ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

文字の大きさ
上 下
769 / 935
ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜

第1話 わたしはエヴァ・ガードナーになった

しおりを挟む
 これは、エヴァ・ガードナーの物語——
 12歳のとき母を亡くし、父に引き取られたときの話

「マインド・ダイバー / エヴァ・アーリーイヤー」

 ------------------------------------------------------------


  あなたをお金の道具にしたいわけじゃないの——

 母はことあるごとに、わたしにそう言ってきかせた。
 みすぼらしいアパートで、賞味期限切れの弁当や総菜を口にしながら、お金の話になると、きまってその話になった。

 そのくせ、ふだんからはお金には苦労していた。子供心ながらに、どうして自分の家だけはこんなに貧乏なのだろう、と思うほど、貧困に追い立てられまくっていた。

 だけど、わたしが12歳になったある日、母が突然死んだ。
 『心筋梗塞』が原因だったらしい。
 ストレスが原因、だろう、とお医者さんは言ったけど、それを聞いたところで、母が戻ってくるわけでもなかったし、生きていたとしても母は一笑に付して、そんなことに構わなかったにちがいない。


 その瞬間から、わたしの人生は変わった。
 いいほうに変わったかは、わからなかった。

 ただ、貧乏神は追いかけてこない人生にはなった。
 おそらく永遠に——
 
 わたしは3歳のときから会っていなかった父親にひきとられることになったからだ。


 そして——


 わたし、エヴァ・さくら・金森は、エヴァ・さくら・ガードナーになった。


------------------------------------------------------------

 その場に降りたったとたん、雪まじりの突風が横殴りでふきつけてきた。
 わたしは「きゃっ」と声をあげて、腕で顔のまえを防御した。

「おい、おい、雪山ンなかだ。ここはいったいぜんたい、どこだってぇんだ?」
 風切り音のむこうから、野太い声が聞こえてくる。
「ローガンさん。まずはここが『いつ』なのかを特定するのが先ですよ」
 神経質そうな声が野太い声に応えた。

「ビジェイの言う通りだ。まずはいつの時代かを特定してくれ」
 ふたりにむかって、自信に満ちた重々しい声が命令した。

 わたしは腕を降ろすと、空をみあげた。
 空は晴れ渡っていたが、なにかくすんだものがうごめいてみえた。やけに派手な色合いのフラクタル図形のような幾何学模様が、空の青さのむこうに透けて見えていた。


「紀元前の色っぽいわ」

「紀元前の色? エヴァお嬢さん。そんなものが見えるってんですかい?」
「ええ。とってもきらびやかな色合いが見えてる。キリストが誕生する前の色合いね」
「本当かい? ぼくらにはそんなものは見えやしない」
「だったら、わたしにはそんな能力があるってことじゃないかしら?」
「は。マインド・ダイバーズには、そんな能力はそんなに重要じゃないがね」

 わたしは難癖をつけてきた男のほうをみた。

 ダイブする直前に紹介されたばかりだったが、わたしにあまり好感をもっていないのは、子供心ながらにすぐわかった。

 彼はローガン・ニュートン・ハワード。
 43歳のアフリカ系アメリカ人で、そのおおきな体躯と鍛え抜かれた筋肉、スキンヘッドの容姿は、アメリカン・フットボールの選手か、プロレスラーにしか見えない。

「あら、ローガンさん。マインド・ダイバーズで重要なものってなにかしら?」
 わたしはローガンを見あげながら訊いた。
「エヴァちゃん、そうむきにならないで。ローガンはからかっただけだよ」

 そう言って仲裁にわってはいったのは、ビジェイ・スターン。
 35歳のインド系アメリカ人で、MIT出身の天才と紹介された。昏睡病におかされた人の、前世の記憶に潜る装置の開発を指揮し、ガードナー財団に莫大な利益をもたらせてくれた開発者だ。
 天才肌の人種にありがちの、とても神経質そうな感じは、浅黒い肌でもあごにたくわえた髭でも隠し切れていない。
「まずは、この時代がいつの、どこなのかを策定しようよ」

「ビジェイの言う通りだぞ、さくら」

 そう親しげに声をかけてきたのは……

「エヴァと呼んで、お父様。さくらと呼んでいいのは、お母さんだけって言ったはずよ」

 わたしは父のことばを、ピシャリとはねつけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...