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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第246話 四人目のキャサリン・エドウズ現る
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キリがない——
セイは見えない敵との戦いが、これほどまでに厄介だとは思いもしなかった。
気配を察知して、斬りつけるのは造作もなかった。おそらく接触されるほどまで、近くに近づけることはなかったはずだ。それは空気の流れでわかる。
半径、2メートル内に、敵は踏み込めていないのは間違いない。
だが、それが見えない——
全体でどれほどの数がいて、あとどれくらい残っているのかがわからない。どちらの方角が手薄で、どちら方向から援軍がきているのかが、まったく把握できない。
これまでおおくの敵と戦ってきたが、こんなにも戦いにくいことはなかった。
セイは空中に呼びだした数十もの日本刀を、数回振るってから背中にしがみついているネルを気づかった。
「ネルさん、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。それよりあなたのほうは?」
「ぼくは気力も体力もまったく問題ないです。たいした敵じゃないですからね。ただ、こんなにやっつけてる手応えがないのははじめてで、ちょっととまどってます」
「そ、そうね。あたしもワケがわからない。セイさんが倒しまくってるのはわかってるんだけど、そう、斬られた音や倒れた音やらでね。でもいつになったら、ここを抜けでてスピロさんを助けにいけるのぉ?」
ネルの口調は焦りや不安、というより、セイに対する苛立ちがほとんどを占めているように感じた。
「わかってます」
セイは感情的にならないように、フラットな口調で応えた。
「でも切り裂きジャックの凶行を阻止するために、ここを離れるわけにもいかない。スピロを助けにいきたいけど、ここを見張ってくれる援軍がくるまでしのぐしかないんです」
「永遠に見えないモンスターが湧いてでてくるんじゃないのぉ」
「ええ、そうですね。切り裂きジャックが四人目のキャサリン・エドウズさんを手にかけるまでは続くでしょうね」
「それはいつ?」
「そろそろです。第三の事件から四〇分後って聞きました」
そのとき路地の向こう側からひとりの女性が歩いてくるのが見えた。セイは直感した。
こんな時間にこんな場所にくるのは、たったひとりしかいない。
「あれって、ケイト…… ケイト・ケリーじゃないの?」
ネルがうしろから驚いたように叫んだ。
「ケイト?」
「ええ、あたしたちはケイトって呼んでるわ」
「でも……この時間にここに現われたってことは……」
「セイ。あたしたちが本名で商売するわけないでしょう。あたしだって『赤毛ネル』っていう通称使ってンだから」
「じゃあ、あれは……」
「ええ。たぶん、四番目の犠牲者って言ってた、キャサリン・エドウズなんでしょうね」
セイはぐっと拳をにぎりしめた。
セイは見えない敵との戦いが、これほどまでに厄介だとは思いもしなかった。
気配を察知して、斬りつけるのは造作もなかった。おそらく接触されるほどまで、近くに近づけることはなかったはずだ。それは空気の流れでわかる。
半径、2メートル内に、敵は踏み込めていないのは間違いない。
だが、それが見えない——
全体でどれほどの数がいて、あとどれくらい残っているのかがわからない。どちらの方角が手薄で、どちら方向から援軍がきているのかが、まったく把握できない。
これまでおおくの敵と戦ってきたが、こんなにも戦いにくいことはなかった。
セイは空中に呼びだした数十もの日本刀を、数回振るってから背中にしがみついているネルを気づかった。
「ネルさん、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。それよりあなたのほうは?」
「ぼくは気力も体力もまったく問題ないです。たいした敵じゃないですからね。ただ、こんなにやっつけてる手応えがないのははじめてで、ちょっととまどってます」
「そ、そうね。あたしもワケがわからない。セイさんが倒しまくってるのはわかってるんだけど、そう、斬られた音や倒れた音やらでね。でもいつになったら、ここを抜けでてスピロさんを助けにいけるのぉ?」
ネルの口調は焦りや不安、というより、セイに対する苛立ちがほとんどを占めているように感じた。
「わかってます」
セイは感情的にならないように、フラットな口調で応えた。
「でも切り裂きジャックの凶行を阻止するために、ここを離れるわけにもいかない。スピロを助けにいきたいけど、ここを見張ってくれる援軍がくるまでしのぐしかないんです」
「永遠に見えないモンスターが湧いてでてくるんじゃないのぉ」
「ええ、そうですね。切り裂きジャックが四人目のキャサリン・エドウズさんを手にかけるまでは続くでしょうね」
「それはいつ?」
「そろそろです。第三の事件から四〇分後って聞きました」
そのとき路地の向こう側からひとりの女性が歩いてくるのが見えた。セイは直感した。
こんな時間にこんな場所にくるのは、たったひとりしかいない。
「あれって、ケイト…… ケイト・ケリーじゃないの?」
ネルがうしろから驚いたように叫んだ。
「ケイト?」
「ええ、あたしたちはケイトって呼んでるわ」
「でも……この時間にここに現われたってことは……」
「セイ。あたしたちが本名で商売するわけないでしょう。あたしだって『赤毛ネル』っていう通称使ってンだから」
「じゃあ、あれは……」
「ええ。たぶん、四番目の犠牲者って言ってた、キャサリン・エドウズなんでしょうね」
セイはぐっと拳をにぎりしめた。
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