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ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第11話 ハンニバルのふたりの弟
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わたしたちのやるべきことが決まったところで、父はハンニバルの幕舎へむかった。
「安心しました。わたしたちの任務は、あなたを討つことではなかった」
そう言ったとたん、ハンニバルの脇を固めていたふたりの兵が、剣をひきぬいて身構えた。彼らはハンニバルの弟のハストルバルとマゴ。
だがハンニバルはふたりを手で制して、父の話の続きを促した。
「わたしたちの任務は、リスクスと言うガリア人をローマまで無事に連れて行くことです」
「リスクス? ああ、行軍の途中で我々を加勢したいと加わってくれたガリア人か」
「彼の望みはローマの敗北を自分の目で見ること。それを果たせなかったことが、心残りだったのです」
「なにを言う。兄者がローマに負けるというのか」
次男のハストルバルが剣に手を伸ばそうとした。
「いえ。ハンニバル・バルカはこの戦い、勝ちます。歴史に残るほどの圧勝で」
柄に伸びかかった手がとまる。
「圧勝?」
「はい。これからの戦いは連戦、連勝で、ローマ軍を粉砕するのです」
ハンニバルは満足そうに笑った。
「ほう、未来人。それは本当かね」
「はい、わたしたちは歴史の授業で、それを学びます」
父がそう説明すると、ビジェイが手を挙げて補足した。
「それと、あなたのあみだした戦術は、2200年のちの未来にも残り続けます。それどころか、各国の軍隊組織や士官学校でも参考にされているほどです」
ハンニバルの顔に浮かんでいた笑みがふっと消えた。
「では、そなたたちが守らねばならないリスクス、というガリア人は、その戦い、もしくはその前に命を落とす、ということだな」
わたしは目をおおきく見開いた。
ハンニバルがたったこれだけの話で、ことの本質を見抜いたことに驚いた。
未来側から見ているわたしたちには、すぐにその結論に行き着くことができるが、今、この時代に生きている人間は、簡単には飲みこめないはずだと思う。
「あ、え、はい」
父もすくなかず、驚いたようだった。
「ですから、わたしたちが彼の命を守るために専念することへの許可を、将軍に戴きたいと思いまして」
「彼に戦わせないつもりかね」
「はい。場合によっては」
ハンニバルが苦笑いを浮かべた。
「彼はガリア民族だ。戦わないでいることなど、できやしない」
「では将軍は、どうすればよいと?」
ハンニバルは肩をすくめた。
「さあ。それはそなたらの仕事だ。それよりも食事をどうだね」
ハンニバルが目で合図をすると、ひとりの男が粗末な盆に、なにやら白い塊を載せてもってきた。
「なんなの、これ?」
わたしはひと目見るなり、不満そのものを口にしていた。
「パンだ。これが我らの兵糧だよ」
「安心しました。わたしたちの任務は、あなたを討つことではなかった」
そう言ったとたん、ハンニバルの脇を固めていたふたりの兵が、剣をひきぬいて身構えた。彼らはハンニバルの弟のハストルバルとマゴ。
だがハンニバルはふたりを手で制して、父の話の続きを促した。
「わたしたちの任務は、リスクスと言うガリア人をローマまで無事に連れて行くことです」
「リスクス? ああ、行軍の途中で我々を加勢したいと加わってくれたガリア人か」
「彼の望みはローマの敗北を自分の目で見ること。それを果たせなかったことが、心残りだったのです」
「なにを言う。兄者がローマに負けるというのか」
次男のハストルバルが剣に手を伸ばそうとした。
「いえ。ハンニバル・バルカはこの戦い、勝ちます。歴史に残るほどの圧勝で」
柄に伸びかかった手がとまる。
「圧勝?」
「はい。これからの戦いは連戦、連勝で、ローマ軍を粉砕するのです」
ハンニバルは満足そうに笑った。
「ほう、未来人。それは本当かね」
「はい、わたしたちは歴史の授業で、それを学びます」
父がそう説明すると、ビジェイが手を挙げて補足した。
「それと、あなたのあみだした戦術は、2200年のちの未来にも残り続けます。それどころか、各国の軍隊組織や士官学校でも参考にされているほどです」
ハンニバルの顔に浮かんでいた笑みがふっと消えた。
「では、そなたたちが守らねばならないリスクス、というガリア人は、その戦い、もしくはその前に命を落とす、ということだな」
わたしは目をおおきく見開いた。
ハンニバルがたったこれだけの話で、ことの本質を見抜いたことに驚いた。
未来側から見ているわたしたちには、すぐにその結論に行き着くことができるが、今、この時代に生きている人間は、簡単には飲みこめないはずだと思う。
「あ、え、はい」
父もすくなかず、驚いたようだった。
「ですから、わたしたちが彼の命を守るために専念することへの許可を、将軍に戴きたいと思いまして」
「彼に戦わせないつもりかね」
「はい。場合によっては」
ハンニバルが苦笑いを浮かべた。
「彼はガリア民族だ。戦わないでいることなど、できやしない」
「では将軍は、どうすればよいと?」
ハンニバルは肩をすくめた。
「さあ。それはそなたらの仕事だ。それよりも食事をどうだね」
ハンニバルが目で合図をすると、ひとりの男が粗末な盆に、なにやら白い塊を載せてもってきた。
「なんなの、これ?」
わたしはひと目見るなり、不満そのものを口にしていた。
「パンだ。これが我らの兵糧だよ」
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