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ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第7話 過酷なローヌ川の渡河
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いたるところで、歓声があがった。
限界ぎりぎりの状態で、峠の頂にあがってきたところに、暖かなたき火が燃されているのだ。しかも平地のいたるところにあるのだから当然だ。
彼らは夢かと我が目を疑うことなく、歓喜の声をあげてたき火のほうへ走っていった。だが、ハンニバルの護衛をつとめていた上長はそれを制し、部隊ごとにてぎわよく場所をわりあてていく。
芯まで冷え切ったからだが暖まるにつれ、兵士たちの顔に生気と笑顔が戻ってきた。
ハンニバルは兵士たちのあいだを歩いていき、ねぎらいの声をかけていた。
広場をひととおりまわってきたところで、ハンニバルはこちらにやってきた。
「ローガン、感謝する。みな限界に近かったからな。おかげで生き返ったよ」
「あっしは火を操る力をもってるんでね。こんなのは序の口だよ」
「そうか、頼もしいな。ここまでもたき火は燃やしたが、暖を取るまではいたらずおおくの兵をうしなった。山岳民やガリア人の襲撃を受けたりしてね。まぁ山腹の途中で力尽きたり、滑落したりしてうしなった数もおおかったがな」
「それよりもローヌ川の渡河でうしなった数のほうが多かったのでは?」
「ほう。それを知っているのかね、ビジェイ」
「未来人ですから」
「うむ、さすがによく存じておるな。苦労してピレネーを越えてきた5万9000の兵であったのに、ローヌ川の渡河で4万6000まで減ってしまったからな」
わたしはハンニバルから、そのときの様子を教えてもらった。
アルプスに源を発し、リヨンを通ってマルセイユの近くで地中海にそそぎこむローヌ河は、ハンニバルが渡河をおこなった九月は水量が増える時期にあたった。
ハンニバルは5万もの大軍で、この大河の渡河をおこなった。
そのうち騎兵が8千おり、加えて象が37頭を数えた。
この渡河には対岸の東に住むガリア人の襲撃を受ける危険があった。実際にハンニバル軍がいかだ作りをはじめると、対岸からはカルタゴ軍阻止のためガリア人たちが威嚇をくりかえしてきた。
ハンニバルは部下の一人に騎兵隊を率いさせて、四十キロ上流からひそかに渡河させた。そのあいだに残りの全軍はいかだ作りに専念し、部下の合図を待った。
やがて渡河に成功した部下からの狼煙があがると、ハンニバルは部下たちをいかだに乗せて渡河を開始する。対岸から待ち構えていたガリア人たちは、第一陣が着岸するやいなや、背後から現われた部下たちの軍に襲われ、挟撃される形になった。
さらにあちこちから火の手があがると、ガリア人たちは逃げまどうように姿を消した。陣営を占拠されたうえに、部落を焼き打ちされて、それどころではなくなったからである。
限界ぎりぎりの状態で、峠の頂にあがってきたところに、暖かなたき火が燃されているのだ。しかも平地のいたるところにあるのだから当然だ。
彼らは夢かと我が目を疑うことなく、歓喜の声をあげてたき火のほうへ走っていった。だが、ハンニバルの護衛をつとめていた上長はそれを制し、部隊ごとにてぎわよく場所をわりあてていく。
芯まで冷え切ったからだが暖まるにつれ、兵士たちの顔に生気と笑顔が戻ってきた。
ハンニバルは兵士たちのあいだを歩いていき、ねぎらいの声をかけていた。
広場をひととおりまわってきたところで、ハンニバルはこちらにやってきた。
「ローガン、感謝する。みな限界に近かったからな。おかげで生き返ったよ」
「あっしは火を操る力をもってるんでね。こんなのは序の口だよ」
「そうか、頼もしいな。ここまでもたき火は燃やしたが、暖を取るまではいたらずおおくの兵をうしなった。山岳民やガリア人の襲撃を受けたりしてね。まぁ山腹の途中で力尽きたり、滑落したりしてうしなった数もおおかったがな」
「それよりもローヌ川の渡河でうしなった数のほうが多かったのでは?」
「ほう。それを知っているのかね、ビジェイ」
「未来人ですから」
「うむ、さすがによく存じておるな。苦労してピレネーを越えてきた5万9000の兵であったのに、ローヌ川の渡河で4万6000まで減ってしまったからな」
わたしはハンニバルから、そのときの様子を教えてもらった。
アルプスに源を発し、リヨンを通ってマルセイユの近くで地中海にそそぎこむローヌ河は、ハンニバルが渡河をおこなった九月は水量が増える時期にあたった。
ハンニバルは5万もの大軍で、この大河の渡河をおこなった。
そのうち騎兵が8千おり、加えて象が37頭を数えた。
この渡河には対岸の東に住むガリア人の襲撃を受ける危険があった。実際にハンニバル軍がいかだ作りをはじめると、対岸からはカルタゴ軍阻止のためガリア人たちが威嚇をくりかえしてきた。
ハンニバルは部下の一人に騎兵隊を率いさせて、四十キロ上流からひそかに渡河させた。そのあいだに残りの全軍はいかだ作りに専念し、部下の合図を待った。
やがて渡河に成功した部下からの狼煙があがると、ハンニバルは部下たちをいかだに乗せて渡河を開始する。対岸から待ち構えていたガリア人たちは、第一陣が着岸するやいなや、背後から現われた部下たちの軍に襲われ、挟撃される形になった。
さらにあちこちから火の手があがると、ガリア人たちは逃げまどうように姿を消した。陣営を占拠されたうえに、部落を焼き打ちされて、それどころではなくなったからである。
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