近くにいなければ、わたしたちは力を使えないのだから、選択肢は端からない。
「でもどうやって、あんな遠くまでいくつもり? 馬とかないわよ」
「エヴァちゃん、それは心配ない。ぼくとローガンでやる」
あたりの風景が戻ってくるなりローガンが叫んだ。
わたしは、『いくらビジェイでもそんなにはやく答えられるわけないでしょ』と内心毒づきながら、あたりの風景を見回した。
目の前に平原が広がっていた。
自分たちは崖の上にいて、その平原を見おろしていることがわかった。
そしてその平原に、ものすごい数の兵士たちがいた。
おそらく数万を数える兵士に、数千もの騎兵。そして百頭ちかい戦象までが揃っていた。
彼らは陣営地を設営していた。
だけどそこからはるか数キロ離れた場所にも、別の集団があった。小高い丘にさえぎられて全貌は見えなかったけど、川の近くに陣取った数万の兵士たちが陣営地を設営している。
「ザマだ! なんてことだ。一気に14年飛ばされた」
ビジェイはそう言うなり、下唇を噛みしめた。
「ザマだと。バカな。歴史は変わったはずだ。ハンニバルはあのあと、ローマへ進攻したのではないのか!」
父が叫んだ。だれかに責任をなすりつけるような口ぶりだった。
「ビジェイ! なぜここがザマだとわかる! ただの平原だぞ」
ローガンが大声をあげた。まるで父の怒りの矛先を自分に向けまいとしているようだ。
「あれを見てください!」
ビジェイが両軍の兵の設営場所の真ん中付近にある低い丘を指さした。
そこに数十人の騎兵がいた。
そしてその騎兵に守られるようにして、中央で騎馬していたのはハンニバルだった。ハンニバルたちは慎重な足取りで、丘を登っていく。
反対側からも騎馬隊が丘を登ってきているのがみえた。
「あちらはローマ軍執政官スキピオだ。まわりを警士たちが警護している」
「スキピオ?」
わたしは驚いて、ビジェイに尋ねた。
「ああ、スキピオ・アフリカヌス。いや、もっともまだこのときはそう呼ばれてない。このアフリカの地、ザマでハンニバル軍を殲滅したことで、呼ばれるようになった尊称だからね」
「ハンニバルの最大のライバルなんでしょ? ヤバいじゃない? あんなに近づくなんて」
「ああ、ヤバい。歴代十傑とされる名武将同士が直接会談するんだ。ぼくらは歴史上でも稀なトンでもない瞬間を目の当たりにしてる。ヤバいに決まってる」
そのとき、ローガンがおどろきの声をあげた。
「おい、ハンニバルのうしろにいるのって、リスクスじゃねぇか」
たしかにそのとおりだった。かなり老けていたが、リスクスにまちがいなかった。
わたしは要引揚者が14年後も生きていたことに、まずはホッとした。超跳躍したということは、対象者がいなくなっていないっていう証拠だったけど、それでもとりあえず安心した。
「われわれもあそこへ行こう」
父が提案した。
提案するもなにも、すこしでも要引揚者の近くにいなければ、わたしたちは力を使えないのだから、選択肢は端からない。
「でもどうやって、あんな遠くまでいくつもり? 馬とかないわよ」
「エヴァちゃん、それは心配ない。ぼくとローガンでやる」
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