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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第283話 ツイスト 思いがけない真相2
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「殺された!!!」
スピロが言った。凍った息がまるで舌鋒のようにデューの背中に吹きかかる。続けざまにマリアの舌鋒がデューにむかう。
「だれに殺されたんだ! デュー!」
「ああ、マリアさん、それはわかりません」
「わからない。わからないってどういうことなんだい!」
たまらずゾーイも声を荒げる。
「レクミアの身柄移送中に、暴徒に襲われたんです」
「暴徒って、どういうやつらなんだい」
「それがわからないんです。イーストエンドの自警団の連中も混じってたって聞きます。ですが警護の警官もひどくやられて、だれがそこにいたのか、だれが先導したのかも……」
「レクミアさんはどうして……」
セイが先をうながした。
「リンチにあいました。ロンドン中を恐怖に陥れた『切り裂きジャック』ですからね。それでぼろ儲けした連中もいましたが、夜出歩けなくなって、商売が立ち行かなくなった連中のほうが多かったですからね……」
「なぶり殺しですよ。まだ解明できないことはいっぱいあった、というのに……」
ウォルター・デューはその後、わかった数点の事実を伝えてからその場を辞した。
だが目をひくほどのあたらしい事実はなく、本人の決定的な供述もないままだった。
「これで切り裂きジャック事件は、ある意味また迷宮入りした、と言っていいでしょうね」
「なんかスッキリしねぇな」
「でも、これでネル様が切り裂きジャックに襲われる可能性はゼロになりましたわね」
スピロのそのことばに促されるようにして、エヴァはネルのほうをみた。
ネルは首をだらりと垂らして、顔をしたにむけたまま肩をふるわせていた。
泣いてる——?
エヴァは一瞬、そう思った。
が、ちがった——
きゃはははははははははは……
彼女はわらっていた。
醜悪に感じられるほど表情筋をつりあげて、大口をあけて笑っていた。
「おいおい、安心したからって、そんなに大笑いすることかぁ」
マリアはドン引きした様子で言った。
「ちがうのさ、マリア。あはははははは……」
「ち、ちがうってなんだよぉぉ」
「あいつがおっ死んでくれたおかげで、あたいは完全に安全になったのさ」
「ネルさん、そいつはわかってるさ。これでおまえさんがヤツに殺されることは……」
「ゾーイ、あんた、ちっともわかってなんかいない」
「ネル様、それはどういう意味なのです?」
「さすがの名探偵スピロ・クロニスもわかんないってか! そうだろね。あたいのほうが上をいったってことサ」
「ネルさん…… 説明してくれないかい?」
セイがおそるおそるという様子で尋ねた。それまでとはあまりにも違和感のある態度に、さすがのセイも声をかけることすらためらわれたのだろう
ネルはセイを蔑むような目をむけると、下町風の下卑た口調で答えた。
「セイさん、ご苦労様でした! あんたらの活躍であたいは切り裂きジャックに殺されることもなきゃあ、あたいが逮捕されることもなくなったよ」
「逮捕? ネルさん、なにをしたん……」
「エリザベス・ストライドを殺したのさ」
スピロが言った。凍った息がまるで舌鋒のようにデューの背中に吹きかかる。続けざまにマリアの舌鋒がデューにむかう。
「だれに殺されたんだ! デュー!」
「ああ、マリアさん、それはわかりません」
「わからない。わからないってどういうことなんだい!」
たまらずゾーイも声を荒げる。
「レクミアの身柄移送中に、暴徒に襲われたんです」
「暴徒って、どういうやつらなんだい」
「それがわからないんです。イーストエンドの自警団の連中も混じってたって聞きます。ですが警護の警官もひどくやられて、だれがそこにいたのか、だれが先導したのかも……」
「レクミアさんはどうして……」
セイが先をうながした。
「リンチにあいました。ロンドン中を恐怖に陥れた『切り裂きジャック』ですからね。それでぼろ儲けした連中もいましたが、夜出歩けなくなって、商売が立ち行かなくなった連中のほうが多かったですからね……」
「なぶり殺しですよ。まだ解明できないことはいっぱいあった、というのに……」
ウォルター・デューはその後、わかった数点の事実を伝えてからその場を辞した。
だが目をひくほどのあたらしい事実はなく、本人の決定的な供述もないままだった。
「これで切り裂きジャック事件は、ある意味また迷宮入りした、と言っていいでしょうね」
「なんかスッキリしねぇな」
「でも、これでネル様が切り裂きジャックに襲われる可能性はゼロになりましたわね」
スピロのそのことばに促されるようにして、エヴァはネルのほうをみた。
ネルは首をだらりと垂らして、顔をしたにむけたまま肩をふるわせていた。
泣いてる——?
エヴァは一瞬、そう思った。
が、ちがった——
きゃはははははははははは……
彼女はわらっていた。
醜悪に感じられるほど表情筋をつりあげて、大口をあけて笑っていた。
「おいおい、安心したからって、そんなに大笑いすることかぁ」
マリアはドン引きした様子で言った。
「ちがうのさ、マリア。あはははははは……」
「ち、ちがうってなんだよぉぉ」
「あいつがおっ死んでくれたおかげで、あたいは完全に安全になったのさ」
「ネルさん、そいつはわかってるさ。これでおまえさんがヤツに殺されることは……」
「ゾーイ、あんた、ちっともわかってなんかいない」
「ネル様、それはどういう意味なのです?」
「さすがの名探偵スピロ・クロニスもわかんないってか! そうだろね。あたいのほうが上をいったってことサ」
「ネルさん…… 説明してくれないかい?」
セイがおそるおそるという様子で尋ねた。それまでとはあまりにも違和感のある態度に、さすがのセイも声をかけることすらためらわれたのだろう
ネルはセイを蔑むような目をむけると、下町風の下卑た口調で答えた。
「セイさん、ご苦労様でした! あんたらの活躍であたいは切り裂きジャックに殺されることもなきゃあ、あたいが逮捕されることもなくなったよ」
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