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ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第25話 カンナエの戦い
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カンナエの戦い——
アドリア海に面したカンナエの平原は、周囲を丘陵に囲まれこの地方では比較的狭い一帯だった。
そこにローマ軍8万7000 対 カルタゴ軍5万が対峙した——
ローマ兵4万2000に同盟国兵45000の精鋭にたいして、カルタゴ兵は2万6000。残りの2万4000はガリア傭兵という寄せ集めだった。
だがこの戦いで、ハンニバルは戦力差をものともせず、ローマ軍をほぼ全滅に追い込んだ。
ローマ軍は、2人の執政官、80人の元老院議員をはじめとする6万人の死傷者をだした一方、カルタゴ軍の損害は6000人の死傷者のみ。しかもほとんどがガリア兵であった。
31歳の若者がどうやってこの戦力差を埋め、ローマ軍を壊滅に追い込んだのか——
わたしは両軍がにらみ合っている、カンナエの平原を丘陵の上から一望しながら、すこしワクワクしていた。
だけど、ここ数日小競り合いはあったけど、毎回、ハンニバル軍のほうが押されているように思えた。
「お父様、ここのところの戦い、どう見てもカルタゴ軍が負けてるような気がします」
「まだ会戦になったわけではない」
「でもこのあいだの戦いじゃあ、2000人近くが戦死したわ。ローマ軍は100人ほどしか犠牲がでなかったというのに」
わたしは父に訴えかけながら、隣でくつろいでいるローガンとビジェイのほうに目をはしらせた。ふたりとも一応、わたしのことばに反応はしていたけど、興味はなさそうな顔つきだった。
「じつにあざとい勝負師だよ、ハンニバルは」
父が言った。
「どういうこと?」
「熟練のギャンブラーというのは、カモと見切った素人に対して、どうすると思う?」
「わたしだったら、最初から一気に仕掛けて、打ち負かしてやるわ」
父はにんまりと笑って、わたしを見た。
「それではダメなのだよ、エヴァ。それでは相手はすぐに逃げてしまう」
「じゃあ、どうするの?」
「はじめのうちは相手に勝たせるのさ。そして相手に、自分に運がむいていて、主導権を握っていると思わせるのだよ」
「じゃあ、今、苦戦しているのって……」
「ローマ軍の慢心を誘ってる」
「エヴァちゃん、心配ご無用さ。歴史通りにことが進めば、カルタゴ軍は圧勝する」
ビジェイがじつに退屈そうに言ってきた。
「それよか、ぼくらは、歴史通りにならなかった場合に備えておいてほうがいい」
「そうね。でもあなたたちが備えているようには見えないけど」
「嬢ちゃん。それぞれの集中力の高め方ってぇのがあんのさ」
ローガンがわざとらしく、シャドーボクシングのような仕草をして言った。
「それともこんな感じでウォーミングアップしてりゃあ、ご納得かな?」
「そうじゃないけど……」
そのとき、平原のほうで鬨の声が巻き起こった。
「さあ、はじまったぜ。歴史上、戦史研究じゃあ、欠くことが許されないほど重要な戦闘。カンナエの戦いがな」
アドリア海に面したカンナエの平原は、周囲を丘陵に囲まれこの地方では比較的狭い一帯だった。
そこにローマ軍8万7000 対 カルタゴ軍5万が対峙した——
ローマ兵4万2000に同盟国兵45000の精鋭にたいして、カルタゴ兵は2万6000。残りの2万4000はガリア傭兵という寄せ集めだった。
だがこの戦いで、ハンニバルは戦力差をものともせず、ローマ軍をほぼ全滅に追い込んだ。
ローマ軍は、2人の執政官、80人の元老院議員をはじめとする6万人の死傷者をだした一方、カルタゴ軍の損害は6000人の死傷者のみ。しかもほとんどがガリア兵であった。
31歳の若者がどうやってこの戦力差を埋め、ローマ軍を壊滅に追い込んだのか——
わたしは両軍がにらみ合っている、カンナエの平原を丘陵の上から一望しながら、すこしワクワクしていた。
だけど、ここ数日小競り合いはあったけど、毎回、ハンニバル軍のほうが押されているように思えた。
「お父様、ここのところの戦い、どう見てもカルタゴ軍が負けてるような気がします」
「まだ会戦になったわけではない」
「でもこのあいだの戦いじゃあ、2000人近くが戦死したわ。ローマ軍は100人ほどしか犠牲がでなかったというのに」
わたしは父に訴えかけながら、隣でくつろいでいるローガンとビジェイのほうに目をはしらせた。ふたりとも一応、わたしのことばに反応はしていたけど、興味はなさそうな顔つきだった。
「じつにあざとい勝負師だよ、ハンニバルは」
父が言った。
「どういうこと?」
「熟練のギャンブラーというのは、カモと見切った素人に対して、どうすると思う?」
「わたしだったら、最初から一気に仕掛けて、打ち負かしてやるわ」
父はにんまりと笑って、わたしを見た。
「それではダメなのだよ、エヴァ。それでは相手はすぐに逃げてしまう」
「じゃあ、どうするの?」
「はじめのうちは相手に勝たせるのさ。そして相手に、自分に運がむいていて、主導権を握っていると思わせるのだよ」
「じゃあ、今、苦戦しているのって……」
「ローマ軍の慢心を誘ってる」
「エヴァちゃん、心配ご無用さ。歴史通りにことが進めば、カルタゴ軍は圧勝する」
ビジェイがじつに退屈そうに言ってきた。
「それよか、ぼくらは、歴史通りにならなかった場合に備えておいてほうがいい」
「そうね。でもあなたたちが備えているようには見えないけど」
「嬢ちゃん。それぞれの集中力の高め方ってぇのがあんのさ」
ローガンがわざとらしく、シャドーボクシングのような仕草をして言った。
「それともこんな感じでウォーミングアップしてりゃあ、ご納得かな?」
「そうじゃないけど……」
そのとき、平原のほうで鬨の声が巻き起こった。
「さあ、はじまったぜ。歴史上、戦史研究じゃあ、欠くことが許されないほど重要な戦闘。カンナエの戦いがな」
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