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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第274話 あいつがまちがいなく切り裂きジャック
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ピストル・バイクに乗って、上空から俯瞰していたエヴァは、ひと目をさけるようにして、メアリー・ケリーの部屋のある建物に近づいている人影に気づいた。
ついさっき、その建物からは男が立て続けに出てきたばかりだった。
あれが切り裂きジャック——
エヴァはそう確信した。
すこしづつバイクの高度をさげていく。
まだ空は暗かったし、なによりこのロンドンの霧もあるから、見つかることはないはずだ。
地上に近づいていくと、建物の陰に、マリアとゾーイ、デュー刑事たちが潜んでいるのに気づいた。反対側の角には数人の警察官たちと一緒に、コナン・ドイルとモリ・リンタロウが隠れている。見えてないだけで、かなりの数の警官があたりを取り巻いているのかもしれない。
ふいにどこかなにかが破裂する音が聞こえた。
エヴァはドキリとした。
切り裂きジャックにその音が聞こえてないだろうか。
ここで被害者へのアプローチを取りやめたら、切り裂きジャックかどうかがわからない。
あたまのなかにゾーイのことばが飛び込んできた。
『エヴァさん、いまのはセイさんさ。悪魔を退治したらしいよ』
『悪魔? ゾーイさん、やっぱり悪魔はもう一体いたのですか?』
『ああ。セイさんのにらんだ通りだったようだよ』
『わたしはセイさんの思い過ごしだと思ってましたわ。一度失敗させられたから神経質になっているのかと……』
『ああ、あたいもだよ。あれだけド派手な戦いを仕掛けられたんだからね。あれが囮だとは思いもしないさぁ』
『では今度こそ悪魔の邪魔はない、ってことですね』
『ああ、こちらに向ってきている、あいつがまちがいなく「切り裂きジャック」さ』
エヴァは眼下を通り過ぎていく男に目をやった。
黒いコートに黒ズボンの服装は、夜の闇に紛れるためのものなのだろう。黒い帽子をかぶっているので、上空からは顔はよく見えなかったが、この時代のほかの男とおなじく顎髭をたくわえているのだけはわかった。
男がメアリー・ケリーの部屋がある貸間長屋にはいっていった。
まちがいない!
こころがはやる。
エヴァはゆっくりとメアリー・ケリーの部屋の窓のそばまで、ピストル・バイクを下降させた。メアリー・ケリーの部屋は通りに面した側に二つの窓があり、モスリンのカーテンがひかれていた。だが、窓の一枚は割れたままになっていた。
コンコンとドアをノックする音が聞こえて、部屋のなかの住人が動く影がカーテン越しにみえた。
「どうしたの? なにか忘れ物でも?」
メアリー・ケリーがドアのむこうに声をかけた。
さきほど出ていった男が戻ってきたと思ったのだ。
ドアのむこうからの返事は聞こえない。
メアリー・ケリーが内鍵を開ける、カチャッという音がする。
「なぁに。あなたなの? なんの用? わるいけど今日は商売はお終いよ。けっこういい実入りがあったからね」
彼女が知っている人物——
「これを……」
男の声が聞こえた。
その瞬間だった。
ドドドド、という足音が聞こえたかと思うと、数人が一気に部屋になだれこんできた。
エヴァはすぐさま、ピストル・バイクのライトをオンにした。
たちまち眩い光が、部屋のなかを照らしだす。薄手のモスリン生地などは、ものともしない強い光に、なかの人々がおもわず手で目をおおう。
なかから警官の声があがった。
「捕まえたぞ! 切り裂きジャックだ」
ついさっき、その建物からは男が立て続けに出てきたばかりだった。
あれが切り裂きジャック——
エヴァはそう確信した。
すこしづつバイクの高度をさげていく。
まだ空は暗かったし、なによりこのロンドンの霧もあるから、見つかることはないはずだ。
地上に近づいていくと、建物の陰に、マリアとゾーイ、デュー刑事たちが潜んでいるのに気づいた。反対側の角には数人の警察官たちと一緒に、コナン・ドイルとモリ・リンタロウが隠れている。見えてないだけで、かなりの数の警官があたりを取り巻いているのかもしれない。
ふいにどこかなにかが破裂する音が聞こえた。
エヴァはドキリとした。
切り裂きジャックにその音が聞こえてないだろうか。
ここで被害者へのアプローチを取りやめたら、切り裂きジャックかどうかがわからない。
あたまのなかにゾーイのことばが飛び込んできた。
『エヴァさん、いまのはセイさんさ。悪魔を退治したらしいよ』
『悪魔? ゾーイさん、やっぱり悪魔はもう一体いたのですか?』
『ああ。セイさんのにらんだ通りだったようだよ』
『わたしはセイさんの思い過ごしだと思ってましたわ。一度失敗させられたから神経質になっているのかと……』
『ああ、あたいもだよ。あれだけド派手な戦いを仕掛けられたんだからね。あれが囮だとは思いもしないさぁ』
『では今度こそ悪魔の邪魔はない、ってことですね』
『ああ、こちらに向ってきている、あいつがまちがいなく「切り裂きジャック」さ』
エヴァは眼下を通り過ぎていく男に目をやった。
黒いコートに黒ズボンの服装は、夜の闇に紛れるためのものなのだろう。黒い帽子をかぶっているので、上空からは顔はよく見えなかったが、この時代のほかの男とおなじく顎髭をたくわえているのだけはわかった。
男がメアリー・ケリーの部屋がある貸間長屋にはいっていった。
まちがいない!
こころがはやる。
エヴァはゆっくりとメアリー・ケリーの部屋の窓のそばまで、ピストル・バイクを下降させた。メアリー・ケリーの部屋は通りに面した側に二つの窓があり、モスリンのカーテンがひかれていた。だが、窓の一枚は割れたままになっていた。
コンコンとドアをノックする音が聞こえて、部屋のなかの住人が動く影がカーテン越しにみえた。
「どうしたの? なにか忘れ物でも?」
メアリー・ケリーがドアのむこうに声をかけた。
さきほど出ていった男が戻ってきたと思ったのだ。
ドアのむこうからの返事は聞こえない。
メアリー・ケリーが内鍵を開ける、カチャッという音がする。
「なぁに。あなたなの? なんの用? わるいけど今日は商売はお終いよ。けっこういい実入りがあったからね」
彼女が知っている人物——
「これを……」
男の声が聞こえた。
その瞬間だった。
ドドドド、という足音が聞こえたかと思うと、数人が一気に部屋になだれこんできた。
エヴァはすぐさま、ピストル・バイクのライトをオンにした。
たちまち眩い光が、部屋のなかを照らしだす。薄手のモスリン生地などは、ものともしない強い光に、なかの人々がおもわず手で目をおおう。
なかから警官の声があがった。
「捕まえたぞ! 切り裂きジャックだ」
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