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ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第17話 トラシメヌス湖畔の悲劇
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トラシメヌス湖畔の戦い——
ビジェイが言うには、トラシメヌス湖畔の悲劇、とも呼ばれているらしい。
紀元前217年6月21日早朝
南下するカルタゴ軍を追う、執政官フラミニウス率いるローマ軍、2万5000の二個軍団は、トラシメヌス湖畔に差し掛かった。
フラミニウスはもうひとりの執政官セルヴィリウスと、トラシメヌス湖の先のペルージャで合流し、5万の兵で挟み撃ちにする作戦だった。
だが、ハンニバルは斥候からこの湖には濃い朝霧がかかるという情報を得て、湖畔で戦いをしかける作戦にでた。その霧は10メートルの視界もないほど濃く、しかも地表にいすわってなかなか晴れないという特性をもっていた。
夕刻前に到着したハンニバルは、湖畔の丘陵のふもとの林のなかに兵を潜ませ、野営させた。兵には火をたくことも、声を立てることも禁止した。
夜にはいってから湖畔に到着したローマ軍は、その手前で野営し、早朝に陣をたたんで進軍した。
各隊の先頭をすすむ隊標がようやく判別できる濃霧のなか、トラシメヌス湖に沿うように伸びている狭く細い湖畔をローマ軍が全速で行軍する。
2万5000の兵が 細長い湖畔地帯にはいりきると、入り口付近に伏兵していた騎兵が退路をふさいだ。そして、湖畔の東端で待ち伏せていたリビアとスペインの軽装歩兵団が、行軍の先頭をきっていた前衛に襲撃をかけた。
長く伸びたローマ兵はその時点でも先頭でなにが起きたかわからずにいた。
そこへ丘陵のふもとの林のなかに隠れていたガリア兵や軽装歩兵が襲いかかってきた。
後世の戦史家たちは、このトラシメヌス湖畔でのできごとを、戦闘とは認めないという。
それは一方的な殺戮だったからだ。
5万のハンニバル軍に奇襲を受けたローマ軍は、三方の退路を絶たれ、なすすべもなく殺された。湖にとびこんで逃げようとしたローマ兵は、カルタゴ騎兵の槍で殲滅された。
戦闘は3時間で決着し、執政官フラミニウスを含め15000名以上が戦死し、それ以外は捕虜となった。ローマまで逃げ切れたのはわずか2000名だけだった。
霧が晴れたトラシメヌス湖は赤く染まり、湖畔にはカルタゴ兵ですら目をそらすほどの惨状がひろがっていたという。
わたしたちは一瞬ののちに月日を飛び越えて、そのトラシメヌス湖畔に立っていた。
ビジェイが言うには、トラシメヌス湖畔の悲劇、とも呼ばれているらしい。
紀元前217年6月21日早朝
南下するカルタゴ軍を追う、執政官フラミニウス率いるローマ軍、2万5000の二個軍団は、トラシメヌス湖畔に差し掛かった。
フラミニウスはもうひとりの執政官セルヴィリウスと、トラシメヌス湖の先のペルージャで合流し、5万の兵で挟み撃ちにする作戦だった。
だが、ハンニバルは斥候からこの湖には濃い朝霧がかかるという情報を得て、湖畔で戦いをしかける作戦にでた。その霧は10メートルの視界もないほど濃く、しかも地表にいすわってなかなか晴れないという特性をもっていた。
夕刻前に到着したハンニバルは、湖畔の丘陵のふもとの林のなかに兵を潜ませ、野営させた。兵には火をたくことも、声を立てることも禁止した。
夜にはいってから湖畔に到着したローマ軍は、その手前で野営し、早朝に陣をたたんで進軍した。
各隊の先頭をすすむ隊標がようやく判別できる濃霧のなか、トラシメヌス湖に沿うように伸びている狭く細い湖畔をローマ軍が全速で行軍する。
2万5000の兵が 細長い湖畔地帯にはいりきると、入り口付近に伏兵していた騎兵が退路をふさいだ。そして、湖畔の東端で待ち伏せていたリビアとスペインの軽装歩兵団が、行軍の先頭をきっていた前衛に襲撃をかけた。
長く伸びたローマ兵はその時点でも先頭でなにが起きたかわからずにいた。
そこへ丘陵のふもとの林のなかに隠れていたガリア兵や軽装歩兵が襲いかかってきた。
後世の戦史家たちは、このトラシメヌス湖畔でのできごとを、戦闘とは認めないという。
それは一方的な殺戮だったからだ。
5万のハンニバル軍に奇襲を受けたローマ軍は、三方の退路を絶たれ、なすすべもなく殺された。湖にとびこんで逃げようとしたローマ兵は、カルタゴ騎兵の槍で殲滅された。
戦闘は3時間で決着し、執政官フラミニウスを含め15000名以上が戦死し、それ以外は捕虜となった。ローマまで逃げ切れたのはわずか2000名だけだった。
霧が晴れたトラシメヌス湖は赤く染まり、湖畔にはカルタゴ兵ですら目をそらすほどの惨状がひろがっていたという。
わたしたちは一瞬ののちに月日を飛び越えて、そのトラシメヌス湖畔に立っていた。
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