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ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第15話 トレビアの戦い
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次の戦いはトレビアの戦いだった。
負傷した執政官スキピオ父は、もうひとりの執政官と合流して、軍を立て直した。
ビジェイの指摘通り、そのあいだにハンニバルは現地部族を懐柔し、自軍の増強に努めた。4万近くまで増兵したカルタゴ軍は南下し、トレビア川を挟んでローマ軍の野営地と対峙した。
「すごい数ね」
小高い丘からトレビア河の対岸に居並ぶローマ軍を、見おろしたわたしは、また子供っぽい感想を口にした。
「数はこちらもおなじくらいだ」
ハンニバルは余裕の口ぶりだった。
まぁ、当然の話よね。
だって未来人から、この戦い、勝利するって告げられてるんだから。
「カルタゴ軍もローマ軍も4万でほぼ同数だ」
ビジェイがしたり顔で言った。
「だけど騎兵の数がちがう。カルタゴ1万騎にたいして、ローマ軍は4000騎しかない」
「その数の差が勝負を決めるの?」
「いや…… それもあるけど……」
ビジェイは言いにくそうに口ごもると、父のほうに目配せした。父はいつものように押し黙ったまま、目で合図した。
「雌雄を決したのは、ハンニバル将軍の嫌がらせのせいなんだ」
「嫌がらせ?」
わたしより先に声をあげたのは、肩車をしてくれているローガンだった。
「嫌がらせってなんなの?」
「嫌がらせとは、ちと失礼だが……、まぁそれは褒め言葉と受けとめよう」
ハンニバルが苦笑いしながら言ったが、その周りにいる弟のハストルバルは、気分をわるくしているようだった。前みたいに剣を引き抜きはしなかったが、いつでも抜けるように剣の柄に手をかけている。
だが、もうひとりの弟マゴがいないのに気づいた。
「あれ、マゴさんは?」
ハンニバルはにやりと笑っただけだった。
そしてその朝、わたしはハンニバルの戦いを見せつけられることになった。
少数のヌミディア騎兵が対岸へ渡り、ローマ軍の野営地を急襲した。投石で挑発し、ローマ兵を罵倒して回った。が、ローマ騎兵が迎撃に向かうと、カルタゴ騎兵はすぐに退却を開始した。
執政官のティベリウス=ロングスは、一挙に決戦を挑むべく全軍に野営地からの出撃を命令した。
もしかしたら、ヌミディア騎兵怖れるに足らず、と思ったのかもしれない。
でも、朝食を食べておらず、冷たいトレビア川を渡ったローマ軍は、すでにかなり疲弊しており、その時点でかなり不利な状況だった。
「なぜ、ローマの司令官は挑発にのっちゃったの?」
「執政官のティベリウス=ロングスは平民の出だからな」
ハンニバルはたったひと言、そう言った。
そのあとの戦いは見ていられなかった。
負傷した執政官スキピオ父は、もうひとりの執政官と合流して、軍を立て直した。
ビジェイの指摘通り、そのあいだにハンニバルは現地部族を懐柔し、自軍の増強に努めた。4万近くまで増兵したカルタゴ軍は南下し、トレビア川を挟んでローマ軍の野営地と対峙した。
「すごい数ね」
小高い丘からトレビア河の対岸に居並ぶローマ軍を、見おろしたわたしは、また子供っぽい感想を口にした。
「数はこちらもおなじくらいだ」
ハンニバルは余裕の口ぶりだった。
まぁ、当然の話よね。
だって未来人から、この戦い、勝利するって告げられてるんだから。
「カルタゴ軍もローマ軍も4万でほぼ同数だ」
ビジェイがしたり顔で言った。
「だけど騎兵の数がちがう。カルタゴ1万騎にたいして、ローマ軍は4000騎しかない」
「その数の差が勝負を決めるの?」
「いや…… それもあるけど……」
ビジェイは言いにくそうに口ごもると、父のほうに目配せした。父はいつものように押し黙ったまま、目で合図した。
「雌雄を決したのは、ハンニバル将軍の嫌がらせのせいなんだ」
「嫌がらせ?」
わたしより先に声をあげたのは、肩車をしてくれているローガンだった。
「嫌がらせってなんなの?」
「嫌がらせとは、ちと失礼だが……、まぁそれは褒め言葉と受けとめよう」
ハンニバルが苦笑いしながら言ったが、その周りにいる弟のハストルバルは、気分をわるくしているようだった。前みたいに剣を引き抜きはしなかったが、いつでも抜けるように剣の柄に手をかけている。
だが、もうひとりの弟マゴがいないのに気づいた。
「あれ、マゴさんは?」
ハンニバルはにやりと笑っただけだった。
そしてその朝、わたしはハンニバルの戦いを見せつけられることになった。
少数のヌミディア騎兵が対岸へ渡り、ローマ軍の野営地を急襲した。投石で挑発し、ローマ兵を罵倒して回った。が、ローマ騎兵が迎撃に向かうと、カルタゴ騎兵はすぐに退却を開始した。
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もしかしたら、ヌミディア騎兵怖れるに足らず、と思ったのかもしれない。
でも、朝食を食べておらず、冷たいトレビア川を渡ったローマ軍は、すでにかなり疲弊しており、その時点でかなり不利な状況だった。
「なぜ、ローマの司令官は挑発にのっちゃったの?」
「執政官のティベリウス=ロングスは平民の出だからな」
ハンニバルはたったひと言、そう言った。
そのあとの戦いは見ていられなかった。
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