770 / 935
ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第2話 雪山のなかを象の群れが行軍していた
しおりを挟む
父、アダム・ガードナー
母が亡くなるのを、まるで待ち構えたかのように、わたしの元にやってきた。母方の祖母に引き取られる話も持ち上がったが、父が姿を現わすと、まるでほかの選択肢はそもそもなかったのように、あっという間に立ち消えた。
わたしはなにか裏で話があったのだと、すぐに勘づいた。
おそらく、大金をちらつかせたのだろう。
腹立たしさがこみあげてきて、もうひとこと、ふたこと、やり込めてやりたくなったけど、ビジェイの叫び声に機先を削がれてしまった。
「あ、あれ!」
ビジェイは眼下を指さしていた。
そこに信じられない光景がひろがっていた。
雪山の中を、象の群れが登ってきていた。
三十頭はいるだろうか? その周囲には象使いとおぼしき人員と兵士たちが取り囲むように連れ添っていた。
そして、その象の群れを先頭にして、ものすごい数の兵士たちがうしろにつらなっていた。その数はどれくらいいるかは想像すらできなかった。あまりにも長い列となっていて、最後尾がどこにあるのかさえわからなかったからだ。
「すごい!」
わたしはそんな陳腐な感想しか言えなかった。
「ここがいつの時代かかわかりましたよ」
ビジェイが父にむかって言った。
「紀元前218年9月 場所はアルプスです」
「アルプス? ここはアルプス山脈だというのか?」
「はい。ガードナーさん。おそらくここは標高2千メートル超えのピッコロ・サンベルナルド峠ちかく、そしてそれを率いているのは……」
「ハンニバル・バルカ」
「ハンニバル・バルカ! あのローマ史上最大の敵と呼ばれた……」
そこまで言ったところで、父はことばをうしなった。
わたしはハンニバル、という名前だけは知っていたけど、具体的にどんな人物かわからなかったので、父に尋ねた。
「そのひと、そんなにすごい人なの?」
「やれやれ、お嬢ちゃん。ハンニバルを知らねぇのかい」
ローガンが鼻で笑ってきたので、わたしはもう一度上をむいて彼を睨みつけた。
「あらあら。いまが紀元前だって言うこともわからなかった人に、えらそうにされたとき、アメリカではどういう態度をとるのが正解なのかしら?」
ローガンがギロリとした目をむけてきた。
「わたし、日本人だから、どうディスればいいのか、よくわからなくて……」
母が亡くなるのを、まるで待ち構えたかのように、わたしの元にやってきた。母方の祖母に引き取られる話も持ち上がったが、父が姿を現わすと、まるでほかの選択肢はそもそもなかったのように、あっという間に立ち消えた。
わたしはなにか裏で話があったのだと、すぐに勘づいた。
おそらく、大金をちらつかせたのだろう。
腹立たしさがこみあげてきて、もうひとこと、ふたこと、やり込めてやりたくなったけど、ビジェイの叫び声に機先を削がれてしまった。
「あ、あれ!」
ビジェイは眼下を指さしていた。
そこに信じられない光景がひろがっていた。
雪山の中を、象の群れが登ってきていた。
三十頭はいるだろうか? その周囲には象使いとおぼしき人員と兵士たちが取り囲むように連れ添っていた。
そして、その象の群れを先頭にして、ものすごい数の兵士たちがうしろにつらなっていた。その数はどれくらいいるかは想像すらできなかった。あまりにも長い列となっていて、最後尾がどこにあるのかさえわからなかったからだ。
「すごい!」
わたしはそんな陳腐な感想しか言えなかった。
「ここがいつの時代かかわかりましたよ」
ビジェイが父にむかって言った。
「紀元前218年9月 場所はアルプスです」
「アルプス? ここはアルプス山脈だというのか?」
「はい。ガードナーさん。おそらくここは標高2千メートル超えのピッコロ・サンベルナルド峠ちかく、そしてそれを率いているのは……」
「ハンニバル・バルカ」
「ハンニバル・バルカ! あのローマ史上最大の敵と呼ばれた……」
そこまで言ったところで、父はことばをうしなった。
わたしはハンニバル、という名前だけは知っていたけど、具体的にどんな人物かわからなかったので、父に尋ねた。
「そのひと、そんなにすごい人なの?」
「やれやれ、お嬢ちゃん。ハンニバルを知らねぇのかい」
ローガンが鼻で笑ってきたので、わたしはもう一度上をむいて彼を睨みつけた。
「あらあら。いまが紀元前だって言うこともわからなかった人に、えらそうにされたとき、アメリカではどういう態度をとるのが正解なのかしら?」
ローガンがギロリとした目をむけてきた。
「わたし、日本人だから、どうディスればいいのか、よくわからなくて……」
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる