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ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第9話 要引き揚げ者発見
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父はたき火の周りでくつろいでいる兵士たちのあいだを縫うようにして、ゆっくりと進んだ。中心部からどんどん離れていき、平原のいちばん外周付近まできた。
そこはハンニバルのちかくにいる兵士と、あきらかにちがった種族だった。
ハンニバル軍の兵士たちのほとんどは、頬までおおわれた鉄製か銅製の兜をかぶっており、胸部は厚い革製のチョッキのようなもので守られていた。堅牢そうすね当てや、全身を隠すほど長いマントを羽織ってはいたが、意外にもそれ以外は過剰な装飾が目に付くものの、鎧や装甲を意識させるものはない。
戦闘の際は、背中に背負った円形の盾で防御するため、できるだけ身軽に動けるようにということなのだろう。
だが、そこにいた者たちは、動物の革でできた外套を着ていたし、防具らしきものも身につけていたが、おのおのバラバラで、どちらかというと寒さをしのぐことが目的であるようだった。
「ガリア人だよ」
ビジェイが言った。
「ガリア人? 彼らはカルタゴの敵じゃないの?」
「いや、ハンニバルはローマとの戦いのため、できるかぎりガリア人とは戦わないよう、彼らのテリトリをさけたり、貢ぎ物を送ったりしてここまできているんだ。まぁ、全部うまくいったわけじゃないけどね」
「ビジェイ。なぜ彼らがカルタゴ軍と一緒にいる」
ローガンはこちらをうさんげに見るガリア兵たちから、できるだけ目をそらしながら言った。
「敵の敵は味方さ。ローマと揉めているのは、カルタゴだけじゃない」
そのとき、父の歩みがとまった。
目の前にひとりの男が座っていた。
「なんの用だ?」
まるで恐喝でもするような、威嚇にみちた声色だった。
こわい——
わたしはハンニバルのときには感じなかった、大人に対する恐怖を感じた。
「突然、申し訳ない。わたしたちは未来から、あなたを探しにきたものです」
「俺っちを探しに? 未来から?」
男はまわりの仲間に、笑いかけた。残虐そうな薄ら笑い。
「殺されてぇか!」
男が声をあらげ、跳ね起きようとした。
だけど、父はそれを予期していたかのように、彼の頭を上から押さえつけた。
「ジョン・ケイン議員!!」
父が強い口調で呼びかけた。
と、男の頭の上の空気がゆらいだかと思うと、ふわりとひとの顔が現われた。
「ジョン・ケイン議員……」
今度は囁くような声で呼ぶと、そこに現われた顔がゆっくりと顔をあげた。
「ここ……は……?」
「紀元前218年。アルプス山中です」
「紀元前? アルプス? どうしてわたしはそんなところに?」
そこはハンニバルのちかくにいる兵士と、あきらかにちがった種族だった。
ハンニバル軍の兵士たちのほとんどは、頬までおおわれた鉄製か銅製の兜をかぶっており、胸部は厚い革製のチョッキのようなもので守られていた。堅牢そうすね当てや、全身を隠すほど長いマントを羽織ってはいたが、意外にもそれ以外は過剰な装飾が目に付くものの、鎧や装甲を意識させるものはない。
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だが、そこにいた者たちは、動物の革でできた外套を着ていたし、防具らしきものも身につけていたが、おのおのバラバラで、どちらかというと寒さをしのぐことが目的であるようだった。
「ガリア人だよ」
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こわい——
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「突然、申し訳ない。わたしたちは未来から、あなたを探しにきたものです」
「俺っちを探しに? 未来から?」
男はまわりの仲間に、笑いかけた。残虐そうな薄ら笑い。
「殺されてぇか!」
男が声をあらげ、跳ね起きようとした。
だけど、父はそれを予期していたかのように、彼の頭を上から押さえつけた。
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と、男の頭の上の空気がゆらいだかと思うと、ふわりとひとの顔が現われた。
「ジョン・ケイン議員……」
今度は囁くような声で呼ぶと、そこに現われた顔がゆっくりと顔をあげた。
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