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ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第33話 目の前の光景、この世の地獄だと思う
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わずか2キロ平方メートルほどの平原は、七万もの死体で埋め尽くされ、ローマ兵は歴史通り、ほぼ全滅していた。
ビジェイから聞いた話では、戦死者のからだから戦利品をはぎとるのに、次の日丸々一日使っても終わらなかったという話だ。ハンニバルが勝利を知らせるために、本国に送った弟のマゴは、本国の要人の前で、死んだローマ兵の指から抜き取った金の指輪で山を築いてみせたという。
数万個の指輪の山がどれくらいのものかはわからないが、7万人の戦死者というのは、いままさに目の前にしている。
どんなにやわらかな表現を使っても、この世の地獄だと思う——
そのとき、だれかがわたしを呼んでいるのに気づいた。
「エヴァ!」
ハッとして振り向くと、父が心配そうな顔をしてわたしを見ていた。
「お父様、なに?」
「エヴァ。もういい。終わってる」
そう言って正面を指さした。
いつのまにか一万のヒッポカムポスが、残らず倒れていた。
「あら、ほんとうだわ」
わたしはあっけらかん、という口調を心がけて言った。
だけど、心は自分が倒した手前のヒッポカムポスではなく、平原を赤く染め上げている7万ものローマ兵の死体に奪われていた。
一万ものモンスターをあっという間に駆逐したかもしれない。だが今から2000年後の武器で撃ち殺しただけだ。
武骨な剣で、斬り殺したのとは、圧倒的な差がある。
相手の目と目を見合わせ、互いの吐息をかぎながら、命を奪い合う、というのは、どんなに恐ろしいのだろうか……
「エヴァちゃん、すごいね」
ビジェイが髭をさすりながら言った。
「ビジェイ。あなた、もうすこし見立てしっかりなさいよ」
「ああ。そうだね。迷惑をかけた」
「別に迷惑じゃないけど……」
ローガンもわたしになにか言ってくるんじゃないかと思って、ちらりと見たけど、とっても難しい顔をして黙り込んでいた。
どこかで鬨の声があがった。
それに呼応して平原の各所から勝利の雄叫びがあがる。
その夜のハンニバル陣営は、まさに勝利の美酒に酔いしれていた。
だが将官たちは浮かれていなかった。
みな口を揃えて、時をおかずローマ攻略に向うよう、ハンニバルへ進言していた。
「今攻めれば5日後にはカピトリーノの丘で夕食ができますぞ」
ひとりの将官が冗談まじりにそう言った。
ビジェイから聞いた話では、戦死者のからだから戦利品をはぎとるのに、次の日丸々一日使っても終わらなかったという話だ。ハンニバルが勝利を知らせるために、本国に送った弟のマゴは、本国の要人の前で、死んだローマ兵の指から抜き取った金の指輪で山を築いてみせたという。
数万個の指輪の山がどれくらいのものかはわからないが、7万人の戦死者というのは、いままさに目の前にしている。
どんなにやわらかな表現を使っても、この世の地獄だと思う——
そのとき、だれかがわたしを呼んでいるのに気づいた。
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ハッとして振り向くと、父が心配そうな顔をしてわたしを見ていた。
「お父様、なに?」
「エヴァ。もういい。終わってる」
そう言って正面を指さした。
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だけど、心は自分が倒した手前のヒッポカムポスではなく、平原を赤く染め上げている7万ものローマ兵の死体に奪われていた。
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相手の目と目を見合わせ、互いの吐息をかぎながら、命を奪い合う、というのは、どんなに恐ろしいのだろうか……
「エヴァちゃん、すごいね」
ビジェイが髭をさすりながら言った。
「ビジェイ。あなた、もうすこし見立てしっかりなさいよ」
「ああ。そうだね。迷惑をかけた」
「別に迷惑じゃないけど……」
ローガンもわたしになにか言ってくるんじゃないかと思って、ちらりと見たけど、とっても難しい顔をして黙り込んでいた。
どこかで鬨の声があがった。
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その夜のハンニバル陣営は、まさに勝利の美酒に酔いしれていた。
だが将官たちは浮かれていなかった。
みな口を揃えて、時をおかずローマ攻略に向うよう、ハンニバルへ進言していた。
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