ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

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ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜

第8話 ハンニバル、生涯の誓い

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 ローヌ河岸に着いて5日目。
 ついに五万の兵士と馬と荷車と象のローヌ河を渡る大事業が開始された。
 
 まず河の上流と下流、中州に棚が築かれた。これで水の流れをゆるやかにした。さらに両岸の樹木に固定されたローブも何本も渡された。これを伝いながらいくことで、流れに負けずに渡河できるうえ、万が一流されても捉まることができた。

 渡河は小隊ごとに何十回にも分けて実行された。
 ガリア人の妨害もなく渡河はスムーズに行われ、一日のうちに渡河は終了したが、おおくの犠牲者もでた。
 恐怖におびえた人や象が、流れに足をとられたり、いかだの操縦を誤ったりして、棚を押し流して、次々と川下に消えていった。

 このローヌ渡河ののちにハンニバルの手もとに残ったのは、歩兵騎兵あわせて4万6000であったという。
 ピレネー山脈を越えた時点で5万9000あった軍勢が、ガリアに入ってからとこのローヌ渡河で、1万3000は失ったことになる。



「これってそんなにひとが死んでもやるべきことなの?」
 わたしは話を聞き終えるなり、ハンニバルに言った。

「父ハミルカルの遺志なのだ。とめられんのだよ。ローマを滅ぼすのは、わたしの使命なのだ」
 ハンニバルはおおきな声で言った。まわりにいる兵士に聞こえるようにということなのだろう。

「だが、イタリアの外で戦争したのではローマに勝てないのだ。南の海側からイタリア半島に攻めこみたくても、南側にはローマの属州シチリアがある。先の戦い(第一次ポエニ戦役)で我がカルタゴは敗戦し、カルタゴとシチリアの間の制海権はローマ海軍がにぎったままだ。
 では東からならどうだ。ヒスパニアから攻めるのは。これは駄目だ。遠すぎる。それに途中ローマ連合の同盟国の前の海を通らねばならない。
 ならば西、西地中海を横断する手は? これも成功の可能性は薄い。サルディーニャとコルシカはローマの属州で、わずかとはいえローマの陸海軍が常駐している。数百隻もの大軍輸送をローマ軍の妨害なしに実現できるとは思えない」

 ふと気づくと、自分たちは野営地の中心部にいて、兵士たちがみなこちらに目をむけているのがわかった。
 疲れ果てていたはずの兵士たちは、みなギラギラとした目をハンニバルへむけている。

「先の戦いで、我が父ハミルカルはシチリアの覇権を賭けてローマ軍と戦い勝利し、シチリア島全土の支配を獲得した。だが政敵の大ハンノにより海軍を縮小され、その隙をつかれてアエガテス諸島沖の海戦でローマに敗退させられたのだ。本来ならば地中海の制海権は、わがカルタゴのものであったのにだ」

「しかも大ハンノはローマと戦った傭兵へたちへの報酬を反故にし、『傭兵の乱』を勃発させてしまい、その鎮圧をハミルカルに要請する始末だ。ハミルカルは乱を鎮圧すると、カルタゴの経済を支えるために、ヒスパニア(イベリア半島の旧名 現スペイン)を植民地とした……」

「だが、父ハミルカルの祖国への貢献はここまでだった。父はエルケーの攻囲から引き揚げる途中戦死した。ローマへの報復の思いをずっと抱いたまま。だからわたしは父の遺志をついで、それをなしとげなければならんのだ」

「ほんとうに亡きお父上は、そんなこと望んでいるのかしら?」

「エヴァ。わたしはそなたと変わらぬ年ぐらいのとき、父にバアルの神殿に連れて行かれ、一生ローマを敵とする事を誓わせられた。まだ少年だったがわたしには、父の無念が痛いほどよくわかった。それからわたしは……いや、わたしたちハミルカル・バルカの息子たちは父の悲願のために生きてきた」


「そして、今がそのときなのだ!」
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